
<解体新書>
連続写真で注目選手を紹介する企画「解体新書」。今回は、開幕から安定感抜群の投球を披露する西武今井達也投手(27)の登場です。多くの名投手を育てたフォーム矯正の達人・小谷正勝氏(80=日刊スポーツ客員評論家)が分析しました。
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西武今井は今、私の中で日本球界でNO・1の投手だ。投球フォームは人それぞれで正解はなく、これまで解析はやってこなかったが、今季の素晴らしい投球を見て「初めてやるなら彼だ」と思った。
見させてもらった連続写真は、あまり足を上げないパターンと足を高く上げたパターンの2種類、ともに全11コマ。文句のつけようがないと感じた。
特筆すべき部分は、動作の序盤にある。(3)で左肩が内側に入っているのが分かる。この左肩で、壁を作っている。
「方向付け」とも言うが、このような形のフォームでボールをリリースすれば、打者は真っすぐがインサイドにくると錯覚する。しかし今井は、これで外角にも投げられるし、スライダーも鋭く曲げる。打者からすれば大きな迷いが生じる。
「大したもんだな」と思ったのは(4)。普通の投手なら、(3)で左肩が内側に入ると(4)では体の開きが入る。この時点で体が正対してしまい、右打者のインハイにボールが抜けたりする原因になる。しかし今井は、我慢しながら軸の移動をしっかりと行っている。技術的に非常に難しく、言葉で言っても簡単にできるものではない。自分の中でコツをつかんでいるのだろう。
(5)では左足に注目した。多くは「ポンッ」と地面に着いてしまうが、足の裏、指先まで意識が行き届いており、ここもしっかりと我慢できている。
コーチ時代、ブルペン投球を捕手寄りから見ている時は、球筋ではなく着地の直前に足の裏が見えるかどうかを確認していた。今井はおそらく、捕手から見れば、左足の裏が少し上がって見えているはず。足が着地するまで左肩が開かず、そこからひねりの動作が入るので、リストが利く。
(3)~(5)にすごさを感じたが、その後の流れも素晴らしかった。(6)では捕手寄りに体が行きすぎず推進力を止め、軸の移動も我慢できている。バランスが良く、体の中心に軸があるように見える。(7)では胸の張りがしっかりできている。これができなければ、リストは利かなくなってくる。物事というのは1つ抜ければ次がうまくいかなくなるものだが、すべての動きに意味がある。
(8)を見れば、両膝がしっかり回っている。しっかり回っているから、軸足(右足)のかかとの離れも遅くなる。軸足のかかとの離れが遅くなるので、ボールをしっかりとたたける好循環が生まれる。
よく「体を開くな」とか「体を突っ込むな」と言われるが、投手は突っ込んでいったり、開かないとボールを投げられない。要するにタイミングが大事で、しっかりと噛み合っている。
あまり足を上げていない方は159キロで、足を高く上げた方は150キロだったと聞いたが、両フォームを比較した時に指摘するような大きな変化はなかった。クイック気味に投げた方がテイクバックがコンパクトになるので、コントロールはつけやすい。特に出力を上げる際に、強く意識しているはずだ。
まとめると今井は、足の上げ方に関わらず左肩を内側に少し入れ、壁を作っている。この形でボールを制球できていることが特異で素晴らしい能力といえる。普通の投手なら(4)~(5)で余計に体が開いたり、軸の移動がうまくいかなくなるだが、全ての力をうまくまとめて、強いインパクトを作っている。体が強く、かつ器用だからできる芸当。見事に「今井流」を築き上げたと言える。(日刊スポーツ客員評論家)