<明治安田J3:鳥取0-5今治>◇10日◇第36節◇Axis
元サッカー日本代表監督の岡田武史氏(68=日本協会副会長)が会長を務める2位のFC今治が、初のJ2昇格を決めた。敵地でガイナーレ鳥取に5-0で完勝。勝ち点67として残り2試合で3位富山との勝ち点差を9に広げ、自動昇格圏の2位以内を確定させた。
日本唯一2度のFIFAワールドカップ(W杯)指揮を経て、経営参画した2014年から10年。国内5部相当の四国リーグからJFLと駆け上がり、日本初出場の98年W杯フランス大会で共闘した教え子の服部年宏監督(51)と難関のJ3も突破した。現地で見届けた岡田オーナーが、喜びの声を寄せた。【木下淳】
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ホッとしたよ。正直に言うと、もう先週の勝利で(3位富山に勝ち点7差をつけて)堅そうだったから「大丈夫かな」とは思いながら。でも、次の試合、次の試合、とズルズル行くのは嫌だったので、一発で決めてくれた良かった。見ていて、点差以上に難しい内容ではあったけど、来季につながる勝利だったと思う。
服部監督には「お疲れさんでした」と。たくさんのサポーター(約500人)が鳥取まで来てくれて、本当に力になったはず。今治で行われたパブリックビューイングにも、ものすごい数の方々が集まってくれたと聞いたので、勝って昇格して喜んでもらえて、本当に良かった。応援ありがとうございました。
(今季は開幕4連勝も4~5月に4連敗。一時は11位に沈んだが)今年も、過去4年間のようにJ3で足踏みするわけにはいかなかった。監督や強化のメンバーと何度も何度も話し合いながら、今のチームに足りていないものは何か、妥協せずに話し合ってきた。
(6~9月に12戦負けなしと再浮上。8月下旬から2位をキープできた要因は)課題を明確にした。それだけ。基本的なことをやり直そうと。「ボールを本気で奪いにいく」「トレーニングの強度を上げて体のキレを出す」など、戦術どうこうの前に基本を徹底しなければ、理想はあってもベースが足りなければ、勝てるわけがないと。そこに監督も気付いてくれたし、自分も練習に顔を出して助言したし、全員で話し合って立ち直ることができた。
(W杯フランス大会で師弟関係だった服部監督について)この1年で、すごく成長してくれた。とにかく勇気があった。自分から伝えた意見を聞く勇気が彼にはあったし、その中で自らの意志を持って決断して、強化を進めてくれた。みんなで意見は出し合ったけれど、誰よりも監督自身がチームを何とかしたいと思っていて、修正してくれた。本当に感謝している。
おかげさまで、アウェー鳥取戦の初勝利も挙げられた。(過去1分け3敗で)勝ったことがなく、今回も苦戦するかなと思っていたんだけど、勝てないまま(J3卒業を)迎えたくなかったし、頼もしかった。
ビニ(FWマルクス・ビニシウス)も頑張ってくれた。終盤、なかなかコンディションが上がってこなかったんだけど、だいぶ状態が良くなってきて(先発復帰戦で)ハットトリック。うれしかった。来日3年目で、ブラジルから加入した当初は、体のキレは素晴らしいんだけど、まだまだシュートに課題があったり、伸びしろに期待という選手だった印象。それが今治に来て、練習して、本当にうまくなってくれた。1年目は9点、2年目は8点、そして今年、得点ランキング単独トップの18ゴール。日本に来て成長してくれた、何よりの証だ。引き抜かれないようにしないといけないね(笑い)。
来季のJ2に向けては、さらに戦力を増強しなければいけないことは分かっている。いよいよ、予算規模が我々とは段違いのクラブが相手になってくるので、明日からの役員会で来年の予算について、さっそく話し合っていく。
環境も整えたい。ホーム最終戦(24日、対テゲバジャーロ宮崎)もチケットは完売で、自分ですら手配できないくらい。ありがたいことだけど、J2でも完売が続いては申し訳ない。(現行の5000人から)来年の開幕戦でいきなり増やすことは難しいかもしれないけど、シーズン途中には増設できるように動くつもり。(新スタジアム総工費40億円のうち20億円は融資を受けており)とにかく借金を返さなければいけないからね(笑い)。今回がゴールではなく、ここからが大変だ。
(引き続き日本協会で副会長を務め、今春に開校したFC今治高校里山校では学園長に挑戦している。多忙を極め)もう本当に忙しくて忙しくて、気が狂いそうだったよ(笑い)。昇格に向けて、日々の練習を見て服部監督をサポートする時間も増やしたかったし、もちろん今年もアウェー戦は全て現地で見届けたし(羽田~松山間の空港往復をベースに)日帰りも含め、クラブのために全国各地を飛び回った1年だった。
実際、去年は国内線の搭乗回数は「147回」で、お世話になっている航空会社の中で日本一になったんだけど、今年も、もう既に前年を超えているので“2連覇”間違いなし、と言われているそうだ(笑い)。経営に携わった当初、搭乗回数が全国3位になったことは1回あったけど、まさか、この年になって更新するとは。58歳でクラブ経営を始めて、今も50代のままだけど…(実際は68歳)。あれ、勘違い(笑い)。でも、まだまだ頑張れるということなんだろうね。
(14年10月18日の経営参画から10年が経過し)四国リーグで2年、JFLで3年、このJ3では5年かかった。「すぐJ1に上がってみせる」と強気ではいたけど、甘かったね。人口15万人の地方都市のクラブなので、来年以降、資金力の格差が顕著になってくることは確実だけど、だからといって何年もかけて…は、あり得ない。じっくり時間をかけてJ1に上がりたい…なんて、思っていない。
数年後に大きな資金が入ってくる見込みがあるなら話は別だけど、我々は、何年たとうが、収入が大きく増えたり、取り巻く環境が変わったりするわけではないので。今、このメンバーで、どう1年目からJ1昇格を狙っていくか考えないと。その結果として2、3年を要すことは必要な過程かもしれないけど、やるからには一気にJ1を狙わないといけない。
FC今治「リスタート10年」。思い返せば、社員6人、コーチ10人でスタートして、今はバックヤードの社員35人、グローバル事業も含めてコーチは45人まで増えた。それ以外にも、野外研修事業など教育にも力を入れてきた。
(24年1月期の純売上高は約13億円。パートナー収入も22年の6億1600万円から23年は7億4400万円に増加しており)今期もさらに上積みできると思っているし、J2になる来季は大台(10億円)に乗せないと、とても渡り合えない。さらなるご支援をお願いするため、今まで以上に愛されるクラブになっていかないと。今季の残り2戦も来季も引き続き、我々の航海を応援していただければ。(元日本代表監督、FC今治・代表取締役会長)