来春の第97回選抜高校野球大会(25年3月18日開幕、甲子園)の21世紀枠の地区候補9校が発表された。関東地区からは横浜清陵(神奈川)が県内校では初めて最終候補9校に選出された。25年1月24日の選考委員会で9校が比較検討され、センバツ出場の2校が決定する。
◇ ◇ ◇
横浜、東海大相模、慶応、桐光学園…神奈川県は全国屈指の高校野球の激戦区だ。公立校にとって甲子園への道は険しい。
スカイブルーのユニホームと“Y校”の愛称で全国の高校野球ファンに知られる横浜商が、90年夏に甲子園に出場した。それを最後に24年間、神奈川の公立校は甲子園に届いていない。
そのY校の正門から視線を上げると、京急線と首都高の高架をはさみ、横浜清陵のキャンパスが崖上に見える。徒歩6分半、そのうちの半分が標高差45メートルを埋める上り坂になり、甲子園への道のように険しい。
野原慎太郎監督(42)は自チームを「めちゃくちゃ弱いんですよ。みんな体も小さいし、中学で目立った選手は1人もいないです」とバッサリ行く。ただ「個性ですか? 愚直なところです。みんなでやろうという意識は強いですね」と全体力の高まりはほめる。
00年春、東海大相模で全国優勝したメンバーだ。筑川利希也投手がエースで、自身は背番号10の控え投手。甲子園登板はなかった。チームが全国的に注目された3年夏は、県大会の準々決勝で公立の神奈川商工に敗れた。
「2~3年くらい、みんな誰も直視できなかったですよね。考えたくもなかった。つらかったです。でもいま考えると敗因はあったし、ここにいる原体験の1つかもしれないです」
横浜国大に進学後、公立校の教師を志し「面白かったので」という家庭科教諭として、現在の横浜清陵で3校目だ。得意料理の焼きうどんはまだ部員たちには振る舞っていない。
「部活動とは」を追求し、高校生たちの自治を尊重する。秋や春の大会では、五十音順で背番号を渡した。「番号で先入観をつけることって、いい方向に向かないことも多いなと思いまして」。
21世紀枠候補に選ばれたけれど、新しく何かをするつもりは全くない。「何も変えずにやるだけです。“これまで”をこれまで以上に徹底するだけです」。強烈な坂を上り、練習後は今度は下って。そんな毎日を繰り返し、良き春を待つ。【金子真仁】