大学サッカーの全日本選手権(インカレ)が12月7日に開幕する。4年生にとっては最後の大舞台。群雄割拠の関東代表、その中に久しぶりの伝統校の名前もあった。最終の8枠目に入った東海大だった。
関東1部リーグでラストの3試合を3連勝で飾り、2000年以来、23大会(20年はコロナ禍で代替大会)ぶり9度目の出場権をつかんだ。
来季からFC町田ゼルビアへの入団が決まっているエースFW桑山侃士(かんじ、4年=東海大高輪台)を擁し、キャンパスのある地元・湘南の海を想起させる「東海ブルー」のユニホームを身にまとい、攻守にピッチを疾走する。
■5連敗の後ラスト3連勝
ラスト3連勝の前は苦難のトンネルにはまっていた。第15節から5連敗を喫した。第19節終了時点では、2部降格圏の10位とあえいでいた。それが第20節の駒澤大戦。1点を追う後半31分、MF松橋啓太(2年=東山)のミドルシュートで追いつくと、途中出場のFW星景虎(3年=矢板中央)がドリブルで持ち込んだところ後方から倒されてPKを獲得。これを後半41分、桑山がきっちりゴール右に決めて逆転勝利を収めた。
この勝ち点3で流れが変わった。続く相手は上位の中央大だったが、MF大塚瑶平(4年=東海大浦安)、星のアシストから桑山が2得点するなど3-0と快勝する。
そして最終節でも、縦パスから抜け出した星の持ち込みからゴール前に走り込んだ桑山へパスが渡り先制点を挙げ、裏に出た浮き球パスから大塚が追加点。見事なラストスパートで連勝を飾り、暫定8位に浮上した。そして果報は寝て待て-。その翌日の試合で最後のイスを争っていた流通経済大が明大に敗れ、勝ち点1差で8位をキープし、歓喜の瞬間が訪れた。
■「うまいだけじゃ駄目だ」
関東1部リーグに復帰して2年目。それまでの13年間は関東2部リーグ、さらに5年前には神奈川県リーグにまで降格した。苦しいトンネルを抜け、かつての伝統を取り戻そうとチーム一丸となって戦う。着実にステップを踏み、そのステージを1つずつ上げている。
昨季から指揮を執る浅田忠亮監督は「今季の後半戦は5連敗という苦しい時期もありました。選手たちには“こんなもんじゃない”と、内に秘めるものを出そうとしました」と振り返る。5連敗の直後、選手たちの気持ちに火をつけるべく朝練習を敢行した。「うまいだけじゃ駄目だ」。潜在能力を引き出すことに心を砕き、チーム内の競争意識を高めた。
左サイドバックで名前のようにピッチを駆け回る吾妻駆(かける)主将(4年=習志野)は「戦術がどうこうでなく、本当にやるしかないという気持ちの面が大きかった」。最後まで戦い抜く覚悟を決めた。
この一連の流れから、チームは団結心が高まったという。昨季の経験もプラスに働いた。桑山は「5連敗していても雰囲気は悪くなかったし、終盤は下位チームが相手ということもあったので3連勝できる自信があった」と泰然自若とした。
その桑山は今季リーグで11得点を記録した。国士舘大FW東川続、明治大FW中村草太の12得点に1得点及ばず得点王は逃したが、既に町田でプロデビューしている実力を発揮。それでも「毎試合力を出し切れたかといえば、そうではなかった。ワンタッチゴールも多かったし、PKもあった。得点はチームメートに感謝したい」と謙虚に話す。
■昨季から今季は8得点増
今季リーグ戦22試合を戦い、33得点33失点、得失点差はゼロという成績。9位だった昨季は25得点32失点、得失点差はマイナス7点だった。浅田監督は「得点数が増え、得失点差をゼロで終えられたのが良かった。もう少しペナ内、ペナ付近での攻撃のプレー精度を上げたいところだが、総合的にチームに力は付いてきている」と言う。
得点力が向上した背景は何か。浅田監督は「(桑山)侃士がいてくれて攻撃のバリエーションが増えている。昨年は(攻撃が)中に中に行きすぎて引っかかったが、今年は外も使えるようになった。相手は侃士をマークしてくるから、そこだけに頼っているとうまくいかない。周りの選手の成長も大きい」。また、補足するように桑山は「(大塚)瑶平やトラ(星)が個人で打開してくれる」。それぞれの個性がうまく絡み合うようになった。
一方で、なくてもいい失点が多かったのは反省材料だ。次のインカレへの積み残しとして、準備に余念がない。浅田監督は「失点の時間を見ればラスト15分が多くて、その時間を集中して戦えれば、引き分けが勝ちになっていたり、負けが引き分けになっている。トレーニングから“ラスト15分のプレーだよ”と選手たちに投げかけてきました」。全国でも勝てるチームへ、常に課題と向き合い続けている。
■チャレンジャー精神持つ
4年前、コロナ禍でインカレが実施されなかった。同じく未開催となった夏の総理大臣杯も含めた代替大会「#atarimaeni CUP サッカーができる当たり前に、ありがとう!」が無観客開催され、東海大は関東予選から勝ち上がり、県リーグ勢として初の大学日本一に輝いている。
現4年生は当時高校3年生として、その日本一を映像で見た。ただ入学してからの2年は2部リーグ。全国大会出場は遠い目標だっただけに、在学中にインカレまでたどり着けたという喜びは大きい。
吾妻が「狭き門だったので雰囲気もわからないけど、学生最後の試合を楽しみながらも、勝負なのでチーム一丸になって勝ちにいきたい」と言えば、桑山もまた「関東8番目なので緊張もない。チャレンジャー精神で臨みたい。1回勝てば大阪にも行けるし、より多くの試合をこなすために勝ちたい」と意欲を口にした。
7日のプレーオフラウンドで対戦するのは東海地区の名門・中京大だ。攻守に渡ってアグレッシブなサッカーを仕掛けてくる。会場も愛知とアウェーだ。ここで勝てば、シード枠とともに決勝ラウンドへ進出。ただ負けても理事会推薦枠のチームとの強化ラウンドが実施されるのが今回から変更されている大会方式だ。
浅田監督は「中京大は非常にいいチーム。ただ関東の代表として負けられないし、意地もある。関東8位でもやれる。トーナメント戦に強い(インカレで優勝2回、準優勝2回)東海の伝統もある」。OBからの激励の声も次々と届き、期待も高まっている。
■サッカーは少年を大人に
4年間という限られた時間の学生生活は貴重だ。自らを律する寮生活で、部員たちはサッカーと真っ正面から向き合い、学業もおろそかにしなかった。日常生活から何が足りないか? 常に考える習慣が付いたことで、プレーヤーとしての幅も確実に広がった。
サッカーは少年を大人にし、大人を紳士にする-。日本サッカーの父、クラマーさんが残した有名な言葉だ。そんな言葉同様に、成長した選手たちの姿に浅田監督は目を細める。
「彼らが新しい歴史を作ってくれている。選手たちが力を最大限に発揮できるよう準備をしたい。まずは目先の1試合に100%集中させたい。完璧に仕上げ、東海魂をみせつけられるように」
踏み出す1歩が新たな道となる。それを継続していくことでまた、新たな伝統が築かれていく。
東海ブルーの挑戦は、新たなステージへと向かう。【佐藤隆志】