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知っているようで知らない?「外来種」とは何か、ご存じですか?


ワニガメやカミツキガメが日本の湖沼で大繁殖!危険な外国のアリが貿易港のコンテナで発見された!などなど近年話題となって耳にする機会も多い「外来種」。通常、日本の在来固有種の生息地を奪ったり、捕食したりする悪者・嫌われ者のイメージが強いのではないでしょうか。けれど本当に外来種は悪なのでしょうか?そもそも外来種って何なのでしょうか。

在来種スジグロシロチョウと外来種の菜の花。生物同士の関係性は複雑です

在来種スジグロシロチョウと外来種の菜の花。生物同士の関係性は複雑です


ややこしすぎる「〇〇外来種」多発問題。外来種定義を整理してみましょう

古池や掘割の水を抜き、生息する外来種を駆除するテレビ番組が人気を博すなど、報道バラエティの話題で取り上げられることの多い「外来種」。
「外来種」、正確には外来生物とは、「意図的・非意図的を問わず、本来自然状態で生息していた地域外に人為的に移送された生物種」のことを指します。人間の保管(飼育・栽培)から逸出して、本来の生息域とは違う地域の野生下で定着・帰化した生物のことを言い、現状判明しているもので、日本には約2,000種の外国由来外来生物が野生化していると言われています。

本来、外来種は「国家」という人間社会が作り出した境界の内外を問いません。国内であっても、その地域にしか分布していない生物が、国内の他の地域に移入されれば外来種であり、この場合は「国内由来外来種」と限定した呼び方をします。なぜなら、外来生物法では、外来生物を「海外から我が国に導入されることによりその本来の生息地又は生育地の外に存することとなる生物」と定義しているために、自国内からの外来種は除外されてしまうからです(一般的意味と法的な意味に齟齬が生じています)。

さて、この外来生物法、正式法律名は「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」と言います。「特定外来生物」とは「もともと日本にはいなかった生物(外来生物)であって、生態系、人の身体・生命、農林水産業などに影響を及ぼすおそれがあるものとして特に指定された生物」と定義され、現在156種の動植物が指定されています。環境省では、明治時代以降の貿易が盛んになった近現代に移入した種に限り、特定外来生物として扱っています。

一方、法律、法令、条例とは別に、日本生態学会により別個に提議されたのが「侵略的外来生物」。「地域の自然環境に大きな影響を与え、生物多様性を脅かすおそれのある外来種」のことを指し、国際自然保護連合(IUCN)の定めた「世界の侵略的外来種ワースト100」に倣い、2003年「日本の侵略的外来種ワースト100」が選定されました。
くわえて、環境省の下部組織である国立環境研究所では、「侵入生物リスト」を公開しています。簡単に解説しましたが、正直ややこしすぎますよね。

怪獣のようなカミツキガメ(特定外来生物)。日本の湖沼で大繁殖しています

怪獣のようなカミツキガメ(特定外来生物)。日本の湖沼で大繁殖しています


外来種対策の紆余曲折と迷走。本当に必要な対策とは

なぜこのようなことになるかというと、外来生物の洗い出しには、
(1) 自然(生態系と生物多様性)の保持保全
(2) 人体への直接的危害防止
(3) 農林水産業など生産活動への損害防除
(4) 歴史的に飼養される外国由来生物(犬・猫・牛・馬など)や栽培種の扱いとの調整

といった多様な目的が存在し、ターゲットとなる種が異なっていたり対立したり、重要度に差異が出るなどの齟齬が生じるためです。ちなみに特定外来生物や侵入生物のリストには、現在日本で野生化が確認されていないが、将来の移入を未然に防ぐためにリストアップされた種も多数混在します。

このように百花繚乱のごとく「〇〇外来種(外来生物)」があるにも関わらず、それらのリストはどれも使い勝手がよいとは言えません。
なぜなら、自然の生態系にとって害となる生物、人間の産業にとって害となる生物、人間の生活に脅威となる生物は、それぞれ異なるにも関わらず、それらがごちゃまぜでリストアップされてしまっているからです。しかも特定外来生物では、明治以前の外来種や国内外来種は指定されていませんから、たとえば都市部での繁殖事例が多く報告され、果樹の食害や家屋侵入などの被害が報告されるハクビシンは指定されていません。

逆に、近年関東地方に定着した外来種アカボシゴマダラは、国内を南島から台風に乗って移動し、分布域を本州に広げた国内外来種とも考えられるのに、また特に侵入地域での生態系攪乱は確認されていないのに、大陸由来の外国種が放蝶されたと推断されて特定外来種に指定されています。

外来種の中には、凶悪に在来種のニッチを奪い、生態系にダメージをもたらす種も存在します。アメリカザリガニやウシガエル、ブルーギル、水流自体を阻害するほどの大繁殖を見せるホテイアオイやナガエツルノゲイトウ、森林に深刻な枯死をもたらすカシノナガキクイムシなど、看過できない被害をもたらす一部の種には、人間による介入・コントロールが不可欠です。

けれども一方で、森林に重大な食害をもたらすニホンジカの大増加、人体に危害をおよぼすマダニやヤマビル、スズメバチやクマ、人間による水系の富栄養化で大繁殖して水質悪化をもたらすヒシなど、在来種であっても環境や社会にとって不都合な種は多く存在します。

在来種、外来種という区分や、センセーショナルなレッテルを貼るのではなく、何に対してどのような正負の影響があるのかを追跡分類し、それぞれの種ごとの対策を行うきめ細かな指針が必要なのではないでしょうか。「在来種の脅威となる外来生物」「産業の脅威となる外来・在来生物」「生活圏の脅威となる外来・在来生物」というようにです。

中世頃に渡来して帰化したと考えられるハクビシン。しかし特定外来種指定外です

中世頃に渡来して帰化したと考えられるハクビシン。しかし特定外来種指定外です


自然「復元」に向けて今見直される外来種の重要性

ともかく外来種と言うと、近年では特に悪者扱いされ、恐れられ嫌われてしまいがちですが、それは正しい認識なのでしょうか。
春の野辺に輝く菜の花(アブラナ)もモンシロチョウも、夏の夜に灯るツキミソウも、秋の草原にそよぐコスモスも、今や季節の彩りに欠かせないキンモクセイもヒガンバナも外来種です。
百人一首などの古典で有名な鳥・カササギも日本には自然分布しない外来種で、やはり外来種のシラコバトとともに、国の天然記念物に指定されています。外来種が作り上げた日本文化の事例は事欠かず、これらを抹消した日本の風土情緒はもはや成り立ちがたいでしょう。

そもそも私たち日本人が主食としているお米(Oryza sativa subsp. japonica)自体が外来種です。この外来種を栽培するために、在来の生物を農薬等で殺処分することは害悪である、ということになってしまいます。

外来種が生態系への有害因子だ、とする断定的言説への疑義すら、近年多く出てきているようです。
アメリカの北大西洋沿岸では、人為的海洋汚染や乱獲、海洋の水温変化などで在来の干潟の生態系が著しく衰退していました。この状況下、輸入された日本のマガキとともに侵入したと推測される紅藻の一種オゴノリ(於胡海苔 Gracilaria vermiculophylla)が各地に繁殖。その結果、害となるよりも、在来のエビやカニ、稚魚の生育が以前より回復し、生物多様性に改善が見られた、ということが判明したのです。

日本の北海道の知床国立公園の森林層では、近年エゾシカの森林への食害や強風などによる森林の衰弱と生物密度の衰退が顕著で、このため国内外来種である本州のカラマツを人工植林する森林回復の試みが実施されており、カラマツを植林したエリアでは、シカによる過採食の中で植生が多く残存し、在来種の生育維持に外来種のカラマツが貢献していることが確認されました。

戦後、爆発的に繁殖した外来種モンシロチョウに生息域を奪われ、絶滅の危機にあった在来種のスジグロシロチョウを救ったのは、外来種のムラサキハナナでした。
つまり、衰退した自然環境=攪乱地における自然環境回復のパイオニア的な役割や生態系の欠けたパーツを補完する役割を一部の強壮な外来種が果たしていたのです。

「外来種を持ち込み生態系を破壊しているのは人間だ、外来種は悪くない」という短絡的な話ではないのです。在来種や外来種という人間の作った区分を無理に当てはめて是非を決めてしまわず、その生物がどのようなふるまいをし、どう他の生物や環境と関わっているかを丁寧に観察し、謙虚に学ぶ姿勢で、より多くの生き物との共生の道を考えるべきなのではないか、と考えます。

この時期美しい群落を見せるオオキンケイギク。これも特定外来生物です

この時期美しい群落を見せるオオキンケイギク。これも特定外来生物です

かつて人類は、地球資源や生物の生態系のことを考えず、邪魔な生き物は排除する、という姿勢で自然破壊や大量絶滅を引き起こしてきました。「外来種はともかく悪い!駆逐すべき」という一方的な行いや考え方は、その時代と少しも変わらず、生物や自然に対する敬意を欠いたものではないでしょうか。

実際には私たちの知見は自然や生物の仕組みを解明するには程遠い位置にあり、知れば知るほど日々、新たな謎や疑問が出現しています。自然保護や生態系保全と人間社会の存続との望ましい調和的方法論は模索の途上にあるのです。在来種、外来種という「言葉」による予断や偏見を持たずに、未来につなげていく謙虚な姿勢を決して失うべきではない、と考えます。


(参考・参照)
日本の外来種全種リスト - 侵入生物データベース|国立研究開発法人国立環境研究所
ニホンヤモリは外来種だった!遺伝子と古文書で解明したヤモリと人の3千年史|東北大学 大学院 生命科学研究科
農村の生態系とその特質|農林水産省
忘れ去られていた英国のカエルが絶滅危惧種から復活するまで | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)
外来種は悪でない? 日本のオゴノリ、北米で生態系回復に一役 AFPBB News
外来種が自然復元を手助け!? ―世界自然遺産 知床の森における外来種の役割|横浜国立大学 大学院環境情報学府
特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律 | e-Gov法令検索
一般社団法人日本生態学会

日本の文化や自然とともに共存してきたニホンヤモリ。何と外来種でした

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