
<高校野球東東京大会:実践学園4-1堀越>◇22日◇準々決勝◇神宮
神宮のマウンドで、実践学園のエース左腕・新渡戸佑(3年)が堂々の投球を見せた。強豪・堀越を相手に7安打1失点で初完投。チームを史上初のベスト4進出に導き、「校歌を神宮で歌えたのが本当にうれしい。歌詞は覚えてなかったけど(笑い)、夢みたいだった」と照れ笑いを浮かべた。
最速137キロの直球にスライダー、カーブ、チェンジアップを織り交ぜる緩急が持ち味。「ボールの感触は正直よくなかった」と本音を明かしながらも、「とにかく強気でいこうと決めていた」。2点リードの8回2死一、三塁の正念場では、3番大川を渾身(こんしん)のスライダーで空振り三振。マウンド上で思わず雄たけびを上げた。
9回、最後の打者を左飛に打ち取ると、両腕を突き上げた。公式戦初完投。「春は大敗して自信をなくしていた。また自分のせいで負けるんじゃないかって、前日は眠れなかった」と胸の内を吐露した。それでも「仲間が励ましてくれて、開き直れた。いい時の自分を出すことだけ考えた」と笑顔で振り返った。
離島・大島出身。スタンドには神宮まで足を運んだ両親と兄弟の姿があった。「試合前は毎回メールをくれるんです。昨日も『1人で戦ってるんじゃない。みんなが打ってくれるから大丈夫』って言ってくれて落ち着いた」と心の支えになった。
転機は中学3年だった。大島二中のエースとして都内の大会に出場した際に、実践学園の関係者の目にとまった。「不安もあったけど、挑戦したいという気持ちが勝った」と島を離れての進学を決意。現在は卓球部と共同生活の寮で暮らしながら野球に打ち込む。島にいた時は、堤防の赤い印を的にして毎日ボールを投げ続け、コントロールを磨いた。兄洸さん(23)は「今でもその跡が残ってる」と弟の努力をたたえる。
この1カ月は球速アップよりも制球力に重点を置き、ウエートを減らしてピラティスやストレッチを中心に体の連動性を高めるトレーニングに切り替えた。「スピードよりも質を上げたかった」。自身と向き合い、投球を進化させてきた。
夢の甲子園まで、あと2勝。「今日の勝利で不安をとりのぞくことができた。自分の力を信じて次も投げたい」と言い切った。網代潤一監督(75)は「一戦ごとにチームの状態は良くなっている。新渡戸を中心に、いい流れで準決勝に臨みたい」と目を細めた。