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エアコンから採取されたカビのアレルゲン情報公開


~タンパク質解析技術により、カビのアレルギー原因究明に貢献~

 藤田医科大学 医学部 内科学・第2 (所在地:愛知県豊明市沓掛町田楽ケ窪1番地98 学長:湯澤由紀夫)、独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE(ナイト) 理事長:長谷川史彦 本所:東京都渋谷区西原2-49-10)は、エアコンから採取されたカビ(Aspergillus fumigatus(※1)NBRC 113945)のタンパク質とアレルゲンの情報を、NITEが運営する「生物資源データプラットフォーム(DBRP(※2))」に登録し、3月27日から公開を開始しました。これらの情報は、アレルギー性喘息やアレルギー性気管支肺真菌症(ABPM)の原因究明および検査のために役立つデータとなることが期待されます。

 今回の公開情報URL
 https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/dataview?dataId=PROJ0000100000017

 
研究のポイント
・エアコンに存在するカビやキノコ類を調査し、タンパク質とアレルゲン情報を解析した
・カビが原因とされているアレルギー性喘息やアレルギー性気管支肺真菌症などの疾患とエアコン内のカビやキノコとの因果関係解明の手掛かりとなる
・DBRPに公開された情報が活用され、さらに病態が解明されることにより、エアコンや空気清浄機等のフィルターの改良および一般臨床でのアレルゲン検査が可能になり発症前の早期発見や重症化予防につながることが期待される

研究の背景
 日本人の7%ほどが喘息に罹患しているといわれ、喘息は患者さんの日常生活に大きな影響を与えています。さらに、喘息患者の約10%が真菌アレルギー喘息で、真菌アレルギーがあると喘息が重症化することが知られています。また、そのような患者さんは、室内の真菌濃度が高いと喘息症状が悪くなります (*1) 。新型コロナウイルス流行以後、室内で過ごす時間も多くなり、室内アレルゲンに対する知見や対策の社会的意義は、高くなっています。
 室内に増悪因子がある場合、睡眠の質が下がることも多く、実際に喘息患者さんの多くが夜間症状で苦しんでいます。室内の空気に影響を与えるエアコン内の真菌調査はこれまでに知見が乏しく、どのような真菌が患者宅のエアコン内に存在するのかを明らかにする事は、患者の日常生活の質にも関わる重要な課題です。
 カビが原因である喘息症状を起こす病気に、Aspergillus属のカビが人の気管支に入って発症するアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA:allergic bronchopulmonary aspergillosis)が知られています。Aspergillus属は土壌や住環境など、どこにでも存在するカビですが、好温性のAspergillus属は、通常のカビと違い人の体温でも繁殖し悪い影響を与えることがあります。また、Aspergillus属だけでなく、担子菌(キノコ)など他の真菌類もABPAと同様の病気を引き起こすことが知られており、これらを総称してアレルギー性気管支肺真菌症(ABPM:allergic bronchopulmonary mycosis)と呼んでいます。しかし、真菌(カビやキノコ)を吸入することでアレルギー疾患が悪化する事例は報告されているものの、エアコン内のカビやキノコとの関係は明らかになっていない実態がありました。

本成果の重要性
 藤田医科大学とNITEは共同で、ABPAを発症した患者宅のエアコンからカビやキノコ類を採取し、どのようなカビやキノコ類が存在しているのか調査を行いました。また、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の研究事業(「真菌関連アレルギー性気道疾患における真菌生態・宿主応答機序の解明と発症・増悪・重症化予防法の開発(研究代表者:浅野浩一郎(東海大学))として、カビやキノコ類が生成するアレルギーの原因となるタンパク質を特定する研究(アレルゲン解析)も実施しています。
 実際にエアコン内から採取されたカビの菌体および培養液から検出されたタンパク質の情報は、エアコンや空気清浄機等のフィルターの改良などに貢献できると期待されます。また、一般臨床で多くのアレルゲンが検査できるようになれば、診断不能だった患者が診断可能となるだけでなく、発症前の早期発見や重症化する患者の予測や、病態の解明にもつなげることができると期待されます。

成果の概要
 人に対して病原性を持つAspergillus属を含む複数のカビがエアコンから分離・同定され、NBRCに寄託されました。プロテオーム解析(※3)では、寄託された菌株から選定したA. fumigatus NBRC 113945を培養し、菌体および培養液からタンパク質を抽出して酵素消化したサンプルを高速液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS/MS)で測定し、タンパク質を同定しました(図1)。実際に菌体と培養液から検出されたタンパク質やアレルゲンの情報はDBRPからダウンロードできます。また、NBRCオンラインカタログからA. fumigatus NBRC 113945を入手し、追加の研究を行うことも可能です。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202403278643-O1-DIu8gD1B

図1 プロテオーム解析の概要

 
 さらに、A. fumigatus のほか、キノコの一種であるSchizophyllum communeなどのアレルゲン解析は、AMEDの研究事業の一環として、藤田医科大学 医学部 内科学・第2及びアレルギー疾患対策医療学(松永佳世子教授)とNITE、ホーユー株式会社(所在地:愛知県名古屋市東区徳川一丁目501番地 社長:佐々木義広)総合研究所との共同で実施しており、今後より実用性の高い情報を追加する予定です。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202403278643-O2-9G0XB540
図2 A. fumigatus のアレルゲン解析例
A. fumigatus のタンパク質を二次元電気泳動法で分離し、免疫ブロットによりアレルゲンを検出。 検出されたタンパク質は、NITEで質量分析による同定を行っている。

 

解析サービスの提供
 なお、本成果を含む真菌や担子菌などの特異的IgE抗体測定やアレルゲン解析は、アレルギー研究の成果をいち早く社会還元する施策の一環で開始された「ホーユー株式会社のアレルギー受託解析サービス(https://ic.hoyu.co.jp/)」でも実施できるよう、準備を進めています。

今後の真菌アレルギー研究の発展
 これからも、アレルギー性喘息やABPA及びABPMの原因究明、検査法や空調機器関連の改良に有用なデータ収集を継続的に行ってまいります。藤田医科大学の特色のひとつであるアレルギー疾患の診療や研究に特化した“総合アレルギーセンター”(センター長:矢上晶子)を中心に、産官学の連携をさらに活性化し、研究成果を積極的に社会に還元することで、一人でも多くのアレルギー患者に良質な医療提供ができるように努めてまいります。

 
【本成果に関する研究責任者】
藤田医科大学 医学部 内科学・第2 講師 桑原 和伸

【参考文献】
 * 1: J Allergy Clin Immunol . 2015;135(1):110-22.

【用語解説】
※1 Aspergillus fumigatus (アスペルギルスフミガーツス):
環境中に浮遊する代表的なカビで、人が吸入することにより、肺炎などの感染症だけでなく、アレルギー反応を引き起こします。

※2 生物資源データプラットフォーム(DBRP
NITEでは、生物資源とその関連データを一元的に検索できる「生物資源データプラットフォーム(DBRP)」を構築し、公開しています。「DBRP」には、NITEが保有する5万株を超える微生物資源とその関連データ(微生物の特性情報、オミックス情報など)に加えて、企業や公設試験研究所、大学が保有する生物資源情報を収載しています。

※3 プロテオーム解析:
細胞内のタンパク質の構造や機能を網羅的に解析することです。

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