<東京6大学野球:慶大9-1早大>◇第9週第1日◇9日◇神宮
これがキヨハラだ。早慶戦で慶大・清原正吾内野手(4年=慶応)が4番に座り、神宮左翼席への豪快本塁打を含む4安打の大活躍で圧勝に貢献。ネット裏で見守ったプロ通算525本塁打の父和博氏(57)ら家族に感謝を届けた。敗れた早大は10日の2回戦で勝てば優勝となるが、敗れると明大との優勝決定戦が行われる。
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2万6000人が自分だけを見ている。23秒かけてのダイヤモンド1周に、清原は「特別な経験でしたし一生の思い出になると思います」と宝物を喜んだ。2点リードの6回1死走者なし、防御率1位だった早大・伊藤の失投を引っ張っての1発。ベンチへ戻りながらネット裏を見た。
大観衆に紛れても大好きな輪郭は浮き出る。「もう、ひと目で分かります」。父を左手で指さす。込めた思いは「見たか」と「ここまで育ててくれてありがとう」。詰めかけた野球ファンなら誰もが知る親子の物語。長男の1発に、何十人、何百人もが和博氏の方を向いて拍手喝采。異例の光景が秋の神宮にできた。
これだけの空間を生み出せる資質をもってしても、プロ野球は遠かった。10月のドラフト会議で指名なし。「ドラフトに漏れて、あとは残すは早慶戦だけだったので、僕の全てをかけて調整してきました。少しは報われたかな」。ポジティブに切り替え、全てを懸けて臨んだ晴れ舞台。主役になって「父親のDNAです」と笑ってみせた。
夏にエスコンフィールドでの日本ハム戦で特大弾を打ち、プロ志望届提出への「強い意思に変わった一因」と表現した。この1発は“もっと野球をしたい”と己を促すのか。それとも“最高の思い出”と節目に置き換えるのか。この日も獲得を熱望するBC・栃木の山下徳人監督(59)が視察に訪れたが、野球を継続するかどうかの結論は清原の胸の奥底にだけある。
初本塁打の記念球は父、2号は母で、この日の3号は「弟です」と来春に慶大野球部の門をたたく意思の弟・勝児外野手(慶応高3年)に渡す。家族を再び1つにしてくれた野球で家族に恩返しし、目標は果たした。堀井哲也監督(62)もひそかに4号記念球を狙う中、自分用も-? 最後にやってのける血筋ではある。【金子真仁】
○…2年生左腕の渡辺和大投手(高松商)が9回1失点で3勝目を挙げた。「投げ勝ちたい気持ちが強かったので気合が入っていました」。試合前まで防御率1位だった早大・伊藤樹投手(3年=仙台育英)との投げ合いを制した。今秋はロースコアで投げる展開が続いたが、先発5試合目で今季最多9得点の援護をもらい「大きく打ってくれたので助かりました」。隣にいたアベック弾の4年生水鳥遥貴内野手(慶応)と清原は目尻を下げていた。