
先日、ドジャースの春季キャンプで大谷翔平投手が、デーブ・ロバーツ監督にいたずらを仕掛けて話題となりました。監督専用駐車場で愛車を子供用ポルシェに置き換えるドッキリを仕掛けたことに、ロバーツ監督が「これはショウヘイの仕業か」と笑いながら仕返しを宣言しました。
それで思い出すのが、1980~82年ドジャースに在籍したジェイ・ジョンストンという外野手です。彼は「楽しくなければ野球じゃない」というのがモットー。試合でヒットを打つためというより、「いたずらするために」チームにいた、というのが当たっている選手でした。
試合前はユニホームの上にネクタイを締め“正装”して打撃練習。自軍の選手がエラーした時などグラブに消毒液を塗り、ばんそうこうとガーゼを貼って手当て。チョコレート好きな選手のグラブにはチョコを塗りたくり、他人のユニホームでベタベタになった指を拭いて犯人と見せかけました。
また、同僚のジェリー・ロイス投手とコンビを組み、試合前の練習などケロッと忘れてグラウンドキーパーに扮(ふん)して登場。本職に混じって内野の土を懸命に地ならしていると、それに気付いた観客が大喜び。それを日本のプロ野球でまねした外国人選手もいました。
いたずら癖が、試合で役立つこともありました。ある試合で右翼を守っていた時、無死一塁でバッターが送りバントを空振り。すると、一塁手がバントシフトで猛ダッシュしたのに、捕手が一塁へ送球して走者をタッチアウト。何とジョンストンが一塁のカバーに入っていたのです。
彼はマイナー時代に2、3回ほど同じプレーの経験があったそうです。しかし、捕手は「長年メジャーにいるけど、こんなプレーは見たことない」とビックリ。つまり、これはサインプレーでなく、ジョンストンが一塁にいるのを見て捕手が送球。本人は至って上機嫌で、何とも人を食ったことをやらかす選手でした。
いたずらに話を戻すと、彼は当時のトム・ラソーダ監督いびりに専念しました。ある時は試合中に監督がすすっているコーヒーにたっぷり噛みタバコの汁を入れ、またある時は監督室の壁にぎっしり飾ってあるハリウッドスターとの写真を全部取り外し、ドジャースの選手たちの写真に替えてしまいました。あまりの完璧さに、ラソーダ監督もしばらく気付かなかったと言います。
そして、極めつきはキャンプ地でラソーダ監督を部屋に閉じ込めたことです。当時はフロリダ州ベロビーチのドジャータウンでキャンプを張り、その広大な敷地内のヴィラに監督や選手たちが宿泊。夜中のうちに監督のスイートルームのドアの取っ手をヤシの木に縛り付け、ドアが開かないようにしました。
すると、翌朝起きても部屋から出られず、1日のうちで朝食を取るのが一番の楽しみだった大食漢のラソーダ監督は烈火のごとく激怒。「俺たちにはドジャーブルーの血が流れている」が口癖だったラソーダ監督のお気に召さなかったのか、開幕早々カブスに放り出されました。
結局「メジャーで監督を監禁した唯一の男」は2年余りしかドジャースに在籍できませんでしたが、球界一のいたずら人生は続き、現役引退後に2冊も本を出しました。
ロバーツ監督は大谷のいたずらについて、これが厳しいトレーニングの中にも笑いとユーモアあるメジャーのキャンプであり、チームの結束力を高めるようなことを言っていました。キャンプでのいたずらもドジャースの伝統であり、チームの強さだと改めて実感しました。
【大リーグ研究家・福島良一】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「福島良一の大リーグIt's showtime!」)