1月25日より、大寒次候「水沢腹堅(さわみずあつくかたし)」となります。「暦便覧」では大寒のころを「冷ゆることの至りて甚だしきときなれば也」としていますが、実際1月の下旬から2月初頭の節分ごろまでが、一年で平均気温がもっとも低く寒い時期となります。草木は眠ったように枯れ落ち、花も少なく淋しく感じられますが、身近な地域での野鳥観察には最適の季節でもあります。
一年を締めくくる大寒三候の日中七十二候を比べてみよう
本朝七十二候では、貞享暦から大寒の次候を「水沢腹堅」としていますが、中国の宣明暦では、大寒の末候、つまり第七十二候、一年の最後の候が「水沢腹堅」となっています。宣明暦の七十二候は節気ごとに一文でつながっていますので、大寒の三候をつなげるとこうなります。
鶏始乳、鷙鳥厲疾、水沢腹堅。
「地上では鶏が春の気配を感じて卵を産む鳥屋に入り、高い空では冬を生き抜いた誇り高き猛禽たちが寒風を吹き払うように飛び回る。しかれども未だ沢の水は分厚く凍り付いている。」
と言ったところでしょうか。自然の中で生き抜く命のたくましさとぬくもりを、地上の鶏と天空の鷲とでダイナミックに対比させながら表現し、その命の躍動・熱と対峙してゆるがない冬の自然の冷たさ・厳しさ。何という峻厳で張りつめた光景でしょうか。
一年のめぐりの最後を飾るにふさわしい美しい三候です。
日本の本朝七十二候の大寒三候はだいぶ趣が異なります。宣明暦風につなげてみると、
款冬華、水沢腹堅、鶏始乳。
「蕗のつぼみがひらきはじめたけれど、沢の水は未だ厚く凍っている。そして春のおとずれの気配を感じた鶏は卵を産むため鳥屋に入っていく。」
二候までが順番は違っても同じ言葉なのに、こちらは日本風の「雛ごころ」を感じさせるかわいらしい印象を受けます。春を間近に控えた里の晩冬ののどかな景色を見るようです。最後に未来と温もりを感じさせる「鶏始乳」をもって締めるのは、繊細な機微に富んでいて、ダイナミックさや雄大さはないものの、捨てがたい味がありますね。皆さんはどちらが好きですか?
「春告げ鳥」ウグイス。冬は用心深いウグイスを身近で観察できるチャンスです!
春になると聞こえてくるのはウグイス(鶯 Horornis diphone)の「ホーホケキョ」という独特の高らかなさえずり。このためウグイスは別名「春告げ鳥」といわれます。
けれどもウグイスは、春になるとどこか別の土地からやって来る渡り鳥ではなく、ずっと同じ地で暮らす留鳥です。
つまり、冬の間も私たちのごく身近にいるのです。ウグイスは基本的に暗い森林や高い山などを好まず、平地の笹やぶや竹やぶなどの叢に単独で住んでいて、主に昆虫類、冬には植物の種子や木の実などを食べています。
公園の植栽によく見られるアゼリアやつつじ、レンギョウなどの低い植え込みの中は、ウグイスが好む棲家。非常に用心深い鳥で、滅多に人前に姿を現しません。あの「ホーホケキョ」という高鳴きは、オス鳥の繁殖期のテリトリーアピールとメスへの求愛のためで、普段の鳴き声(地鳴き)は、「チャッ」「チョッ」と言った短く低い鳴き声で、草むらの奥に潜んでいます。
冬は低木の葉も落ちきったり、まばらになるので、草むらの中にいるウグイスをすぐそばで見られるチャンスです。
いそうだなと匂う植え込みのそばに行き、しばらく立ち止まって待っていると、割と普通にがさがさと枝がこすれる音と、小さな地鳴きの声が聞こえてくるものです。驚かさないようにそっと覗いてみてください。スズメほどの大きさの小鳥が枝越しに見られるはずです。
ただ、もしかしたらその鳥の姿、特に色はイメージしていた「ウグイス」とは違うかもしれません。いわゆる「ウグイス色」と言われている色=グリーンティーというか抹茶のような緑色は、実際のウグイスの羽色とはまったく違います。個体差はありますが、概ね頭部から背面、羽根の色はくすんだ明るめの茶褐色、オリーブ色に近い色で、おなか側は白っぽい色をしています。
この、「本物のウグイスがウグイス色じゃない問題」は、戦後になって私たち日本人の多くが、野鳥への関心や関わりを失い、ウグイスの姿や色も実物を見たことがない人が大半になってしまったことで発生しました。江戸時代には、野鳥は身近な愛玩動物、またジビエとして身近な生き物でした。ウグイスの色も江戸時代の人はよく知っていましたし、それを基にして本物のウグイスの羽色に近い鶯色も開発しました。一方、時に絵画や版画などで、茶褐色の羽色の中に射すグリーンを強調して描くことはあっても、それは実際には赤くないタコを赤く描く記号的お約束で、ウグイスが本当に抹茶のような色だとは誰も思っていませんでした。
ウグイスをよく知らない戦後の人たちが、梅の花の蜜を吸いに来るメジロをウグイスと勘違いすることが増え、そこから逆に「昔の人はウグイスとメジロを混同していた」と思い込んだのです。
やがて立春をすぎ、気候が春めいてくると、オスのウグイスは高鳴きの練習をし始めます。初夏ごろに聞かれるこなれた美声もいいですが、早春のつっかえつっかえ、噛み噛みのさえずりはかわいくて、思わず応援したくなりますよね。
キツツキは童話の中だけじゃない!私たちのごく身近にいます
落葉樹の葉の落ちた冬は、樹上の野鳥の姿もよく観察できます。
皆さんは「キツツキ」というと、童話とかアニメの中にはよく出てくるけれど、まさか市街地の身近な場所にいるなんて、思ってないのではないでしょうか。
でも実は、日本には市街地や住宅地にも何種類ものキツツキが暮らしています。比較的大型で全体に緑がかったアオゲラ、頭の赤い毛が特徴的なアカゲラも見られますが、近年特に街中への進出が顕著で、冬の雑木林や公園を賑わせているのが、小さな体のコゲラ(小啄木鳥 Dendrocopos kizuki )です。英名ではJapanese pygmy Woodpecker、「日本の小さなキツツキ」と名づけられています。
ギュリ、ギュリ、ジュリーというにごった高めの特徴的な鳴き声が聞こえたら、梢を見上げてみてください。背面から羽根にかけて、こげ茶と白の横じまのストライプが特徴的な、スズメほどの大きさの小鳥が数羽集団になって、木の枝をドラミング(キツツキの仲間の、木を嘴でくりかえし叩くディスプレイ行動)しているのが見えるはず。それがコゲラです。
警戒心が薄く、人が近くによっても平気な顔ですので、よく観察できるでしょう。
そして、コゲラの集団を観察していると、たいてい面白いことにも気付きます。なぜか別の種類の鳥、真っ白いおなかの真ん中にネクタイのような縦に黒一本線が目立つシジュウカラが一羽か二羽、混じっているのです。モズやハヤブサなどの猛禽から身を守るために小鳥たちが種類を越えてグループを作るのはよくあるのですが、特にシジュウカラは別種の集団にシレッと混ざって行動することが多いおかしな小鳥です。しかも、混じっている種類の鳥の行動のマネをよくするため、コゲラに混じっているシジュウカラは、コゲラのマネをしてドラミングをしているので笑ってしまいます。シジュウカラは、エナガの集団に混じっていることもありますし、庭木の果実や花によく来るメジロとも行動を共にすることも多く、愛嬌のある小鳥です。
冬には他にも、おなかのオレンジが鮮やかで目立つくせにやたらふてぶてしいジョウビタキ、近くにやって来るとスズメたちがおびえてすぐ逃げていくのでそれとすぐわかる小さな猛禽モズ、夜明け前の暗い地面に、じっとたたずんでいるツグミやシロハラなど、市街地付近に現れる野鳥も個性豊かなメンバーぞろいで、気をつけて見ていると飽きません。
そして、そんな鳥たちの姿が見えにくくなったな、と思ったら……いつの間にかもう春ですね。