果物の王様ドリアン、開花の秘密は15日程度の乾燥にあり!
東京都立大学の研究チームは、ドリアンの開花を誘導する具体的な気象条件を明らかにしました。15日間の降水量移動平均が1mmを下回ると、約50日後に開花が誘導される可能性が高まることを発見しました。この結果は、ドリアンの栽培管理の効率化や東南アジア熱帯雨林の生態研究に寄与することが期待されています。また、ドリアンの開花メカニズムが東南アジアの一斉開花現象と類似することも示されました。研究では、栽培方法が開花フェノロジーに影響しないことも確認され、年に数回の頻度で発生する乾燥条件がドリアンの開花頻度と関係していると考えられます。
東南アジア原産で、果物の王様として知られる熱帯果樹ドリアンは、経験的に乾燥や低温によって開花が誘導されると考えられてきましたが、開花を誘導する具体的な気象条件はわかっていませんでした。東京都立大学大学院都市環境科学研究科の江口碧博士後期課程学生(日本学術振興会特別研究員)、沼田真也教授、Noordyana Hassan客員研究員(マレーシア工科大学上級講師)らは、緻密な現地調査を通じて、15日間降水量移動平均が1mmを下回るとドリアンの開花が誘導され、約50日後に開花が起こる可能性が高いことを明らかにしました。また、ドリアンの開花メカニズムは、東南アジア熱帯雨林で見られる一斉開花現象(多くの樹種が不定期に同調して開花する現象)で見られる樹木の開花メカニズムと類似することも示されました。本研究の成果は、開花時期や収穫量の予測などドリアンの栽培管理の効率化に貢献するだけでなく、東南アジア熱帯雨林の生態や進化の解明に寄与することが期待されます。
本研究成果は、2024年11月12日付でSpringer Nature社が発行する英文誌International Journal of Biometeorologyに掲載されました。本研究はJSPS科研費22J21299、東京都立大学派遣留学生経済支援制度の助成を受けて行われました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202411190243-O2-63dMZhFW】
2.ポイント
・15日間降水量移動平均が1mmを下回った約50日後に開花開始のピークが観察された。
・半島マレーシア南部では、15日程度続く乾燥は年に数回見られ、一斉開花現象を誘導する気象条件(30日程度)よりも高頻度で発生していた。
・異なる繁殖型(接ぎ木タイプ、種子栽培タイプ)間で開花フェノロジー1)の違いは見られなかった。
3.研究の背景
その芳香と見た目が特徴で、果物の王様として知られるドリアン(Durio zibethinus L.)は、東南アジア原産の果樹です。主にタイ、マレーシア、インドネシアで栽培されています。ドリアンは、特にマレーシアの果樹生産量、生産額のうち最も大きな割合を占め、近年は中国への輸出需要増加に伴う市場拡大が見込まれているなど、経済的に重要な果樹として注目されています。そのため、ドリアンの生産量や環境への応答は生産管理や気候変動の影響を理解するために重要ですが、研究はあまり進んでいませんでした。
ドリアンの開花や結実時期にはその地域の降雨季節性との相関が見られます。例えば、年に1~2度の乾季がみられる半島マレーシアではドリアンの収穫期は年1~2回で、乾季に開花が起こると言われてきました。また、先行研究により乾燥や低温といった気象条件がドリアンの開花誘導に関与している可能性が示唆されてきましたが、ドリアンの開花を誘導する具体的な気象条件はわかっていませんでした。
4.研究の詳細
本研究では、ドリアンの野生種2種(Durio dulcisとDurio oxleyanus)が数年に一度の頻度で多くの樹種が同調的に開花、結実を行う一斉開花現象に同調することから、一斉開花現象のメカニズムがドリアンの開花トリガーに応用できると仮定しました。しかし、本研究対象である栽培種のドリアンは毎年開花するため、一斉開花現象のトリガーとなる数年に一度の頻度で発生する極端な乾燥や低温ではなく、毎年発生しやすい気象条件がドリアンの開花を誘導するという仮説を立てました。この仮説を検証するため、半島マレーシア南部に位置するマレーシア工科大学内の果樹園で栽培されている110本のドリアンの開花日データを収集し、マレーシア気象局から入手した気象データと比較することで、開花前にみられる乾燥と低温について分析しました。その際、果樹園内のドリアンは繁殖方法によって接ぎ木タイプと種子栽培タイプの2タイプに分けて分析を行いました。
約1年半の調査の間に5回の開花が記録されました(図1)。半島マレーシアではドリアンの収穫期は年1~2回とされ、開花期も同様と考えられていましたが、2023年には3回の開花が観察されました。また、1~4回目の開花期の中央値に接ぎ木タイプと種子栽培タイプ間で有意差は見られず、繁殖方法は開花フェノロジーに影響しないことが示唆されました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202411190243-O1-atrayLEs】
図1 ドリアンの開花フェノロジー。a. 接ぎ木タイプの初開花日の分布、b. 種子栽培タイプの初開花日の分布、c. 日降水量(mm)、d. 日最低気温(℃)。
続いて、乾燥の程度を評価するため、5日間、10日間、15日間、20日間、30日間の降水量移動平均を算出し、5つの開花期との関係を調べたところ、すべての初開花日は15日間降水量移動平均が1mmを下回った約50日後に観察されたことが明らかになりました(図2)。この結果は、約15日間にわたる乾燥の蓄積がドリアンの開花を誘導している可能性が高いことを示唆しています。先行研究では18日間の連続無降水日(日降水量<1mm)がドリアンの花芽誘導に必要であるとされていましたが、本研究ではより弱い乾燥条件でドリアンの開花が誘導されていたと考えられます。
一方、本研究で明らかになったドリアン開花を誘導する気象条件は、一斉開花現象に同調する一部の樹種(フタバガキ科)の開花誘導条件と類似することが示唆されました。しかし、一斉開花現象に同調する樹種のシグナル蓄積期間が30日程度なのと比較して、ドリアンは15日程度と短いことも明らかになりました。半島マレーシアでは15日程度の乾燥は年に数回の頻度で発生します。実際、一斉開花の発生は2~5年に一度の頻度ですが、ドリアンは年に2度ほど開花しますので、このような乾燥に対する応答性がドリアンの開花頻度や季節性を決定していると考えられます。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202411190243-O3-AKW7K9N0】
図2 開花イベントごとの初開花日の分布と15日間降水量移動平均、最低気温との関係。青は種子栽培タイプ、赤は接ぎ木タイプ。
5.研究の意義と波及効果
本研究では、緻密な現地調査に基づいて、ドリアンの開花のトリガーとなる具体的な乾燥条件を明らかにしました。本研究の成果は、開花時期や収穫量の予測などドリアンの栽培管理の効率化に貢献するだけでなく、東南アジア熱帯雨林の生態や進化の解明に寄与することが期待されます。
6.用語解説
1) 開花フェノロジー:植物が花を咲かせる時期やパターンのこと、また開花時期と特定の季節や環境条件との関係
7.論文情報
<タイトル> Dry spells trigger durian flowering in aseasonal tropics
<著者名> Aoi Eguchi, Noordyana Hassan, Shinya Numata
<雑誌名> International Journal of Biometeorology
<DOI> 10.1007/s00484-024-02819-x
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