
2025年6月17日
企業広報戦略研究所(C.S.I.)
(株式会社電通PRコンサルティング内)
個人投資家の「非財務資本認知」が企業の魅力や価値向上に影響「人的資本」と「社会・関係資本」の両方が伝わっている人ほど企業への魅力評価が高い
上場企業533社と個人投資家3,680人を対象に、「非財務クロスバリューモデル」で調査
企業広報戦略研究所(所長:阪井完二、所在地:東京都港区、株式会社電通PRコンサルティング内)は、非財務情報に関する企業のコミュニケーション活動の実態と個人投資家の認識を明らかにすることを目的に、2024年に上場企業を対象とした「企業調査」、および株式保有者を対象とした「個人投資家調査」を実施しました。
2つの調査を、慶應義塾大学総合政策学部(神奈川県藤沢市)保田隆明教授の監修の下、開発した「非財務クロスバリューモデル」を用いて集計・分析しました。本モデルを用いた調査は、2023年に続き2回目となります。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202506130471-O17-7283LLNi】
※「非財務クロスバリューモデル」の詳細は添付リリースP.8参照
「非財務クロスバリューモデル」は、国際統合報告評議会(IIRC)のフレームワークにある6つの資本のうちの、財務資本を除いた5つの「非財務資本」と、その資本を用いて、社会から解決を求められている「経営課題(ESG)」をクロスして計15領域に分類することで、各項目が持つ「非財務“価値”」を見える化したモデルです。
本リリースは、2024年5月19日から8月20日に上場企業約3,800社の広報担当責任者宛てに調査票を送付し回答をいただいた「企業調査」533社のデータと、2024年7月に全国の個人投資家(※)3,680人を対象にした「個人投資家調査」のデータを、集計・分析した結果です。
※個人投資家:国内・海外上場株式保有者
調査結果のポイント
1. 企業が、現在発信している非財務情報、今後発信を強化したい非財務情報ともに、「人的資本」が1位で、2位が「社会・関係資本」。
2. 企業が、今後発信を強化したい項目のトップは、「従業員が働きやすい制度設計を通じた従業員エンゲージメントの向上」。
3. 個人投資家が、現在発信をしていると感じる非財務情報、今後発信を期待する非財務情報ともに、「人的資本」が1位で、2位が「社会・関係資本」。
4.個人投資家に「人的資本」と「社会・関係資本」の両方が伝わっていると、一方だけが伝わっている場合よりも、その企業に対して魅力を感じる割合が約2.8倍に。
5. 「働きやすさ」と「透明性の高い経営」は、個人投資家が企業を評価する際の重要なファクターに。
6. 企業・個人投資家がともに重視するのは、「働きやすさ」や「経営の透明性・健全性」。
< 企業調査 > 結果
企業が、現在発信している非財務情報、今後発信を強化したい非財務情報ともに、「人的資本」が1位で、2位が「社会・関係資本」。
近年、企業価値の評価において、人的資本をはじめとした非財務情報の重要性が増しています。
この非財務情報に関する企業のコミュニケーション活動の実態を探るべく「企業調査」を実施しました。
上場企業約3,800社の広報担当責任者宛てに実施した調査に回答いただいた533社のデータでは、「現在発信している非財務情報」の1位は、「人的資本」(88.4%)、次いで「社会・関係資本」(79.9%)となりました。次に、「今後発信を強化したい非財務情報」を聞いたところ、こちらも1位が「人的資本」(70.4%)、2位が、「社会・関係資本」(69.4%)と、1位と2位の項目の順位が同じ結果となっています。
注目を集める「人的資本」とともに、それをステークホルダー間や、内部で共有する能力である「社会・関係資本」が高いという結果は、企業の広報コミュニケーション活動が果たす役割がますます重要になっている、という傾向が表れていると考えます。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202506130471-O11-k2UByqv4】
※6項目のうち1つ以上の各資本に属する項目を選択した割合
企業が、今後発信を強化したい項目のトップは、「従業員が働きやすい制度設計を通じた従業員エンゲージメントの向上」。
「今後発信を強化したい非財務情報」の30項目(各資本で6項目ずつ、5資本×6項目の計30項目)では、1位が「従業員が働きやすい制度設計を通じた従業員エンゲージメントの向上」(49.3%)となりました。トップ5のうち、3項目が「人的資本」、2項目が「社会・関係資本」となっています。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202506130471-O14-B20YIpS8】
< 個人投資家調査 > 結果
個人投資家が、現在発信をしていると感じる非財務情報、今後発信を期待する非財務情報ともに、「人的資本」が1位で、2位が「社会・関係資本」。
個人投資家の認識を把握するため、「個人投資家調査」(n=3,680)を実施しました。非財務情報の30項目は「企業調査」と同じ項目を使用しています。
個人投資家が、「現在発信をしていると感じる非財務情報」の1位は「人的資本」(53.0%)、2位は「社会・関係資本」(44.9%)となりました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202506130471-O16-7370SZYt】
また、「今後発信を期待する非財務情報」でも、上記「現在発信をしていると感じる非財務情報」と同様の順位となりました。
1位が「人的資本」、2位が「社会・関係資本」というのは、「企業調査」での結果と同様の順位となっています。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202506130471-O15-luFYAG6T】
企業側、個人投資家側のどちらの認識も、「人的資本」と「社会・関係資本」に注目していることがうかがえる結果となりました。
個人投資家に「人的資本」と「社会・関係資本」の両方が伝わっていると、一方だけが伝わっている場合よりも、その企業に対して魅力を感じる割合が約2.8倍に。
「企業調査」、「個人投資家調査」ともに数値の高かった「人的資本」と「社会・関係資本」について、その認識状況と企業に対して感じる「魅力」の度合い、「経済的価値」、「社会的価値」といった企業への評価との関係性を分析しました。調査データは、「個人投資家調査」の結果を基に分析しています。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202506130471-O18-uOjAkvNX】
個人投資家が、「人的資本」のみを認識している場合と比較し、「人的資本」「社会・関係資本」の両方を認識している場合とでは、企業に対して感じる「魅力」の全体平均より上回る割合が7.9ptから22.0ptへと約2.8倍向上しました。
同様に、「経済的価値」や「社会的価値」との関係性を分析しました。どちらも「人的資本」と「社会・関係資本」がセットで伝わる方が、全体平均を上回る割合が2倍以上に向上する結果になりました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202506130471-O20-7CizOv9M】
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「働きやすさ」と「透明性の高い経営」は、個人投資家が企業を評価する際の重要なファクターに。
「個人投資家調査」のデータから、企業に対して感じる「魅力」の度合い、「経済的価値」、「社会的価値」の3つの評価項目を目的変数に、非財務情報の30項目を説明変数に、重回帰分析を実施しました。
「人的資本」の6項目を見ると、「透明性の高い経営体制の構築」が、「魅力」・「経済的価値」・「社会的価値」のすべての項目と関係性があることが示されました。また、「従業員が働きやすい制度設計を通じた従業員エンゲージメントの向上」と、「魅力」、「経済的価値」との関係性が示されました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202506130471-O22-77TKGg8N】
< 企業調査 × 個人投資家調査 > 結果
企業・個人投資家がともに重視するのは、「働きやすさ」や「経営の透明性・健全性」。
「企業調査」の今後発信を強化したい非財務情報を縦軸に、「個人投資家調査」の今後発信を期待する
非財務情報を横軸に散布図を作成しました。縦軸も横軸も平均値よりも高い項目は、9項目となりました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202506130471-O13-bvi1L8vQ】
< 企業調査 >< 個人投資家調査 > 概要
< 企業調査 >
■調査対象:プライム市場、スタンダード市場、グロース市場に株式上場している企業(3,798社)
広告・PR業他社は除く
■調査手法:郵送、およびインターネット調査を併用
■調査期間:2024年5月19日~8月20日
■有効回答数:533社(有効回答率14.0%)
< 個人投資家調査 >
■調査対象:全国の20~69歳の男女 計10,000人のうち、「国内上場株」「国内上場株(NISA枠)」「海外上場株」「海外上場株(NISA枠)」のいずれかの株式保有者 n=3,680人
■調査手法:インターネット調査
■調査期間:2024年7月14日~7月24日
■調査対象企業:20業界200社(業界ごとに500人ずつで調査) *添付リリース9ページご参照
※本リリース上のスコア構成比(%)は小数第2位以下を四捨五入しているため、表において加減の結果が小数第1位で異なる場合や、合計が必ずしも100%にならない場合があります。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202506130471-O7-9GC74Oio】
■過去の非財務クロスバリューモデルを用いた調査については、以下よりご参照ください
https://www.dentsuprc.co.jp/csi/csi-topics/20240415.html
<お願い>
本調査内容を転載・引用する場合、転載者・引用者の責任で行うとともに、当研究所の調査結果である旨を明示してください。
企業広報戦略研究所とは
(Corporate communication Strategic studies Institute : 略称C.S.I.)
企業経営や広報の専門家(大学教授・研究者など)と連携して、企業の広報戦略・体制などについて
調査・分析・研究を行う、(株)電通PRコンサルティング内の研究組織です。
2013年12月設立 所長:阪井完二
企業広報戦略研究所サイト http://www.dentsuprc.co.jp/csi/
< 個人投資家調査 > 調査対象企業一覧
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202506130471-O23-tL9lE6EO】
監修
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202506130471-O3-17Wqq3Px】
保田 隆明先生 慶應義塾大学 総合政策学部教授
リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券で投資銀行業務に従事した後に、SNS運営会社を起業。同社売却後、ベンチャーキャピタル、金融庁金融研究センター、小樽商科大学大学院准教授、昭和女子大学准教授、神戸大学大学院経営学研究科准教授および教授を経て、2022年4月から現職。2019年8月より2021年3月までスタンフォード大学客員研究員としてアメリカ・シリコンバレーに滞在し、ESGを通じた企業変革について研究。複数社の上場企業の社外取締役および監査役も兼任。主な著書に『企業価値に連動する人的資本経営戦略』(中央経済社、2024年)、『ESG財務戦略』(ダイヤモンド社、2022年)、『地域経営のための「新」ファイナンス』(中央経済社、2021年)、『コーポレートファイナンス 戦略と実践』(ダイヤモンド社、2019年)等。博士(商学)早稲田大学。1974年兵庫県生まれ。
現在の企業経営において、「人的資本」はもはやコストではなく、企業価値を生み出す源泉としての認識が高まっています。企業が持続的に成長し、資本市場から適切に評価されるためには、人的資本への戦略的投資とマネジメントが不可欠です。特に人的資本を含む無形資産の強化は、キャッシュフローの向上や資本コストの引き下げといった経営の根幹にまでポジティブな影響をもたらします。そして、さらに重要なのは、こうした取り組みを社内外のステークホルダーに対していかに効果的に伝え、共有するかという点です。
対外的には、個人投資家や機関投資家に向けて、人的資本の育成状況や成果、組織の変革力(アジリティ)や耐久力(レジリエンス)といった特性を、具体的かつ一貫性のある形でIR活動として発信していく必要があります。一方、対内的には、経営の方針や人的資本戦略を従業員と共有し、理解と納得のもとでエンゲージメントを高めることが、組織の一体化と変革推進力の源になります。こうした対外的な「発信」と社内「共有」の両輪で、人的資本経営は企業価値へと昇華されるのです。
今回の調査では、企業・個人投資家の双方が「人的資本」と「社会・関係資本」を重要視しているという結果が明らかになりました。中でも、「従業員が働きやすい制度設計を通じたエンゲージメントの向上」や「透明性の高い経営体制の構築」など、企業の内面に根差した取り組みが高く評価されています。特筆すべきは、「人的資本」と「社会・関係資本」の両方が投資家に伝わっている企業は、そうでない企業と比べて2.8倍も「魅力的」と認識されている点です。これは、単なる情報開示ではなく、双方向的なコミュニケーションによる良好な関係構築が重要であることを示唆しています。
非財務情報の開示がますます求められる今、企業が発信する情報とその受け手である個人投資家の認識を把握することは、企業価値向上のために極めて重要です。本リリースにある研究成果は、その課題に向き合い、データ分析を通じて実態を可視化した有意義なものです。経営者やIR、広報担当者の皆さまは、この研究成果を参考に、自社の情報開示のあり方を、見つめ直す契機としていただければ幸いです。