2022年も、初頭からしぶんぎ座流星群、西の空の惑星集合、そして今年一番のマイクロムーンなど天体イベントが話題となっていますが、そんな中、きわめて地味ながら、1月17日、太陽系最果てに位置する準惑星(dwarf planet)冥王星と太陽がやぎ座で合となります。2015年のNASAの探査宇宙船ニューホライズンズによる観測まで、姿すらおぼろげにしかわからなかった冥王星。かつては太陽系第9惑星ともされ、太陽系天文学の議論の的ともなった神秘の星について探っていきましょう。
冥王星が「惑星」ではなくなった経緯とは?
「合」とは、太陽系天体の場合、運行する二つの天体が地球から見てほぼ同じ位置に来ること、二つの天体が重なって見えることで、つまりこのとき地球と二つの天体が一直線に並んでいることになります。
現在やぎ座に滞留する冥王星と、やぎ座に入った太陽とが1月17日に重なり、合となります。太陽の後ろに入るため、もちろんその様子は観察はできませんが、普段から決して肉眼では見えないし、望遠鏡でも個人所有のレベルでは見ることができない冥王星を、昼間太陽を見ながらその後ろにあるのだということをイメージするのは面白い体験ではないでしょうか。
冥王星(Pluto 小惑星番号134340)は、1930年に、アメリカのローウェル天文台のクライド・W・トンボー(Clyde William Tombaugh)の観測撮影により発見され、太陽系第9惑星として登録されました。 Plutoという名称は公募により決められました。ローマ神話の冥界の神・プルートーに由来します。プルートーはギリシャ神話ではハーデス。天帝ゼウスと海神ポセイドンは兄弟神になります。
昭和の時代に小学生だった世代なら、太陽系の惑星を太陽に近い順に並べて覚えるための成句「水金地火木土天海冥(すいきんちかもくどてんかいめい)」を誰もがそらんじていて、太陽系の9つの惑星を順番も間違えず言えたものでした。20世紀に入って発見された冥王星は、最新の惑星としての地位をゆるぎなく得ていました。
これが2006年に国際天文学連合の激しい議論の応酬の末に「惑星ではない」という決定がなされて、事実上の「格下げ」が行われたのです。当時落胆や戸惑いの声が多く聞かれたことは記憶にも新しいところです。
冥王星は発見当時、地球と同サイズかそれ以上の大きさを持つと考えられてきました。それは、冥王星のアルベド(反射能。どれだけ受けた光を反射するかを表す数値)が高いことと、最大の衛星カロンが当時の観測技術では冥王星と別の天体であることが判別できず、冥王星の推計質量と輝度に加えられていたためです。
しかし時代を経るにつれ、冥王星が思いのほか小型であることと、海王星軌道の外側から50auほどの空間にリング状に散在する小天体の大集団帯エッジワース・カイパーベルト (Edgeworth-Kuiper belt) の発見、さらにはエッジワース・カイパーベルトのうち冥王星と軌道を共有する天体が1993年に発見され、その後も続々と同様の天体が見つかり、その中には冥王星と匹敵する規模の天体も多くあり、これらをまとめて「冥王星族(Plutino)」なるカテゴリーが生まれました。こうなると、一時期太陽系第五惑星とされたケレスが、アステロイドベルトに軌道を共有する天体が多く見つかったことで降格となったように、冥王星も「単体で軌道の質量の大部分を占める」という惑星の定義から外れ、「準惑星=dwarf planet」という新しい概念で括られる天体となったわけです。
遂に判明した「冥界の王」の姿。そこには輝くハート模様が!
冥王星は、太陽からの平均距離は約59億km(約39.44au。1auが地球と太陽の距離なので、その40倍離れたかなたにあることになります)。ですが、他の8個の惑星と準惑星ケレスのように太陽をほぼ中心に置いた同心円ではなく、遠日点(太陽から最も離れる距離)では約49.3auとほぼ地球の50倍離れ、近日点(太陽に最も近づく距離)では約29.57auと、極端に中心が太陽とずれた楕円を描いていて、近日点付近では、海王星の軌道よりも太陽に近くなります。海王星の軌道よりも内側に入る期間は約13年と約20年を交互に繰り返し、もっとも最近では1979年から1999年の20年間でした。また公転軌道も、他の惑星が地球の軌道とほぼ同じ平面付近で軌道を描くのに対し、黄道(地球の公転軌道)から17°以上も傾いていて、惑星軌道と彗星軌道の中間のような独特のものです。
赤道直径は2,370kmで、もっとも小さい惑星である水星(4,880km)よりもずっと小さく、地球の衛星の月(3,476km)の2/3ほどしかありません。その距離と小ささから、観測は極めて困難で、2006年に打ち上げられた太陽系外天体、わけても冥王星探査のための探査船ニューホライズンズ(探査機には、冥王星発見者トンボーの遺灰が収められています)の観測撮影以前には、うっすらとした濃淡がわかる程度の姿しか判明していませんでした。
2015年に送信されてきた冥王星とその第一衛星カロンの鮮明な映像は、関係者や専門家のみならず世界中の度肝を抜くものでした。
冥王星の姿は、太陽系のどの惑星とも似ても似つかぬものでした。黄色がかった乳白色の地色に、血染みのような赤褐色の斑紋がじわじわと複雑な模様を蔦のように広げていますが、赤道付近には斑紋がまったくなく地色が大きく広がった巨大なハート模様が浮き上がって、ひときわ目を引きます。冥王の星は、他のどの星よりも不思議になまめかしく、深海の妖しい生物のようです。
冥王星の組成は、平均密度は1.852g立方センチメートルと、ガス惑星の中ではもっとも密度の高い海王星よりは高いものの岩石惑星よりは小さく、水と窒素と一酸化炭素の氷結した、いわば氷の惑星です。この「氷の大地(あるいは完全氷結した海)」に溶岩ではなくシャーベットのような氷を噴き出す高さ数キロのロッキー山脈に匹敵する山脈や氷を噴き出すカルデラ「火山」、渓谷を流れる氷河、巨大な裂溝など複雑な地形が形作られています。これらの「地形」は水の氷でできていて、窒素や一酸化炭素の氷よりも軽いために、それらで生成された凍った海の上に、水の氷でできた地形が氷山のように浮いているのだと考えられます。
幻の第九惑星ついに見つかる?プラネットナインの詳細は
冥王星には現在五つの衛星があることが確認されています。前述したカロンは、冥王星の1/7ほどもある巨大な衛星で、冥王星は本体とカロンの二重連星であるという見立てもあります。
カロン(Charon)は、ギリシャ神話の冥府の川の渡し守・カローン(Charōn) に由来します。
ニクス(Nix)はカローンの母で、多くの幽冥界の神々(眠り、夢、死など)を生んだ夜の女神ニュクス(Nýx)から。
ヒドラ(Hydra)は、九つの頭を持つ大蛇で不死身ともされる怪物ヒュドラ(Hýdrā)から。
ケルベロス(Kerberos)は、冥府の出入り口を守る三つの頭を持つ番犬ケルベロス(Kérberos)から。
ステュクス(Styx)は、冥府を流れる大河、またはその神格であるステュクス(Styx)から。
このように、冥府の王プルートーには、多くの魔界の眷属が付き従い、太陽系の最果ては魑魅魍魎の巣窟のイメージにあふれています。冥王星族とはまた別の、冥王星型天体(Plutoid 太陽系外縁天体)には、血と殺戮と不和の女神で、蛇髪をもつエリス(Eris)から名付けられた準惑星もあり、何とも禍々しいかぎりですが、一方でハワイの豊穣の女神ハウメア(Haumea)やイースター島の創造神マケマケ(Makemake)といったかわいい名前の準惑星もあります。
冥王星の公転周期は247.74年、自転(一日の長さ)は地球時間に換算して6日と9時間というゆったりとしたもの。毎年一度地球に追い抜かれる際に五か月の逆行期間を持ちます。その歩みは太陽を一周する間に、248年かけて毛糸のマフラーを編んでいくようなものでしょうか。乳白色のハートをもつこの星は、むしろ平和をあらわす星なのかもしれません。
さて、冥王星が降格したことで空位になった太陽系第9惑星(プラネットナイン)ですが、昨年、いよいよ見つかるかもしれない、というニュースが流れました。関連論文はそれ以前から出ているものですが、よりその精度と方角、惑星規模が明確になりつつあるということです。
その星は、太陽を凡そ7,400年かけて周回し、現在は天の川を背景にした星の密集した天球を移動しているため、非常に見つけにくい状況にあると言います。そして質量は地球の約6倍、太陽系最大の大きな岩石惑星か、海王星よりは少し小さいガス惑星かであろう、ということです。
あるとしたら、冥王星のさらに30倍もの年月をかけて太陽を周る星。それをはたして太陽系の星と言えるんだろうか、という気がしなくもありませんが、オカルティックな見方では、惑星の発見と人類の意識・感覚の進化は同期していて、人類のステージアップにつれて星が発見され、最終的には全部で12の惑星が見つかるであろう、という説もあります。
それはともかく、2023年にはチリで最新鋭の宇宙望遠鏡の稼働がはじまり、より遠くの暗い星の観測も可能になると言われていますから、冥王星発見から奇しくもちょうど100年の2030年前後に、「プラネットナイン」が見つかった、という大ニュースが流れてくるかもしれませんね。
(参考・参照)
2022年1月の天文現象カレンダー - アストロアーツ
太陽系に未知の惑星、99.6%存在、天の川の方向/ナショナルジオグラフィック日本版サイト