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南葛SC、東京下町で夢売るクラブの目指すもの 風間監督「今日は面白い、明日はもっと面白い」


南葛SCを指揮する風間八宏監督(左)と高木健旨ヘッドコーチ

情熱的なリズムが鳴り響く。試合開始の1時間前、会場の外ではサンバ隊が踊っていた。

キッチンカーが並ぶ広場は多くの人でにぎわい、華やいだ祭り気分が充満している。真夏の青空のもと、華やいだエンタメ空間が広がっていた。

関東サッカーリーグ第12節、南葛SCのホームゲーム。世界的人気漫画「キャプテン翼」の原作者、高橋陽一氏がオーナー兼代表取締役社長を務め、葛飾からJリーグ入りを目指す注目のクラブは7月26日、日本大学N.(エヌ・ドット)と対戦した。

この日は「ロベルト本郷フェス」だという。大空翼の尊敬する師匠である。ブラジルにちなみ、サンバ隊の登場だった。

■JFL昇格に向けて弾みつける6-0圧勝

川崎フロンターレ、名古屋グランパスを8シーズンに渡り指揮した風間八宏監督(63)が率いて2年目。来季の日本フットボールリーグ(JFL)昇格に向け、関東1部リーグで順調に勝ち点を伸ばし2位に付けている。そのチーム状況を確認すべく、葛飾区にある奥戸総合スポーツセンター陸上競技場を訪れた。

夕暮れを迎える午後6時からのキックオフ。気温は30度を超えていたが、川べりに隣接する競技場には心地よい風が吹いていた。

「ボールは友達」。その名フレーズのコンセプトのごとく、南葛SCらしい攻撃サッカーが展開された。

止める、蹴る、運ぶ、受ける、はがす。風間サッカーのエッセンスがあふれ出ていた。グラウンダーのパスを素早く交換しながら相手のプレスをかわし、中央へ潜り込んで崩す。後方から湧き水のごとく人が出て来てボールに絡み、DFラインの背後を突いていく。

相手は関東大学1部リーグ所属の日大サッカー部にあって社会人登録して構成されたチーム。1部昇格1年目で4位に付けており、前線からの果敢なプレスを特長としていた。前回の対戦では2-1の勝利と苦しんだが、この日は一方的なゲームになった。

前半7分に右からの折り返しをFW木下慎之輔がダイビングヘッドで押し込みゴールラッシュの幕開け。同24分にMF佐々木達也が浮き球のワンツーから抜けだし、ループシュートで加点する。同39分にはゴール前に押し込んだ流れから、FW福本優芽が中央から力強くミドルシュートをたたき込んだ。

3点リードで折り返した後半も次々とパスをつないでは、シュートの雨あられ。6分にスルーパスからエリア内に入った福本が右足で流し込み、続く11分にも再び背後を突く浮き球パスから福本がゴールを奪いハットトリック達成。さらに15分には木下もゴール前への丁寧な折り返しを押し込み、開始から60分で6点の大差を付けてしまった。

後半35分には満を持して主将のFW大前元紀が登場した。前節では後半アディショアンルタイムに漫画のようなオーバーヘッドシュートをたたき込み決勝点。J1清水やドイツなどでも活躍した35歳は今も技術は健在だ。チームの看板選手がこの時間帯から出てくることを踏まえても、南葛SCの充実ぶりが伝わってくる。

試合終盤、果敢にゴール前へ蹴り込んでくる相手に押し込まれた。後半41分にFKから、アディショナルタイムの同49分にもクロスボールから決定的なヘディングシュートを打たれたが、GK飯吉将通が立て続けにビッグセーブ。1カ月間の中断期を前に6-0という最高の結果を得た。

■「サッカーっていうのは守備じゃない」

やってて楽しい、見てて楽しい。そんなエンタメ性豊かなサッカー。演出する風間監督に話を聞いた。

「やっぱりサッカーっていうのは守備じゃなくて、自分たちがどのぐらいの割合で攻めるかで全てが決まってくる」と強調した上で、こう振り返った。

「やっぱり難しい試合になりますよね、あれだけ点数がついちゃうと。どうしても相手がただ来るだけになるんで。その中でもしっかり本当は(終盤も)変えていかなきゃいけない。守備というよりも、本当はリズムを変えてそのまま攻めて終わりたかったけど。とは言ってもあれだけ点差がついたのに、まだ攻めてやれっていうのはなかなか難しい。そこはしっかり柳と飯吉が中心になんとか守れたっていうとこだと思います」

昔からさまざまな競技において「攻撃は最大の防御」と言うが、それを地で行く。相手の攻撃を“受ける”のでなく、相手ゴールへベクトルを向け続けることでおのずと守っているという考え方だ。

「試合内容は本当にシュートも15以上、18とか打てるんで。しかもほぼそれがペナルティーエリアの中なんで、決定機ばかりなんですよ。ただ、それを決めれるかどうか。今日は決めた試合なんで、決めてくれれば大体こうなってくる。失点ってのは守って防ぐのか、攻めて防ぐのか。例えば5失点したとしたら、それを自分たちが失点を1個ずつなくしていくのか、あるいは自分たちが5点取りに行ったら、この失点って自然に減りますよね。だから、そういう意味でサッカーっていうのはバランスなんです。そういうところは分かっていて、今日も最後までペナの中まで入って行ってくれたので、それはだいぶできるようになってきたなと思います」

■漫画のようなオーバーヘッド決勝点

前節ジョイフル本田つくば戦は4-3という打ち合いを制した。最後は大前が鮮やかなオーバーヘッドをたたき込み勝利するという、キャプテン翼さながらの攻撃力が光った。

「要するに、これは選手の頭と目をそろえてるからこうなるわけで、何かというやり方ではない。やっぱり技術の項目っていうものを中心に自分たちが攻め続ける、どうやったら攻め続けられるよっていうのも全部、練習でやってることが出てくるんですよ。相手がどういう守りで来てもそこを崩していくので、結果的にシュートは同じような形になっていく。今日もたくさんあったでしょ。何本かミスはありましたけど、ほとんどがキーパーと1対1とか、すごく崩していくところが多かったじゃないですか。だからああいうシュート練習しかしなくてもいいぐらい、それは崩せるので。(大前のオーバーヘッドでの得点も)あれも偶然そこにやったわけじゃなくて、ちゃんとトレーニングしている中の狙いはもう全員の目がそろっている。もちろん元紀の技術ってのはありますけど。やっぱり偶然の得点はうちはほとんどない、必然なので」

ロングボールを入れることもなければ、サイドからクロスボールが蹴り込む場面自体が少ない。「真ん中が崩れるので、あんまりクロスを入れる必要がないでしょ」と事もなげに言う。

このサッカーをやり続けるためには日々、必要な技術の習得を徹底している。

「僕らは作り手、サッカーを作るもんだと思っている。例えば相手がどんな形で取りに来ても、それはもう原理原則で全部打開できますよって。今日も後ろから来てもバババババッて行ってるでしょ、きれいな点もありますよね。だからあれはパターンではない。全員の技術と目がそろっているので、あそこは速く感じない。でもこれはもっと速くなるので、そうするとまた技術が足りなくなってくる。それはもうどんどん行ったり来たりしながら成長していくところなんです。全員がそろうのもなかなか難しい。でもだいぶみんな一生懸命に自分がうまくなりたいって、ついてきてくれている。そういうのがすごくいい」

全員の技術と“目”がそろう。目とは言葉の通り見ることであり状況判断であり、どこを見てどうプレーするかということ。ピッチに立つ選手が描く絵が一致しないと、あれだけ速いテンポでボールと人は連動できない。あらためて感性豊かな指導者だからこそ、成せるスタイルなのだと思う。

「自分たちで作りあげていく。そういうものをするために、これだけの技術が必要なんだよっていうのを毎日毎日提供して。そこで何かを習うとか、選手に習わせるつもりはない。一番は僕がやるわけじゃないので彼らにやっていただく。いつもそう、それです」

選手には映像、数値(データ)、言語、デモンストレーションを使い、エッセンスを落とし込む。風間スタイルを知るスタッフも介在するとあって「そう時間はかからない」という。

■初優勝へ東京ユナイテッドと競り合う

就任1年目の昨季は優勝争いにも絡めず、あえなくJFL昇格の芽はついえた。だが初優勝を目指す今季は確実に風間イズムが浸透し、結果も伴っている。12節を終えて10勝2敗(勝ち点30)で2位。直接対決を残す首位の東京ユナイテッド(10勝1分け1敗=勝ち点31)とは、勝ち点1差と競り合っている。

「今のところはすごく良くなっているし、ここからまだ変化していく。相手が何をではなくて、自分たちの力量に全員がついていけるかどうか、そこの基準ですよね。だから定義はもうできてるんですよ。技術の定義だからみんなそれは分かっているけど、だけど基準っていうのは上がっていく。その基準でいかに多くの選手が同じように進んでいけるかが一番難しいところ。そこに挑戦していろんなものを作るっていうチームなので、それをやっていきたい」

チームとしてJFL昇格が今季の目標となるが、その先にはJリーグ昇格という大目標がある。ただ異才の指導者の見方は少々違っている。

「このカテゴリーでも、別にJ1じゃなくても、ここを見たいよっていう人が来ればいいわけだし、こっちの方が多くなればいいわけで。もちろんみんな上がりたいですけど、そこだけに固執してるわけじゃない。お客さんも入って、やっぱり選手も楽しくて。見てて今日もゴールはおもしろいですよね。もちろんその過程としてね、1個上がっていかなきゃいけない。それはそうなんですけど。やっぱりそこだけに見ているわけではない。その先、その先っていうことじゃない。今日の試合はおもしろい、明日の試合はもっとおもしろいの方がいい。やっぱりそうじゃないとお客さん来ないんで」

その言葉の通り、観客たちの明るい表情が印象的だった。芝生席では家族やカップルが試合を見つめながら語らっている。心地よさそうに横になって晩酌を楽しむ人の姿もあった。サッカー観戦の傍ら、それぞれが各々のスタイルで夏の夕暮れ時を楽しむ。下町の夏祭りといった風情が漂っていた。

「それが一番、スポーツだけじゃなくて。例えば、映画よりもこっちに来るとか、音楽と並ぶぐらいとか、そうなれるとおもしろいですよね。やっぱりここはキャプテン翼のチームなので。その発想でみんなが動いている。あとは高橋先生も岩本(義弘)GMもそうだけど、スタッフみんなが自分の足でここを作ろうよっていう。それからあとは葛飾の独特の、この人たちの協力が本当にすごい。やっぱり本当に面白いもの作ろうよ、いいも作ろうよっていうのがある。だから、ただそれだけ(Jリーグ加入ということを)追っかけるチームじゃない」

観衆(有料)は1306人を数えた。この日は「ウルトラマンオメガデー」と銘打ち、ウルトラヒーローも来場。ハーフタイムには場内を回り、子供たちを喜ばせた。

試合後のピッチを練り歩いていたのは帽子にジャケット姿の男性。葛飾だけに映画「男はつらいよ」の寅さんかと思ったが、これはロベルト本郷だった。事細かな演出があちこちで利いている。

「いろんなところでエンターテインメント始まってるわけです。その前には、もう色々と選手たちが街中に出て行って、どんどん仲間を増やしてる。ここ(試合ピッチ)だけでやっているのは体育ですよね。じゃなくて、やっぱりこのみんなでやるのがスポーツというか、やっぱりこの地域の大切なスポーツだと思うんで。これはちょっとすごいと思いますね」

南葛SCの“SC”はサッカークラブでなく、スポーツクラブだっていうところがミソだ。

「みんながおもしろい、サッカーやってる人もおもしろい、見てる人もおもしろい。そこで勝たなければおもしろくないでしょ。だから全部入ってくる。お客さんはただ勝っても喜ばない。負けてもおもしろかったらやっぱすごく価値がある。1つの価値もない試合をなくさなきゃいけない」

風間監督の思いは、南葛SCそのものだった。

■天野春果氏に岡野雅行氏も加わり

昨年からプロモーション部長として、川崎Fや東京オリンピックの組織委員会で話題性のある企画を打ち続けた「仕掛け人」天野春果氏が加わった。また、今季からは「野人」岡野雅行氏が事業本部長に就任している。クラブの本気度が違う。

岩本GMに話を聞くと、こう回答した。

「シーズンの始まる前に、全試合にテーマを付けて、どの試合にどういうイベントをやるかみたいなことも全部決めました。去年より格段にイベントの盛り上がりとか、メニューも豊富になりました」

風間監督を招聘(しょうへい)したことでサッカーの強化と同時に、もう一つの柱となる「地域に根差したクラブ」としてのスタンスを強めている。

「風間さんが来て強化の部分はすごく前進している。だけど事業の方が前進しないと、結局Jクラブとしてちゃんと地域に根差したクラブとして盛り上がりはできない。だから両輪でそこのところをやりたいと考えています。今はその両輪がすごくいい形で回っています」

事業も順調に成長し、スポンサー企業は350社を超えた。その金額も半期となる現時点で既に昨年分を超えているという。

葛飾区は南葛SCのJリーグ入りを後押しするように、新小岩駅近くに1万5000人規模のサッカー専用スタジアムの建設計画を立てている。「キャプテン翼」の御旗のもと、多くの物事が着実に進んでいる。

そして関東1部リーグは1カ月の中断期間を経て、残り6節。そして連戦を勝ち抜くことが求められる10月の全国社会人サッカー選手権、11月の地域チャンピオンズリーグと一つの落とせない試合が続いていく。

今季はここまで順調に事は進んでいる。それでも思い通りにいかないのもまた地域リーグの難しいところ。22年から関東1部を戦い、そこは嫌というほど分かっている。だからこそ、キャプテン翼をモチーフにする夢売るクラブには気負いがない。

「本当に何度も言いますけど、事業と強化の両輪をうまく回しながらやっていけば、気づいたらJリーグにたどり着けるんじゃないかと、そう信じてやるしかないので、そうやっている感じです」(岩本GM)

サンバ隊が踊れば、南葛SCも躍る。おもしろさの先には、明るい未来が待っている。【佐藤隆志】

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