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金沢大学ナノ生命科学研究所研究 国際共同研究: セルロースナノ結晶の原子レベルの欠陥構造を発見


セルロースを分解して再生可能なナノ材料の生化学製品やバイオ燃料に応用するための重要な成果となる

2022/11/4
金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)

金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)プレスレリース
発信元:金沢大学ナノ生命科学研究所
DATE:2022年11月4日

金沢大学ナノ生命科学研究所研究 国際共同研究: セルロースナノ結晶の原子レベルの欠陥構造を発見

(Kanazawa 4 November) 金沢大学ナノ生命科学研究所のアイハン・ユルトセベル特任助教,福間剛士教授らは,原子間力顕微鏡を用いてセルロースナノ結晶(CNC)(※1)の液中の表面構造やその表面の水和構造を原子レベルで明らかにし,さらにその表面に欠陥があることを明らかにしました。本研究は,セルロースを分解して再生可能なナノ材料として利用し,生化学製品やバイオ燃料に応用するための重要な成果となる事が期待されています。本成果は,2022年10月14日(米国東部時間)に国際科学誌『Science Advances』のオンライン版に掲載されました。

金沢大学ナノ生命科学研究所 ウエブサイト
https://nanolsi.kanazawa-u.ac.jp/

金沢大学の研究者を中心とした本研究グループは,3次元原子間力顕微鏡(3D-AFM)(※2)と分子動力学シミュレーションを用いて,液中におけるCNC繊維の表面構造やその表面の水和構造を原子レベルで明らかにしました。単一のCNC繊維の表面構造は,ハニカム(蜂の巣状)やジグザグの構造が並んだ結晶状態になっていましたが,その表面の一部には結晶構造が乱れた非結晶領域が不規則に点在する欠陥構造が存在していることが確認されました。福間剛士教授は,「これは,再生可能ナノ材料や化学製品へのバイオマス変換に関連するCNC分解メカニズムの理解のための重要な成果です。」と述べています。また,超分子材料のCanada Research Chair(註)であり,本論文の共著者であるカナダ・ブリティッシュコロンビア大学(UBC)のマーク・マクラクラン教授は,「本研究のように天然の結晶構造の表面や欠陥を可視化することは,その材料を用いた応用研究開発を進める上で大変重要です。これは,金沢大学ナノ生命科学研究所における国際共同研究の優れた研究例の一つです。」と述べています。

(註)Canada Research Chair (Program):カナダの国家的研究開発戦略の中心として2000年にカナダ政府によって創設された非常に権威ある称号(プログラム)。カナダの研究機関に在籍する世界的に評価の高い研究者をChairholderとして選出し,研究助成金を提供するもの。

【研究の背景】
セルロースは,植物やバクテリア,菌類などから生産されるバイオマス(再生可能な生体由来の有機資源)であり,毒性がなく,生分解性に優れ,高い機械強度を持ち,多彩な表面修飾が可能であることから,さまざまな分野で応用が検討されています。特に,直径2~30 ナノメートル,長さ数百ナノメートルの繊維状構造を持つCNCは,既存の材料と混合して力学物性を改善するコンポジット材料の開発や,複雑なナノ構造を形成して特殊な光学特性や電子物性を持つ機能素子の開発などへの応用が盛んに研究されています。これらの応用において,CNCの結晶性やその表面状態は,材料の強度や機能素子の性能を左右する極めて重要な物性であるにも関わらず,それを直接確認することは実現していませんでした。

【研究成果の概要】
本研究では,福間剛士教授らがすでに開発した液中周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)技術を用いて,CNCの表面構造を原子レベルで直接観察することに成功しました。観察に使用したCNCはマクラクラン教授らが合成・精製したもので,その観察結果から,CNC表面では,分子軸方向の周期性は高い均一性を有しているのに対し,分子軸に対する回転方向の角度は,分子鎖ごとに大きなばらつきをもっていることが分かりました。また,表面の結晶性が完全ではないアモルファス状の構造が部分的に存在することも確認されました。このような欠陥の存在は,CNCをコンポジット材料にした場合に,その性能を左右する重要な知見となります。福間教授らが開発した3次元原子間力顕微鏡(3D-AFM)を用いることで,CNC上の3次元水和構造を分子レベルで観察することにも成功しました。この結果を,フィンランド・アールト大学のアダム・フォスター教授らが行った分子動力学計算の結果と比較することで,CNC表面には親水的な部分と疎水的な部分が混在していることが確認されました。このような水和構造は,CNC表面におけるイオンや分子の吸着や反応に大きな影響を与えるため,CNC材料の化学的安定性や表面修飾技術の開発において,極めて重要な知見となります。

【今後の展開】
 本研究では,CNCの結晶性は必ずしも完全ではなく,分子配向の不均一性やアモルファス欠陥などが存在することが示されました。また,CNC表面では,親水基と疎水基の影響で複雑な3次元水和構造が形成されることも明らかにされました。さらに,これらの原子レベルの表面構造や表面物性を,最新のAFM技術を用いることで直接観ることができることが実証されました。これらの結果から,今後はCNC表面の欠陥分布や水和構造を直接観て,確認しながら,それらを制御する技術の開発が進められるようになり,CNCを使ったコンポジット材料や機能素子の性能改善や,その実用化が進展するものと期待されます。

本研究は,文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)事業,日本学術振興会科学研究費助成事業(21H05251, 20H00345, 19K22125, and 20K05321),Discovery Grant(F16-05032,NSERC,カナダ),The Academy of Finland’s Flagship Programme(318890, 318891 and 314862,フィンランド)の支援を受けて実施されました。

【参考図】

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202211039194-O2-wZsH2AQO
© 2022 Yurtsever, et al.
(A) 水中で取得したCNC表面の欠陥のAFM像。(B) CNC表面の高分解能AFM像。界
面の分子スケール構造が明瞭に可視化されている。(C) (B)に示した画像を2D-FFTフィルタ処理を施して取得した画像。 (D,E) セルロース/水界面で取得した3次元周波数シフト分布像の2次元垂直断面。規則的に構造化された水分子の分布を示している。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202211039194-O1-XdfnYvd9

© 2022 Yurtsever, et al.
(A) 水中のCNCのMDシミュレーションモデルのスナップショット。 分子軸(c軸)は,画像に対して垂直方向。(B) シミュレーションにより計算したCNC周囲の水分子の3次元密度分布。(C,D)(010)面上の水密度分布の平均2次元密度分布。(E,F) (C, D)において白色と赤色の矢印で示したZ位置で取得した水平方向の2次元水密度分布。(G,H) 実験で取得した3次元周波数シフト分布像の垂直および水平2次元断面像。

【掲載論文】
雑誌名:Science Advances
論文名:Molecular insights on the crystalline cellulose-water interfaces via three-dimensional atomic force microscopy
(3次元原子間力顕微鏡によるセルロース結晶/水界面に関する分子スケール研究)

著者名:Ayhan Yurtsever*, Pei-Xi Wang, Fabio Priante, Ygor Morais Jaques, Keisuke Miyazawa, Mark J. MacLachlan, Adam S. Foster, Takeshi Fukuma*(Ayhan Yurtsever,Pei-Xi Wang, Fabio Priante,Ygor Morais Jaques,宮澤佳甫,Mark J. MacLachlan,Adam S. Foster,福間剛士)

掲載日時:2022年10月14日(米国東部時間)にオンライン版に掲載
DOI:10.1126/sciadv.abq0160
https://doi.org/10.1126/sciadv.abq0160

英語版関連記事:University of British Columbia (UBC) ホームページ
https://science.ubc.ca/news/chemists-uncover-cracks-amour-cellulose-nanocrystals

金沢大学ナノ生命科学研究所 ウエブサイト
https://nanolsi.kanazawa-u.ac.jp/

【用語解説】

※1 セルロースナノ結晶(CNC)
セルロースは,機械的に強い非水溶性の繊維状の生体高分子であり,植物細胞の構造を保つ役割があります。CNCは,通常は化学薬品や機械操作によってセルロース原料の一部の微小繊維構造をロッド状の結晶に変換されることで精製されます。CNCは,酵素の固定,抗菌・医療材料,グリーン触媒,バイオセンシング,ドラッグキャリアの開発など,幅広い分野への応用が期待されている材料です。

※2 3次元原子間力顕微鏡(3D-AFM)
3D-AFMは福間剛士教授らによって開発されたAFMであり,従来のAFMにおける水平方向の探針走査に加えて垂直方向にも探針を走査させ,その時に探針が受ける相互作用力を計測することで,固体と液体の界面構造を原子・分子スケールで3次元計測することが可能な手法です。これにより,固体表面だけではなく,固体の表面に形成される水和構造(水分子の密度分布)も解析することができます。

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