欧州のバス・トラック市場でトップクラスのシェアを持つイタリアのIVECO社が、日本国内で天然ガス自動車の普及を目指すという衝撃的な発表があった。これは9月6日にイタリア大使館で催された「IVECO社日本進出プレス発表」で明らかになったもの。日本国内のバス・トラック市場に新たな潮流となるのか? その発表内容を検証してみたい。
今回の発表は、岡山に本社を置く両備グループがIVECO社とタッグを組み、まずは欧州でシェアを伸ばしている天然ガスを燃料とするバス・トラックを日本国内の規格に合ったものにする準備をするというもの。関係者によると「2018年度内には実現させたい」という、かなりスピード感のあるシナリオだった。
両備グループはバス、タクシー、フェリーといった交通部門、トラック輸送の運輸部門を持つ企業グループで、およそ50社のグループ全体で2400台もの車両を運行している。両備グループは2010年5月に『エコ公共交通大国構想』を発表し、「これからの人の移動はマイカー中心から、公共交通の利用を進め、環境問題や健康問題に対応することが大事であり、エコでバリアフリー、そして高度にIT化された公共交通に日本も思い切って転換すべきである」という提言を行った。それ故に、両備グループがLNGやCNGといった天然ガス燃料のバス・トラックを導入することは至極当然の流れでもあるのだ。
IVECO社のピエール・ラウッテ社長は「天然ガスは夢ではありません。IVECOにとっては“現実”なのです。すでに2万5000台の販売実績があり、我々はこの分野のリーダーであり、天然ガスは95%ものCO2を削減できるという大きなメリットがあります」と、日本市場での成功は確実であるという旨の発言をした。
この発表会の壇上に立ったマリアローザ・バローニNGVインターナショナルアカデミー会長兼NGVイタリー会長はコスト面のメリットを訴求。「EVやハイブリッド車、水素カーは重要であるが結果ではありません。本当の答えは、メタンとバイオメタンしかないと考えています。なぜならコストの問題があり、バスを例に挙げれば、EVは天然ガス車の3倍、水素カーに至っては5倍もするのです」
ただし、日本市場での本格的な普及には高いハードルがある。両備グループ代表兼CEOの小嶋光信氏は「天然ガスのスタンドの普及がこれからであること、車両が日本の実情に十分対応できるかなどの検証がいることを含め、課題は山積しています。しかし『エコ公共交通大国構想』の実現に向けて両備グループあげて努力していきたいと思います」とのコメントを残している。
また、両備グループの松田敏之副社長は、プレミアム夜行バスを展開するドリームスリーパーでの車両導入を示唆しており、ディーゼルエンジンと比較すると静粛性に優る天然ガスのバス導入へのメリットを訴求した。
今後の詳細なタイムスケジュールは明らかにされなかったものの、日本仕様の開発とインフラの整備が進めばバス・トラックの市場が激変する可能性がある。しかし、今回発表されたのは、あくまでも両備グループがIVECO社とのバス・トラック事業における協力関係の構築に向けた検討分析開始の覚書を締結した、というものである。その第一歩がどのようものになるか? 日本のバス・トラック業界が震撼させる大きな“事件”へと発展する可能性を秘めている。