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ヤクルトは19日、球団マスコットのつば九郎役を担当してきたスタッフが永眠したと発表した。愛くるしいルックスと「フリップ芸」でファンから絶大な支持を得た。担当記者が悼む。
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うそのつけない鳥だった。
18年6月29日に日刊スポーツが発売した「2018神宮&秩父宮ライブ記念 乃木坂46新聞」。神宮ライブを行う乃木坂メンバーに、つば九郎がフリップ芸を教える企画を掲載した。
乃木坂担当から提案された際、つば九郎は快諾してくれた。ただ、不安があった。
「笑いは緊張と緩和とすかし」がモットーで、ユーモアたっぷりの毒舌も持ち味。人気絶頂のアイドルを前に、やりすぎやしないでしょうね…。「だいじょうぶ わかってますから」。絶対に分かっていない…。対談相手の秋元真夏と松村沙友理の写真を見せると、手を止めて凝視した。「じむしょのかた きますか?」。来るに決まってます。「だいじょうぶ だいじょうぶ わかってますから」。念を押したものの、何も分かっていない(分かろうとしていない)雰囲気を堂々と醸し出していた。
取材当日の休憩時間。神宮球場の一室の隅で見ていた記者に、ヌッと近づいてきた。「そろそろ つばくろうのでばんですよね」。は? 返事をする間もなくサッと席に戻ると、フリップ芸の話題を始めた。その記事の一部はこうだ。
つば九郎 「しあいまえにいつもふりっぷげいしているけど」「(ライブで)やってみては?」
秋元 確かに!
松村 なるほど~。
つば九郎 「こんなのぎざかはいやだ」
秋元 ええ~! 今ですか? 難しいな~。
つば九郎 「けっこんしてるひとがいる」
松村 もう始まってる!(笑い)。確かにいやだ!
つば九郎 「ねんれいを5つさばよんでる」「もうやめたい」「どくりつをたくらんでいる」「じんせいはくだりざかだ」
事務所関係者も乃木坂の2人も、表情がやや引きつったように見えた。もちろん記者も。「ちょ、ちょっと」と言いかけ、椅子から腰が浮いた。
でも、マジックの「キュキュッ」という音は止まらない。フリップは次々とめくられていった。さすがにやばいかな…。でも、絶妙なところを突き続けていた。止めに入るのはやめた。気が付けばみんな笑顔で、声を出して笑っていた。「よかったでしょ? ふりっぷげいは ぎりぎりをせめないとね」。取材後、つば九郎は会心のドヤ顔だったように見えた。
つば九郎の表情は常に変わらない。だが、心の声はいつも伝わってきた。人を楽しませるのが好きだった。人を喜ばせるのが好きだった。人を驚かせるのが好きだった。人を面白くいじるのが好きだった。ルービーが好きだった。公営競技が好きだった。スワローズが好きだった。ファンが好きだった。神宮球場が好きだった。野球が好きだった。人が傷つくのは嫌いだった。人が悲しむのは嫌いだった。うそをつくのも、つかれるのも嫌いだった。
だからこそ、だれからも愛された。
つば九郎の周りは、いつも「えみふる」だった。
天国にもスケッチブックとマジックとルービーがいっぱいありますように。本当にありがとうございました。合掌。【13、14、18年ヤクルト担当=浜本卓也】