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ヤクルトは19日、球団マスコットのつば九郎役を担当してきたスタッフが永眠したと発表した。愛くるしいルックスと「フリップ芸」でファンから絶大な支持を得た。担当記者が悼む。
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つば九郎と出会ったのは20年ほど前だ。まだ警備員や神宮ゴルフ場の受付を兼務していて、そんなにアクが強くないマスコットだった。
宮本慎也の助言を受け、積極的に前に出るようになり、ラミレスと「ゲッツ」の芸を共演するなどしながら、今のキャラをつくり始めたころだった。
「つば九郎ならこうする」という基準があった。「クルマをプレゼントしたい」とファンから言われても泣く泣く断った。「つば九郎がそんなこと言ってもらえる存在になったのはうれしいけど、もらっちゃったらつば九郎じゃないですよね」。鉄のプロ意識がなければ、ここまでの人気者にならなかったのではないかと思う。
素顔は腹黒くない。頭の回転がはやく会話のテンポがいいのは、つば九郎と同じだけど、優しくて一緒にお酒を飲むのが楽しい人だ。「生まれ変わったらライオンになりたい」と言っていた。「あいつらレバーからいくからね」というほどレバ刺しが大好きだった。料理の腕もなかなかのもので、コロナ禍では、豆苗を育てながら自宅で楽しんでいた。送ってくれた写真は、どれもお酒が進みそうだった。
21年の日本シリーズ第4戦で、マウンドに向かう石川雅規とハイタッチする写真がお気に入りだった。
トリミングして2人の部分をアップにして「部屋に飾ります」と笑った。ニッカンの動画班がつくる高校野球シリーズの「日大三の冬合宿」を見て「今年も感動しました」と目を潤ませたこともあった。頑張ってる人が大好きだった。
腹黒さ以外は、つば九郎そのものだった。
人間の姿でいる時の背中にファスナーがあって、そこからつば九郎が出てくるのではないか、と思わせるほど。ふざけて背中のチャックを開けようとすると、ビートたけしのモノマネまじりに「ばかやろう」と返してくるのがネタだった。もう、会えないのか…。西麻布のあの店で、また飲もうという約束も果たせないまま。さみしくてたまらない。【03~04年ヤクルト担当=竹内智信】