週末からの3連休は、クリスマス・イベントが目白押しですね。
日本でもこのところ人気の音楽「ゴスペル」。今やクリスマスコンサートの定番といっても過言ではありません。力強いサウンドやリズム感は、気分を高揚させて元気をもらえるパワーがありますね。今回は、ゴスペルの知られざる悲しい歴史と、日本でもよく耳にするゴスペルのスタンダード・ナンバー「聖者の行進」に込められた真の意味を紐解いてみましょう。
ゴスペルの本来の意味と、ふたつの異なるゴスペルの存在
ゴスペル (Gospel) は英語の「God Spell」から成り立った言葉で、「福音」「福音書」を意味します。もとは、Good Spell(Good News=よい知らせ)が語源で、転化して「神の言葉」をあらわす「God Spell」となりました。そのため、音楽としてのゴスペルは「福音音楽」を意味し、本来はキリスト教プロテスタント系の宗教音楽として教会で歌われてきました。
ゴスペル音楽には、ふたつの種類があるのをご存知でしょうか。ひとつは、アメリカの黒人教会(Black Church)で歌われてきた「ブラック・ゴスペル」。そして、アメリカ南部の州で白人のミュージシャンが歌っていた「ホワイト・ゴスペル」です。現在、一般的にゴスペルと呼ばれるのは、ブラック・ゴスペルのこと。ホワイト・ゴスペルは、コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージックと呼ばれています。このように、ふたつのゴスペルが存在する背景には、アメリカの奴隷制度の歴史が影を落としているのです。
悲痛な奴隷制度の歴史から生まれた魂の叫び、ブラック・ゴスペル
アメリカ合衆国で奴隷制度が合法化されていた17世紀半ばから、憲法で公式に廃止される1865年までに多くの人々がアフリカ大陸から奴隷として連行されました。このようなアフリカ系アメリカ人は、彼らの宗教や文化を奪われ苦しい生活を強いられるなかで、キリスト教の福音(ゴスペル)に救いを求めたのです。魂の救済を願い、神に感謝と賛美を捧げるために密かに歌いはじめたのが、ゴスペルのルーツといわれています。
奴隷制度が廃止されてからも厳しい人種差別は続き、アフリカ系アメリカ人は教会にも入ることができなかったため、独自の集会を開き礼拝を行いました。このような黒人教会で歌い継がれ、発展していったのがゴスペルでした。苦しい現実に耐え、明日への希望を見出すための魂の叫びが、神を讃え、神とともに生きる喜びの歌として表現されているのです。心に安らぎを与えてくれるゴスペルの力強さは、人々の祈りのエネルギーが込められているからなのかもしれませんね。
葬送行進曲だった!?ゴスペルのスタンダード・ナンバー『聖者の行進』
「聖者が街にやってくる」「聖者の行進」として、日本でも知られているこの曲。アップテンポで元気な曲調なので、運動会やパレード行進曲として使われることが多いですね。アメリカではゴスペルのスタンダードとして親しまれており、起源は奴隷たちによる黒人霊歌。ニューオリンズ出身のルイ・アームストロングが取り入れたことで、ジャズのスタンダードとしても演奏されています。
アフリカ系アメリカ人が多く住んでいた南部ルイジアナ州のニューオリンズでは、葬儀の時に墓地までは静かな賛美歌や葬送曲を奏で、埋葬が終わると帰路は明るいアップテンポの曲を演奏する風習があったそうです。なぜ、人々は明るい曲で死者を見送ったのでしょうか。「聖者の行進」のタイトル「The Saints Go Marching In 」は、聖者(死者)が天国に通じる門に入って行くこと意味しています。「聖者の行進」は、魂が解放されて、天国へ行くことを祝う歌。奴隷としての辛い労働から解放されて、天国に行くことは喜ばしいこと、そのため明るく天国に送り出そう、という人々の思いがこの曲を生んだのです。
ゴスペルの音楽には、厳しい現実を生き抜く人々の知恵と魂の叫びが込められています。一年の終わりを迎えるこの季節、祈りの音楽であるゴスペルのエネルギーにふれてみてはいかがでしょうか。