
<明治安田J1:町田2-0神戸>◇10日◇第25節◇町田Gスタ
FC町田ゼルビアDF菊池流帆(28)が青森山田高時代からの恩師、黒田剛監督(55)のもとで10日、古巣・ヴィッセル神戸に立ち向かい、2-0の勝利をもぎ取った。
今シーズンは前半戦を負傷離脱していたが6月21日の鹿島アントラーズ戦(2-1)以降先発メンバーに名を連ねるようになり、町田もリーグ戦でクラブ史上初となる6連勝とした。逆境にあってもたくましくはい上がる反骨の男が、町田を優勝戦線へと押し上げている。
大雨の決戦を制した。ずぶ濡れになりながら叫び続けた。集中力を切らさず、走り、体をぶつけ、そして激しく競り合う。相手選手を体ごと止めると、ゴール裏のサポーターに向けてガッツポーズを繰り返した。
菊池にとって神戸はプロ2年目の20年から昨季までの5年間を過ごし、思い入れの強いクラブだ。
「最後の2年は(出場機会が減少し)悔しい思いしかなかった。その思いをぶつけた。そこを見せないと自分がここにきた意味はない」
もちろん神戸の強さは誰よりも知っている。だからこそ「僕らが今後強いチームになるため、優勝するためには絶対に倒さなければいけない相手だった」。思いが強かった分、球際での激しさは増した。
不屈の男だ。青森山田高時代からの恩師、黒田監督が言う。
「最初、山田のセレクションに落ちた。それでも山田でやりたいと一般受験で入ってきたところからのスタート。他校に行っていればこういうドラマはなかった」
一番下のカテゴリーのチームで過ごし、3年生になってようやくトップチームにはい上がってきた。
その努力を重ねる姿勢、大柄を生かしたポテンシャルの高さを信じ、黒田監督は自身の母校・大阪体育大へと導いた。その後も相談相手となり、支えた。それだけに指揮官の感慨もひとしおだ。
「回り道したけど、こういう形で成長に成長を遂げて一緒にやれている。人生はおもしろい。下手くそな頃から高みを目指してね、オレは日の丸付けてやるとか、プロになっているとか、そういう気持ちだけ持ち続けて、叫び続けてきた。彼を見てきた者として感じるところがある」
その菊池は岩手県釜石市出身、中学2年で東日本大震災に見舞われた。小学生時代の恩師も亡くなった。日常生活もままならない。絶望の中、サッカー教室で訪れたカズらレジェンドたちの姿にあこがれ「プロになろう」と夢を抱いた。愚直にやり続け、釜石初のJリーガーとなった。
飽くなきチャレンジャーであり、反骨の男。神戸戦に勝利した後、こう話した。
「本当に悔しい思いをして町田に来させてもらった。神戸との試合に自分が出て勝つことが1つの証明だと思っていたので、それを達成できて本当に良かったなと思います」
クラブ史上初のリーグ戦6連勝となったが、優勝を狙いチームとあって一喜一憂しない。
「(最終節まで)19連勝するって言っていたんで、その1試合に過ぎない。監督自身も言っていましたけど、歴史を変える日だって。本当に(昨季から1分け2敗と)神戸には勝てていなかったので、町田には素晴らしい1日になった。でも切り替えていかないと駄目、次の試合に集中してやるだけだと思います」
泥にまみれて練習に励む。日々の努力は〓(口ヘンに虚の旧字体)をつかない。強い覚悟とブレない信念で自身の道を切り拓いてきた男は、これまで同様、勝利のために叫び続ける。
その声が、町田をさらに高みへと引き上げていく。【佐藤隆志】