<寺尾で候>
日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。
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最近は米大リーグのアワードの受賞スケジュールが、日本でも詳細に報じられるようになった。これから「ハンク・アーロン賞」「新人王」「サイ・ヤング賞」「MVP」と続くようだ。
これも米大リーグの存在が身近になって、日米格差が縮まった証拠だろうか。近い将来、日本人同士がタイトル争いを演じる動きが珍しくない時代が到来するのかもしれない。
日本でもこれからペナントレースの功労をたたえ、価値あるアワードの受賞が明らかになっていく。「沢村賞」「正力賞」と続いて、間もなく「三井ゴールデングラブ賞」が発表される予定だ。
1972年(昭47)に「ダイヤモンド賞」として創設され、86年から「三井ゴールデン・グラブ賞」になった。シーズンを通して各ポジションで、もっとも守備力が高かった選手を選ぶものだ。
半世紀を超える栄えある同賞で最多受賞は10回の福本豊(阪急)だ。11回の伊東勤(西武)、秋山幸二(西武)、10回の山本浩二(広島)、駒田徳広(巨人、横浜)、古田敦也(ヤクルト)、菊池涼介(広島)が名を連ねる。
阪急ブレーブス外野手だった福本の通算1065盗塁は、リッキー・ヘンダーソンに抜かれるまで世界記録だった。最多安打4回を含む通算2543安打。まさに走攻守の三拍子そろった選手だった。
特にフィールディングで有名なのは、1974年7月22日、オールスター第2戦、本拠だった西宮球場での好守だ。全パが1点ビハインドの5回1死一、二塁、田淵幸一(阪神)が、神部年男(近鉄)から左中間にホームラン性の打球を放った。
これに福本はフェンスによじ登って、ラッキーゾーンに落ちるかといった打球をもぎ取ったのだ。本人も「一生に1度できるかどうかといったプレーです」とコメント。長嶋茂雄(巨人)も「あれは人間業じゃないね。サルの演技ですよ」と絶賛した。
福本は7回にも星野仙一(中日)から、左方向に本塁打を放った。翌23日付の日刊スポーツはこの伝説のプレーを「これがプロ! 福本超美技 走って捕って、そして豪快なアーチ」と1面で報じた。
それにしても、当時のオールスター戦の顔ぶれは華やかだ。当日のクリーンアップは、セ・リーグが田淵、王貞治(巨人)、長嶋、パ・リーグは加藤秀司、長池徳士(いずれも阪急)、土井正博(近鉄)。先発は全セが江夏豊(阪神)、全パが江本孟紀(南海)だった。
さてゴールデン・グラブ賞は記者投票によって選定される。バッティングと違って、守備力の評価は難しい。失策数、守備率だけでは安直になるし、派手なプレーが好まれるわけではない。日本のプロ野球ファンを魅了する顔ぶれであってほしいものだ。(敬称略)
【ゴールデングラブ賞守備位置別受賞回数両リーグ3傑】※複数球団の人は同一リーグで受賞した回数で、両リーグでの合算はしない。
<投手>
8回 西本 聖(巨人、中日)
8回 桑田真澄(巨人)
7回 堀内恒夫(巨人)
7回 松坂大輔(西武)
<捕手>
11回 伊東 勤(西武)
10回 古田敦也(ヤクルト)
7回 城島健司(ダイエー、ソフトバンク)
<一塁手>
10回 駒田徳広(巨人、横浜)
9回 王 貞治(巨人)
7回 中畑 清(巨人)
5回 ロペス(巨人、DeNA)
5回 清原和博(西武)
5回 小笠原道大(日本ハム)
<二塁手>
10回 菊池涼介(広島)
8回 辻 発彦(西武)
6回 荒木雅博(中日)
<三塁手>
8回 松田宣浩(ソフトバンク)
6回 掛布雅之(阪神)
6回 岩村明憲(ヤクルト)
<遊撃手>
8回 山下大輔(大洋)
7回 井端弘和(中日)
7回 大橋 穣(阪急)
<外野手>
12回 福本 豊(阪急)
11回 秋山幸二(西武、ダイエー)
10回 山本浩二(広島)