世界中で数億人が飢餓に苦しんでいる一方で、世界の食料生産量の3分の1に匹敵する13億トンの食料が毎年廃棄されています。まだ食べられるのに廃棄される食品(食品ロス)は、食料安全保障から気候変動、経済に至るまで、社会が直面している深刻な問題の要因となっています。食品ロスの削減に向けた取り組みが加速する中、テクノロジーを駆使して持続可能な食料システムの構築を目指すスタートアップがあります。
食品ロスの現状と社会への影響
国際連合(UN)によると、2014年以降、世界の飢餓は徐々に悪化しており、2022年には推定6億9,100万~7億8,300万人が十分な食料を得ることができませんでした。
食品ロスは飢餓の根本的な要因のひとつで、世界の食品廃棄物量は20億人分(世界の栄養不足人口の2倍以上)に達します。単純計算すると、食品ロスがゼロになれば、世界中の人々に十分な食料が行き渡るということです。
食品ロスは土地や水、エネルギーなどの資源を浪費し、生産から加工、輸送、廃棄までの過程で大量のCO2やメタンガスを排出するなど、地球温暖化にも大きな影響を与えています。食料廃棄物を国に例えると、世界で3番目にCO2排出量の多い国になるというから驚きです。
欧州の食品ロスに挑むスタートアップ3社
食料ロスの問題に取り組み、循環経済に向けた食品サプライチェーンの再構築にチャレンジしているスタートアップがあります。以下、革新的なアイデアと技術を誇る欧州スタートアップ3社を見てみましょう。
【1】レストランや食料品店の余剰食品売買アプリ「Karma」
レストランや食料品店から、毎日大量に廃棄される余剰の食品をリサイクルする発想を形にしたのがスウェーデンのKarma(カルマ)です。
同社のアプリは、卸売業者や小売業者、レストラン、ホテルなどで余っている食品を消費者に低価格で提供しています。現在はスウェーデンや英国、フランスの225都市でユーザー数1,400万人、小売業者数9,200万人が利用しています。過去7回の資金調達ラウンドで、総額2,414万ドル(約35億4,858万円)を獲得しています。
【2】家庭用食品管理AIアプリ「Nosh Technologies」
「必要な分だけ買う」「食べ切れる量を作る」は、家庭で食品ロスを減らすための基本的ルールです。しかし、いざ実行するとなると簡単ではありません。
英国のNosh Technologies(ナッシュ・テクノロジーズ)は、消費者が簡単に家庭での食品ロスを削減できるAI搭載アプリを提供しています。店頭で並んでいる食材のバーコードをスキャンするか入力すると、消費期限をリアルタイムで管理してくれるため、食べ忘れを防止できます。
すでに家にある食材を使ったレシピの提案や個人の好みに合わせた献立の作成、ショッピングリスト、地元の小売業者から食材を割引価格で購入できるショップ機能など、時間とお金の節約効果も期待できるアプリです。
同社は、英国のイノベーションを促進するために使われる助成金で5万ポンド(約945万円)を獲得しています。
【3】果物の種を食品やガーデニング材に加工「Kern Tec」
果物産業が排出する種の量は、年間50万トン以上あります。オーストリアのKern Tec(ケルン・テック)は特許取得済みの加工技術を活用し、本来廃棄物として処分される核果の種から植物性代替ミルクやヌガー(※1)などを製品化しています。
同社はシリーズAラウンドで欧州イノベーション評議会(EIC)などから総額1,280万ドル(約18億8,160万円)を調達し、現在までに4万トンの核果(※2)を加工しました。
(※1)砂糖やハチミツ、ナッツを材料とする仏伝統菓子のこと。
(※2)中心に堅い核をもつ果実のこと。
市場規模19兆円超え?
サステナビリティ意識の高まりと脱炭素社会への移行を受け、食品ロスの防止や廃棄物の回収、リサイクル、追跡などを含む食品廃棄物管理市場は、今後も堅硬な成長を維持すると期待されています。
カナダおよびインドを拠点とする市場調査企業Precedence Research(プレセデンス・リサーチ)の予想によると、世界の食品廃棄物管理市場規模は2023~2032年の期間に年平均成長率6.5%で成長し、1,347億ドル(約19兆8,009億円)に達する見通しです。
新たなビジネスや投資チャンスの創出にも貢献
食品ロスの削減は、SDGs(持続可能な開発目標)を達成する上での課題です。このような取り組みが食品ロスの削減だけではなく、新たなビジネスや投資チャンスの創出に貢献することは間違いありません。一方で、消費者一人ひとりの心がけや主体的な行動が削減につながることが期待されます。Wealth Roadでは、今後も食品ロスやSDGs、ESGに関する動向をレポートします。
※為替レート:1ドル=147円、1ポンド=189円
※上記は参考情報であり、特定の銘柄の売買及び投資を推奨するものではありません。
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