
今春センバツで新基準の低反発バットが導入されてからちょうど1年になる。実際に低反発バットはどう違ったのか。筑波大硬式野球部の監督で同大准教授の川村卓氏(54)は、学生とともに旧基準バットとの比較研究を、6日にコーチング学会で発表した。今後高校野球はどう変わっていくのか。今春センバツ出場校の取り組み、監督や選手たちの言葉とともに、その進化を探った。(取材班・保坂淑子、平山連、古財稜明、中島麗)
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甲子園初出場の滋賀短大付は23年秋季大会敗退後から低反発バットに絞った練習を開始した。
保木(ほうき)淳監督(39)は「センター方向と逆方向が伸びにくい」と判断。たとえ時間をかけても大飛球を打つ技術の習得は難しいとの見解だ。甲子園常連の強豪校では体格に優れた選手たちの打撃に変化が生じていると分析。一方で、体重60キロ台の細身の選手が集まる同校には影響が少なかったという。
同監督は「新規格のバットになってから、バッテリーの配球への意識と守備位置を変えた」と振り返る。昨秋から守備力と制球力のある投手陣によるロースコアでの勝利に照準を定めた。キーポイントは外野手の守備位置。引っ張り方向は深く、中堅や逆方向は浅く「思い切った守備位置」をとり、バッテリーには外角球勝負を重視させた。「外角を攻めれば、打たれても長打を食らう回数が減った」。
準優勝した昨秋の滋賀県大会では準決勝まで各試合で3失点以内。バスター打法にも着手し、相手守備陣を幻惑した。初出場した近畿大会では履正社(大阪)に4-1で金星。指揮官は「初出場校はこのバットに適応した戦い方ができているのかも」と説明する。投手力と守備力に小技が効いた打力も絡ませ、初の聖地で躍動する。【中島麗】
【その他の高校野球監督・選手の声】
▽天理・藤原忠理監督「低反発になって長打力というのは激減。単打をしっかりと点に結び付けていくかをポイントにやってきた。選手は慣れてきている」
▽早実・和泉実監督「うちのOB、日ハム清宮、西武野村、ソフトバンク宇野らは高校時代の本塁打は60本以上。今はそういう選手はいないから打線を線でつなごうとやっている。低い打球を打つというのも前から取り組んでいること。変えたことはないですね」
▽敦賀気比・東哲平監督「その辺は気にしてない。だんだん慣れてくるんじゃないですかね。新基準でバットの性能も良くなっていくんじゃないでしょうか」
▽山梨学院・吉田洸二監督「新基準バットが飛ばなくなったので、大阪桐蔭とか仙台育英とかポテンシャルの高いチームと対戦しても競られるチャンスがある。ウチは技術系で新バットは苦手じゃないんで。今は得意な試合巧者的なところに加え、練習もパワー系に移行してる」
▽横浜・村田浩明監督「野球自体は変わりました。より細かく、ワンプレー、1つのアウト、バントも大事に。打撃も体の使い方、頭のリセット。メディシンボールのトレーニングを増やし下半身の使い方。狙い球をしっかり打つ。少しずつ順応してきたかな、とは感じています」
▽広島商・荒谷忠勝監督「広島商は昔からバントを大事にしていて、新基準バットになってからは芯にしっかり当てないと転がらない。先っぽだとキャッチャーゴロなどでアウトになる可能性がある。そういう面でも難しさを感じています」
▽二松学舎大付・市原勝人監督「以前、大阪桐蔭と対戦した時(過去2度対戦し2敗)は何点取られるんだろう、と試合前から受け身になっていた。新基準バットになって相手にならないことはない。1点をどう取るか、防ぐか。より深みに行き着いたところが勝つんじゃないかな」
▽健大高崎・青柳博文監督「ノーアウト一塁からの攻撃は、新基準バットになったばかりの去年はどこのチームもバントが多かったけど、今年から積極的に打つ作戦に変わってきそう。うちももう普通のバットだと思って振っている」
▽健大高崎・加藤大成主将「うまくタイミングを合わせて芯で捉えないと飛ばないので、冬は芯に当てる練習。戦術としては一つの塁でも進められるようにと、2死二塁ではなく2死三塁を目指す走塁を練習しています」
▽横浜元監督の渡辺元智氏「戦い方は変わってきている。だからこそ、指導者が選手の個性を見抜き、個々が持っている力をチームに還元することが大きい。足が速い子は足を生かす。遠くに飛ばす子は左右に広角打法。セーフティーバントができる。選手の能力を引き出すことができる監督が評価される時代に来ていると思います」