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米相互関税のグローバルな影響についての第一印象


トランプ政権は、2023年4月2日に国・地域ごとの相互関税措置を発表しました。大きなサプライズとして、中国向けの追加関税率が54%と高く設定され、日本への追加関税が24%と予想されていた水準を上回りました。また、東南アジアや南アジア主要国への関税率も高く設定されました。この措置はグローバル金融市場で大きな動揺を引き起こし、米国景気に短期的な下押し圧力を与えると予測されています。今後の注目点は、各国の報復措置、追加関税が含まれなかった品目の動向、追加関税軽減のための交渉の進展です。

※インベスコ・アセット・マネジメント株式会社が提供するコンテンツです。

要旨

トランプ政権の相互関税についての3つのサプライズ

トランプ政権が4月2日に発表した国・地域ごとの相互関税措置はグローバル金融市場にとって大きなサプライズとなりました。具体的には、①中国向けの追加関税率が54%という高い水準に設定された点、②日本への追加関税率が24%と、金融市場で一般的に想定されていた10~15%程度の水準をかなり上回ったこと、➂米国の貿易赤字額が比較的大きい東南アジア、南アジアの主要国への追加関税率がかなり高めになったこと―がサプライズとなりました。

追加関税措置は今年後半の米国景気減速要因に

今回の追加関税措置は、米国景気に対して、これまでの金融市場の想定を上回る短期的な下押し圧力をもたらすと考えられます。一定の前提を用いてラフに試算すると、一連の追加関税措置により、米国のインフレ率が7-9月期には4%台半ばまで上昇する可能性が高いことがわかりました。

米相互関税措置の市場インパクトと今後の注目点

今回発表された相互関税措置はグローバル金融市場に大きな動揺をもたらしており、当面は金融市場のボラティリティーが大きくなると見込まれます。今後については、①追加関税を課されることになった各国・地域の政府による報復措置、②今回の米国による追加関税措置に含まれなかった一部品目(薬品、半導体など)についての追加関税の動向、➂米国と貿易相手国による、追加関税軽減のための「ディール」の動向―に注目したいと思います。

トランプ政権の相互関税についての3つのサプライズ

トランプ政権が4月2日に発表した国・地域ごとの相互関税措置はグローバル金融市場にとって大きなサプライズとなりました。最も大きなサプライズとなったのは、中国からの輸入品について34%の追加関税を課すとし、違法薬物であるフェンタニルに関連してすでに課していた20%と合わせて、追加関税率が54%という高い水準に設定された点です。カナダ、メキシコについては以前から追加関税を課していることで今回の相互関税の適用から除外されたのと対照的な結果となりました。今回の発表では、これまでは追加関税が課されなかった、米国の消費者による少額(800ドル以下)の輸入についても追加関税が課されることも明らかになりました。この点も中国から米国向けの輸出に悪影響をもたらすとみられます。米国側統計によると、米国の対中貿易赤字は295.4億ドル(2024年)と、財の貿易赤字全体(1.2兆ドル)の24.6%を占めたことから、相応の厳しい措置が想定されていましたが、54%という水準は中国から米国への輸出を大きく減少させる可能性が高いマグニチュードであり、「貿易戦争」といっても差し支えないほどの事態が生じていると考えられます。中国から米国への財輸出は中国のGDPの2.3%(2024年)に相当するため、中国経済には大きな打撃がもたらされるとみられます。中国当局は、3月上旬の段階でかなり緩和的な2025年予算を公表済みですが、今回の米国による関税措置を受けて、今年後半に追加的な財政刺激策を実施する可能性が高いとみられます。

第2のサプライズは、日本への追加関税率が24%と、金融市場で一般的に想定されていた10~15%程度の水準をかなり上回ったことです。今回の措置により、すでに25%の追加関税を課されることになった自動車・部品や鉄鋼・アルミニウム以外の米国向け輸出品にも、ほぼ同レベルの追加関税が課されることになりました。今回の発表前の段階では、EU(欧州連合)向けの追加関税は20%程度とみられており、相互関税措置によって日本の輸出品が欧州製品に比べて有利になるとの観測がありました。しかし、今回の措置によってそうした見方は修正を余儀なくされました。台湾、韓国への追加関税率が、それぞれ32%、25%に設定されたことから、今回の追加関税措置による日本の対主要国と比較した相対的な輸出競争力には大きな変化がない、と判断できます。日本から米国への財輸出が、日本のGDPの3.5%を占めている(2024年)ことをふまえると、今回の追加関税措置による日本経済の前期比でみた実質GDP成長率への悪影響は4-6月期と7-9月期に大きくなるとみられます。今回の措置が、後述するように、短期的な米国景気の悪化をもたらす可能性が高いことを考えると、日本経済は4-6月期、7-9月期のどちらかにゼロ%成長程度に陥るとみられます。

(図表1)米国が課す各国・地域への追加関税率(4月2日発表分まで含む)

第3のサプライズは、米国の貿易赤字額が比較的大きい東南アジア、南アジアの主要国への追加関税率がかなり高めであったことです。ベトナムには46%、タイには36%、インドネシアには32%、インドには26%、マレーシアには24%の追加関税率が課されることになりましたが、これは、米国のこれらの国々に対する貿易赤字額の大きさを踏まえたものであるとみられます(図表2)。また、ベトナムやタイが中国メーカーの対米輸出拠点として多く活用されている点も、その背景に挙げられます。これらの諸国のGDPに対する対米貿易黒字額は比較的大きいことから、景気には相応の悪影響が出るとみられます(図表3)。

(図表2)米国が課す追加関税率と、米国の主要相手国・地域別貿易収支(2024年)

(図表3)米国が課す追加関税率と、主要国・地域のGDPに対する対米貿易黒字の比率(2023年)

追加関税措置は今年後半の米国景気減速要因に

今回公表された米国による10%のベース追加関税措置と主要貿易相手国に対する追加関税措置は、米国景気に対して、これまでの金融市場の想定を上回る短期的な下押し圧力をもたらすと考えられます。手元のデータを使い、一定の前提を置いてラフな推計を試みると、これまでトランプ政権が公表した措置を含めた追加関税措置により、米国の実効関税率が20%ポイント程度上昇する可能性があることがわかりました。これによる米国のインフレ率への押上げ効果は2%ポイント程度とみられますが、その多くが7-9月期までに顕在化するとみられます。この分析が正しいとすると、2月における米国の個人消費支出デフレーター上昇率は前年同月比で2.5%でしたので、一連の追加関税措置により、このインフレ指標が7-9月期には4%台半ばまで上昇することになります。私は米国景気についての見方を当レポートの先週号(「グローバル景気・市場についての見方を変更」)で下方修正しましたが、今回の公表された追加関税措置によるインフレ率の上昇が消費者の購買力の低下をもたらすことを考慮すると、4-6月期と7-9月期の米国の成長率は0%台にまでに低下する可能性が高くなります。米国経済が景気後退に陥るリスクは上昇したと言わざるをえません。

米相互関税措置の市場インパクトと今後の注目点

今回発表された相互関税措置はグローバル金融市場に大きな動揺をもたらしており、当面は金融市場のボラティリティーが大きくなると見込まれます。金融市場における今回の相互関税措置の市場インパクトをみるうえでは、米国景気への下押し圧力が強まる点と追加関税を課せられた個別国の景気・企業業績見通しが下方修正される点が重要となります。今回の相互関税措置は、米国経済に対しては短期的にインフレ圧力と景気悪化圧力をもたして「スタグフレーション」のリスクを高める一方、米国以外の国には、デフレ圧力と景気悪化圧力をもたらすとみられます。

足元では米10年国債金利が4.06%まで下落し(日本時間で4月3日正午の執筆時点、以下同様)、グローバルにドル安の動きが強まっています。日本では、10年国債金利が1.40%を割っていますが、米国の長期金利の低下幅が日本の長期金利の低下幅を上回っていることで、1ドル=147円台半ばまでの円高ドル安が進行しています。今回の米政権の追加関税措置の影響を世界で最も早く織り込む主要市場となった日本株市場では、日経平均株価が前日比で3%弱下落しています。輸出関連銘柄が、米中景気の悪化や円高を織り込む形で下落しているほか、長期金利の低下によって金融株にも下押し圧力がかかっています。他のアジア市場では、現時点(日本時間で4月3日正午)では、中国と並んで非常に高水準の追加関税措置が課されることになったベトナム株の下落幅が大きい状況です。これは、グローバルにみて対米貿易黒字がGDPに占める割合の大きさが、年初来の株価を左右する状況下、ベトナム株については、米国向け輸出に対する経済のエクスポージャーが非常に大きいにもかかわらず株価が強めの動きをしてきたためと思われます(図表4)。

今後については、①追加関税を課されることになった各国・地域の政府による報復措置、②今回の米国による追加関税措置に含まれなかった一部品目(薬品、半導体など)についての追加関税の動向、➂米国と貿易相手国による、追加関税軽減のための「ディール」の動向―に注目したいと思います。

(図表4)各国・地域の主要株価指数の米ドル建て騰落率(年初来、4月1日までの間)と主要国・地域のGDPに対する対米貿易黒字の比率(2023年)

木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト

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MC2025-035

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