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茜色の空を見上げ森保監督は涙した…被爆地ヒロシマでのサッカー日本代表戦、平和について考える


世界遺産の原爆ドーム

夏色の空と赤銅色の残骸-。そのコントラストが脳裏に焼きついた。

サッカー日本代表戦の取材で広島を訪れた。試合前日の公式会見と練習を前に、立ち寄ったのは原爆ドームだった。

■今も時間が止まった原爆ドーム

1945年(昭20)8月6日の朝、米軍機から人類史上初の原子爆弾が投下された。あれから79年の歳月が流れた。だが、その場所だけ今も時間が止まっているかのようだった。

ただ静かに立ち続け、当時の姿をさらしている。核兵器の惨禍を後世に伝える遺産として。この日も国内外から多くの観光客が訪れていた。誰もが言葉数少なく、建物に向かって祈りをささげていた。

木漏れ日が心地よい。元安川を北上し、日本代表の取材へと向かう。その会見での森保監督の言葉が胸に突き刺さった。

サッカー人として大成した故郷広島への思い、自らも建設活動に関わったスタジアム「エディオンピースウイング広島」について問われたことへの回答だった。

■現在も多くの戦争、紛争がある

「サッカーはグローバルスポーツであり、日本全国各地のみなさまにサッカーを通して、広島に足を運んでもらいたい。それはなぜかというと、広島は世界に2つしかない、原爆被爆地という土地ですし、現在も世界で戦争、紛争が多く起こる中で悲しい思いをしている。尊い命を、街のみなさんが平穏で穏やかに暮らせるということ、平和を考えていただける。広島で試合があって、エディオンピースウイング広島の近くに平和記念公園、原爆ドームがある中で、歴史に触れていただいて、平和について考えてもらいたい」(一部抜粋)

もう1つの被爆都市・長崎に生まれ育ち、広島でサッカー選手、指導者として長く過ごした。平和への願いは人一倍強く、自然とその言葉が出てきた。

■島病院、旧日本銀行、平和記念公園

翌日、あらためて街に足を運んだ。爆心地の島病院、重要文化財の旧日本銀行広島支店、平和記念公園。広島には過去にも何度か訪れているが、森保監督の言葉を受けてから見るもの、知るもの、どれもが、以前よりも深く心にしみるものとなった。

一瞬にして奪われた日常生活、焼け野原となった町並み、そこからどう再建し、復興に向かったか。平和について考えるとともに、何より今ある日常への有り難さを感じた。

そしてエディオンピースウイング広島へ。シリア戦のキックオフ直前、君が代斉唱の時だった。会場の電光掲示板に映し出された森保監督の顔、その目にはあふれんばかりの涙があった。感情が大きく揺さぶられている様子が手に取るように分かった。

■日本人である喜びと誇り、幸せ

シリアに5-0と大勝した試合後の会見で、その涙についてこう語った。

「広島で現役時代を長く過ごして、いろんな経験をさせていただいた中で、広島にサッカー専用スタジアムができるということは大きな夢の1つだった。ピッチとスタンドが一体になって盛り上がれる素晴らしいスタジアムを作っていただき、そこでプレーできる喜びが出てきて感極まったと思います。国歌を歌っている時は日本人である喜びと誇りと幸せがあふれ出てきますし、それに広島で代表戦をできたという、二重の喜びで涙が出てきました」(一部抜粋)

3バックで両ウイングバックにアタッカーを配した新システムが話題なっている中、試合内容よりも、地元広島への思いの方が胸に響いた。

■政治の前に無力だったスポーツ界

代表監督とは、サッカーという枠を超越した社会のリーダーだと考える。さまざまな知見を持ち、社会に対してメッセージを発することができる。影響力ある立場だからこそ、その言葉がより世間に広く浸透するというものだ。

「スポーツと平和」。思い出すのは、1980年(昭55)のモスクワ・オリンピックでの西側諸国によるボイコット。政治の前にスポーツ界は無力だった。主張は許されず、言われるがまま沈黙するしかなかった。そういう時代だった。

もともと戦時下でスポーツは国威抑揚の道具とされたように、上意下達の命令を受け入れる側にあった。しかし社会の成熟とともに、スポーツを取り巻く環境は変わり、同時に価値や影響力は格段に大きくなった。

■スポーツ観戦を絡めた平和学習

スポーツ界から平和の一助となる行動を起こしていく-。今回の森保監督の言葉は、スポーツ観戦を通じた平和学習というスキームを世間に提示するものだろう。10代の学生時代に修学旅行で訪れた広島へ、今度は自分の好きなスポーツを絡めて再訪する。

それが社会との関わりが強くなっている年齢であれば、以前には見えなかったものが見えてくる。つまり平和という概念を深化させることができる。だから、そんな流れが全国に広がればと願う。

■サンフレ、カープにドラゴンフライズ

広島にはプロ野球のカープやサッカーのサンフレッチェのほか、今季の男子バスケットボールBリーグで初優勝を果たしたドラゴンフライズもいる。加えて、おいしい食べ物が多い。過去の悲しみの街でなく、魅力あふれる未来へと向かう街なのだ。

ピッチ内よりも、ピッチ外に目が向いた今回の日本代表戦。茜色に染まった空を見上げ、涙をこぼす日本代表監督の姿は最高に格好良かった。【佐藤隆志】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「サカバカ日誌」)

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