10月に入りましたね。「秋高し」という季語があるように、秋は空が澄み、高く広く感じる季節。二十四節気では、10月8日からの、露が寒さで濁る意の「寒露」、23日からは、初霜の降りるころの意「降霜」と続き、早くも秋が終わりに近づこうとしています。
さて、秋はさまざまなものが実る季節ですね。果実や木の実、田んぼも畑も収穫の最盛期を迎えます。秋の歳時記の植物のカテゴリーには、実りの秋の季語がたくさん載っているのです。
そこで今回は、それらを象徴する季語「豊の秋(とよのあき)」にちなみ、秋の植物の特徴や種類などを調べてみました。
秋を代表する季語「稲」と「豆」
まずは実りといえば、日本の主食であり、国民食であるお米は外せませんね。そして、醤油や味噌などの調味料である大豆。これらの植物はどんな特徴があるのでしょうか。
○この時期だけの「新米」
早くは8月から、10月には最も多く出まわるのが新米です。日本人にとって白く輝く新米を食べることは、一年で最も楽しみな時期といえるでしょう。
稲作が日本で開始されたのは縄文後期との説が有力だそうで、中国経由で九州北部に渡来、その後千年前くらいには東北、北海道に伝わったのは明治後期といわれています。もともと稲は、インドや東南アジア原産の熱帯植物であったため、日本で栽培するのには多くの工夫と手間がかかったそうです。しかし、日本人の研究の熱心さと技術によって、世界最高水準の米作りが行われるようになり、日本の食生活を形成したといわれています。また、品種改良においては数千種を超えるといわれ、現在の米の種類は560種、家庭で食べるお米は274種もあるのだそうです(農林水産省HP:平成29年度調べ)。さらに、近年の温暖化にも強い稲がすでに改良されているというのですから、さすが日本の技術力ですね。
○畑の肉といえば「大豆」
大豆はマメ科の一年草で、中国の東北部から華北が原産地。もともと野生の野豆(のまめ)から栽培品種として発達してきました。中国では四千年前から栽培、日本には弥生時代に渡来したらしく、『古事記』や『日本書紀』にはすでに記述されていたそう。豆といえば、夏に食べる枝豆もありますが、さらに成長させて納豆・豆腐・味噌などの原料となる大豆は秋に収穫します。19世紀に中国や日本、ヨーロッパ経由で導入されたアメリカは、現在、世界の大豆生産量1位の大豆大国となっています。実は、黒船で有名なペルーが、幕末に日本から大豆の種を持ち帰ったことも一因といわれていて、国産大豆の生産が減っている昨今アメリカから大豆を輸入しているのも不思議なことですね。「新豆腐」は収穫した大豆で作った豆腐のこと。
その他の実りの秋の季語
スーパーなどに並んでいる色とりどりの果実や野菜は、ほとんどが秋の季語といっていいでしょう。リンゴやナシ、ぶどうに柿、カボチャや芋などの野菜も秋の実りの一部です。けれども、一年中あるもの、間違えやすいものも秋の季語となっています。これらをまとめてピックアップしました。
○「蜜柑」と「青蜜柑」
蜜柑(みかん)は樹になる実ですから、秋の季語なのでは?と思いがちですよね。実は蜜柑の旬は冬なので冬の季語。秋に出まわる青蜜柑が秋の季語です。では、他の柑橘系はというと、檸檬(れもん)・橙(だいだい)・かぼす・柚子・きんかん・九年母(くねんぼ)などは秋の季語ですが、夏蜜柑だけは違います。夏蜜柑は、春が食べごろなので春の季語となっています。
○「蕎麦」と「新蕎麦」
この時季に蕎麦屋で新蕎麦の品書きを見かけませんか? そう、新米と同じく、新蕎麦を楽しみにしている方も多いのではないでしょうか。蕎麦の収穫は、夏と秋に行われますが、単に新蕎麦というと秋蕎麦を指すそうです。従って、一年中食べられる蕎麦も秋の恵みということになりますね。蕎麦は気温の低い高地が栽培に適し、やせ地でも栽培できるすぐれもの。白い小花をつける蕎麦の花も秋の風物詩となっています。「走り蕎麦」は、その年の最初の蕎麦。
○動物にとって大切な「木の実」
実りの秋は人間だけのものではありません。動物も木の実が大好き。山に自生する果実や木の実は、鳥や冬眠前の動物にとって大事なものなのです。植物にとっても、動物のフンによって子孫が運ばれ生存が確保されます。しかし、森林伐採や温暖化で木の実が確保できなくなった動物たちは、人間の住む領域までえさを求めるようになりました。豊かな山の恵みが、人間と動物の共存を可能にしているのですね。
(参照:俳句歳時記(春~新年) 角川学芸出版 角川文庫/入門歳時記 大野林火・著 角川学芸出版/広辞苑/明鏡国語辞典)
恵みの秋に感謝を
──言葉や漢字の成り立ちを知ることは、日常生活に膨らみを持たせてくれるはず。
“豊”という字は、物が多い・ゆたか・ふくよかの意味を持ち、五穀豊穣、豊作、豊漁などの言葉が生まれました。そこには、生きとし生きるものの願いと感謝が宿っているのです。あらためて、豊の秋という季語が、いかに大きいかを感じていただけたのではないでしょうか。