
<スポーツ違法賭博市場>(中)
野球などのスポーツを対象とした違法ベッティング(賭博)市場が、日本を席巻している。一般財団法人「スポーツエコシステム推進協議会」が5月14日、調査結果を発表した。日本の居住者が海外のスポーツベッティングサイトを利用してプロ野球やMLBなどに賭けている推計金額は昨年、6兆4503億円にのぼったという。巨額に膨れ上がっている市場の実態などを全3回で紹介する。
一般財団法人「スポーツエコシステム推進協議会」は5月14日、日本で行われているスポーツを対象に、世界各国から賭けられている金額の推計が年間4兆9112億円にのぼるとの調査結果を発表した。このうち、日本居住者が賭けている金額は1兆183億円で全体の21%。残り79%は中国、米国、インドネシア、台湾など海外から賭けられていた。
賭けられた金額を競技別にみると、サッカーが2兆8534億円と最も多く、野球(NPB)は2番目の8829億円だった。野球に賭けられた金額シェアを国別にみると、日本からが最も多く60%。次いで中国から18%、米国から11%、韓国から8%、台湾から3%となる。サッカーは61%が中国からで、日本からは12%にとどまる。野球には国内にサッカーの「toto」のような仕組みがないこともあるが、日本人の「野球好き」という特異性がみて取れる。
24年度の日本におけるスポーツくじ(Jリーグを対象としたtotoなど)の年間賭け金総額は約1336億円(予想系121億円、非予想系1215億円)だった。この約37倍にあたる4・9兆円もの金額が、日本国内のスポーツの結果を利用する海外のベッティング事業者にただ乗り(フリーライド)されているとも言える。だが、弁護士でもある同協議会の稲垣弘則代表理事は「データのフリーライドは世界的に、あまり(法律などが)整理されていない」と現状を説明する。フランスは厳格だが、法律や判例が整理されていない国も多い。ほとんどの国では、スポーツの結果など、データの使用を違法とはいえない。
海外のスポーツベッティング事情に目を移そう。米大リーグの球場には、当地では合法的となるベッティングサイト「ドラフトキングス」などの広告が掲示されている。「BetMGM」はMLBの公式パートナーだ。米国では18年から徐々に規制が緩和され、全50州のうち38州でスポーツ賭博が合法となった。ドジャース大谷翔平の元通訳、水原一平被告はカリフォルニア州在住だったが、今や違法となる州は少数派だ。イリノイ州シカゴにあるカブスの本拠地リグリーフィールドなど複数の球場には、メジャーリーグに限らず、世界中のスポーツに対する賭け専用のラウンジまで用意されている。
稲垣代表理事は「ドラフトキングスなど元々はファンタジースポーツ(ファン同士が選手を選んで仮想チームを作り、実際の打撃、登板結果と連動させて競うゲーム)をやっていた事業者も、オンラインベッティングが解禁されたら移行した」という。実は、ベッティング事業者の多くはバカラやポーカーなど、いわゆる「オンラインカジノ」も運営している。基本的に試合結果が主となるスポーツから、オンラインカジノへユーザーを誘導すると飛躍的に賭ける機会が増え、事業者にとっての「うまみ」が増すからだ。スポーツは知名度から、とっかかりとして適しているのだ。【斎藤直樹】(つづく)