
<高校野球岩手大会:大船渡11-1一関高専>◇12日◇1回戦◇花巻球場
岩手では大船渡が一関高専に11-1で5回コールド勝ちした。先発した熊谷航投手(3年)が3回無安打7奪三振の好投。今年の2月から3月にかけて発生した大規模山林火災で、自宅隣が焼けて避難を余儀なくされたエースが、快勝発進の流れをつくった。宮城では古川学園が伊具に17-0で5回コールド勝ち。公式戦初スタメンの渋谷楓馬外野手(1年)が3安打4打点の活躍をみせた。
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感謝を込めたマウンドだった。熊谷航は2回まで四球、死球での出塁を許すも「まずは自分が試合をつくる」と無安打の好投。3回は3者連続三振に抑え、7奪三振を奪った。「フルカウントまでいっても、真っすぐがストライクゾーンにいい球がいって、テンポよく投げられたのでよかったです」。気迫のピッチングでチームを勢いづけた。
地元大船渡は2月下旬、大規模山林火災に見舞われた。熊谷航が住む自宅は大きな被害は無かったものの、隣家が全焼するほど、すぐ近くまで火の手が迫った。避難警報が発令され、グラブとバット、大切なものだけ手に避難所へ向かい、部活をすることも不可能になった。
それでも、野球に対する気持ちを切らすことはなかった。「正直不安はありましたけど、チームメートや監督とオンラインでミーティングをしたりすることで安心できましたし、自分たちができることって何だろうと話しました」。避難所生活ではチームメートの佐藤侑紀外野手(3年)とともに公園でキャッチボールや素振り、走り込み、自重トレーニングに励んだ。約2週間後、グラウンドでの練習を再開。「チームメートと一緒に野球をできる喜びをあらためて感じました」と目いっぱい汗を流した。
当たり前の日常が当たり前じゃない出来事に触れ、最後の夏にかける思いも強くなった。「自分が大船渡のエースなので、大船渡の強さをみせていきたい」と意気込みながら、こううなずいた。
「(山林火災を受けて)いろんなところから支えがあって自分たちも頑張って来られたので、その応援を糧に元気になるプレーを見せていきたい。他県からも支援に来てくださった方々にも感謝の気持ちを伝えていきたい」
たくさんの思いを背負い、大船渡の底力をみせていく。【高橋香奈】
◆大船渡の大規模山林火災 今年2月19日、大船渡市三陸町綾里の山林で火災発生。いったんほぼ消火したものの、同26日に複数個所での延焼が確認され、大規模山林火災に発展。3月9日にようやく鎮圧した。市面積の9%に当たる約2900ヘクタールが焼失。避難指示の対象は最大で1896世帯4596人だった。