スラッガー覚醒の予カ~~ン! 阪神前川右京外野手(21)が4日、高知・安芸キャンプのランチタイム特打で推定130メートルの場外弾をぶっ放した。右翼後方の通称「大豊ネット」を軽くオーバー。実はこの日、脱力してバットを走らせる新打法に挑戦。「初めての感覚」と、自分でも驚く大きな放物線を連発した。116試合出場と飛躍の1年を終えた若き大砲が、4本塁打から大幅アップしそうな雰囲気を放っている。
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高台にある安芸市営球場。前川の打球は、眼下に広がる太平洋に真っすぐ向かうように伸びていった。野口と並んだランチタイム特打の23スイング目だった。球場を勢いよく飛び出した白球が、大勢の観客が行き交うアスファルトの道路に「コツン」とはずんだ。
幸いケガ人はいなかったが誰もが目を丸くした。すぐに球場内をのぞいて“主”を確認する人もいた。合計46スイングして15本のオーバーフェンス。10本の野口とともに、終了時には大きな拍手が送られた。その後の通常フリー打撃では柵越え4本。うち1本はまた球場の外に飛び出した。
「今日の特打はよかったですね」。打球が物語るように、前川の顔には充実の色がにじんでいた。
「フルで振らずに、抜いている感覚で、変に言ったら『サボっている』みたいな。今までは飛ばしたいときは思いっきり振っていたけど、今日の方が打球が飛んでいたし、質もよかった。新しいことに気づけたのかなと。ああいう感覚が続いたのは初めてでした」
目からウロコのサボり打法? は新任の小谷野打撃チーフコーチの助言だった。打撃ケージに入る前に、脱力してバットのヘッドを走らせるよう助言された。同コーチは「今日はよかった。ああやって表現してくれた」とすぐに形で示した若武者に舌を巻いた。
今季は高卒3年目らしからぬ打撃センスを発揮。116試合で打率2割6分9厘と、左翼のレギュラー格へと飛躍を遂げた。1軍に食らいつくため、長打よりも対応力やミートを重視した分、本塁打は4本にとどまった。長打が増えれば大きな武器になる。
「あの感覚で打てたらだいぶいいかなと思います。持ち上げるスイングじゃなくて、普通に振って自然に角度も上がった」。まだまだつかみかけの段階だが、身につけば成績がどう変わりそうか? そう聞かれると、いたずらっぽく笑った。「エイチ・アールが増えるんじゃないですか?」。もちろん、HR=ホームランのこと。新境地に入った若きバットマンから目が離せない。【柏原誠】
▽阪神福島(3日の紅白戦では初球凡退が続き藤川監督とこの日)「積極的に行っている中で、どう考えるかの話をしました。積極的なのはいいことだと思うのでどう捉えてヒットにできるか」
▽阪神井上(一塁手用のグラブで内野フライを捕球する練習)「外野と角度が変わるので難しいところもあります」
◆安芸の場外弾アラカルト
▼フィルダー(89年春)初のフリー打撃で、中堅へ145メートルの特大弾。見物に来ていたファンの車の屋根を直撃。球団が3万円の修繕費を負担し、翌日から付近は駐車禁止となった。
◆ディアー(94年)フリー打撃で、安芸球場過去最大の160メートルアーチ。左翼後方に急造された高さ10メートルの通称「ディアー・ネット」も軽々と飛び越えた。
▼ジョンソン(99年春)フリー打撃で駐車場にまで飛ばし、車を壊しそうになるバックスクリーン(BS)越え140メートル弾。52スイング中、場外へ3発。
▼クルーズ(01年春)フリー打撃で左腕の打撃投手からBSはるか上空を越える一撃。
▼金本(04年春)ランチ特打で、101スイングして5本のBS越え。
▼高山(16年春) ドラ1新人が初の屋外フリー打撃で中堅への2発含む場外弾を5本放った。
▼野口(23年秋) フリー打撃で左翼への推定130メートル弾を含む場外弾を4発。育成ルーキーが猛アピールした。