センバツ『初』物語<3>
沖縄の新星が、高校野球界に新風を巻き起こす。第97回選抜高校野球大会(3月18日開幕、甲子園)の出場校が24日に発表される。日刊スポーツでは「センバツ『初』物語」として、甲子園初出場を目指す注目校を全3回で紹介。最終回は創部3年目ながら飛ぶ鳥を落とす勢いで沖縄の強豪校へのし上がったエナジックスポーツの裏側に迫った。
◇ ◇ ◇
同校は「世界へ翔く、トップアスリートの育成」を理念に21年春に開校され、野球部は22年春に創部された。指揮官を務めるのは神谷嘉宗監督(69)。08年に浦添商の監督として夏の甲子園に初出場して4強入りを果たすと、14年には美里工を率いて初のセンバツ出場へと導いた名将だ。定年を迎えると同時に発足したのが同校だった。「まだまだやりたいという気持ちもあった。タイミング良くマッチングした」と監督就任の要請を快く引き受けた。
苦難のスタートだった。同校は名護市・瀬嵩の12年に廃校となった旧久志小を改修して創設された。部員を集める際に神谷監督は「学校を見に来て入学を断る生徒もいましたね」と振り返る。部員確保に奔走し、22年春に1期生として15人が入部した。「入ってくれて本当に感謝しています」。昨秋のドラフト会議で西武にドラフト6位で指名された龍山暖捕手(18)も1期生の中の1人だった。
チーム方針として掲げるのは機動力を生かす「ノーサイン野球」だ。「公立高校が強豪校に勝つためにはそういう野球しかない」。美里工の監督時代に、無名の東亜大(中国六大学)を明治神宮大会で3度の日本一に導いた中野泰造氏を師事してノウハウを学んだ。
エナジックスポーツでの浸透には約1年半もの時間がかかったという。美里工監督時代の教え子で東亜大へ進学した神田大輝総合コーチ(28)らも指導に加わり、ノーサイン野球を実行するための練習に時間を割いた。創部3年目の24年の春季沖縄大会で初優勝を飾り、昨夏、秋は県準Vと着実に成果につなげてきた。
監督就任時に掲げた「3年以内に甲子園に出る」という公言達成は目の前まできた。「人口200人余りの小さな村の学校なので。もし選んでいただけたら、とにかく1勝して地域を盛り上げて、勝利を分かち合いたいです」。初の聖地で躍動し、全国にその名をとどろかせる。【古財稜明】(終わり)
◆エナジックスポーツ 医療・健康機器の開発メーカー「エナジックグループ」の創業者・大城博成会長(83)が理事長を務め、21年に通信制のみで開校。24年4月から全日制も設置され、22年4月創部の硬式野球部の部員39人は全員が全寮制の全日制に所属。部活動は他にゴルフ部がある。所在地は沖縄県名護市瀬嵩296。仲舛盛順学院長。