<東京6大学野球:慶大2-1早大>◇第9週第2日◇10日◇神宮
慶大・清原正吾内野手(4年=慶応)が大学野球に別れを告げた。早慶戦に連勝し、この日で4年間のリーグ戦全日程を終了。父清原和博氏(57)も見つめる中、最後の打席は空振り三振だった。“ラブレター”まで届いた独立リーグなどに挑戦するか、これで野球に区切りをつけるか-。保留とした進路はこの先も注目される。首位早大の連敗に伴い、12日に早大-明大の優勝決定戦が行われる。
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慶大の清原にとって父は「なんでも話せる友達みたいな」人だし、いつでも会える。でも球場には格別の神聖さがある。9回、最後の一塁守備へ向かう途中で、ネット裏へ笑いながら手を上げた。行ってくるよ-。
全てを懸けた早慶戦に勝った。4打数1安打で、4回には同点機をつくった。仲間と抱きつき、涙があふれる。早慶両校の校歌の余韻に浸るより、ネット裏へ一目散。「おとうさん!」。立ち上がって少し背を丸めながら両手を上げる父が、視線の先にいた。普段は愛を込めて「アパッチ」と呼んでいる。
「逮捕されて、父親が大嫌いになりました」と明かしたことがある。でも執行猶予明けに「ごめんな」と謝ってくれた。あの日のキャッチボールは忘れない。「もう1回、元気づけたくて。野球っていうツールがバラバラの家族を戻してくれました」。愛する家族への恩返しに、誰よりも練習を積んで「素人同然」から慶大の4番になった。
子ども心に、父は純粋にかっこよかった。記憶に色濃いのは「やっぱ引退試合っすね」と即答する。「僕も花道を歩かせてもらいました。歓声とスポットライトがすごくて。偉大でかっこよくて」。一方で場の恐怖心も覚えている。「大歓声に慣れてなくて。怖くて、お父さんめがけて花束を持って走って行きました」。そんな少年が前日9日には大観衆の早慶戦でホームラン。立派になった。
恩返しの最終打席は空振り三振。「僕らしくて」と笑った。進路は「腹に落として決めきることはまだできていないので」と明言しなかった。独立リーグなどオファーのある各球団か、就職浪人か。夏には日刊スポーツの取材に、留学なども含め「海外には興味がありますね」と答えたこともある。周りの人々が「何をやっても成功できる」と太鼓判を押す好青年は、どこへ進むのか。広がる世界が類いまれな才能を求めている。【金子真仁】