都会のオアシス「新・里山」で“生物多様性”を体感
積水ハウス株式会社
自然体験は子どもの「生きる力」を育み、よりよい生活を創出
新型コロナウイルスの影響で中止となっていた、秋の恒例行事「稲刈り」の授業や体験が全国各地で、3年ぶりに開催されています。豊かに実った稲を刈り、収穫の喜びを味わっている家族連れや子どもの姿が多くみられます。
文部科学省は、「今の子どもたちは、自然への直接体験が不足している」とし、生活や自然の中での“体験活動”の機会を増やすことが、とても重要な課題だとしています。子どもたちは、具体的な体験や事物との関わりを拠り所とし、感動したり、驚いたりしながら、「なぜ、どうして」と考えを深める中で、実際の生活や社会、自然の在り方を学んでいきます。そこで得た知識や考え方を基に、実生活の様々な課題に取り組むことによって、自らを高め、よりよい生活を創り出していくことができると提言しています。子どもたちの「生きる力」を育むためには、自然や社会の現実に触れる実際の体験が必要だとしています。※1
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※1.文部科学省 「体験活動の教育的意義」
都会の真ん中で子どもたちが“お米作り”
大阪駅から徒歩10分、連結超高層ビル「梅田スカイビル」の足元にある緑地「新・里山」でも、地元の大淀小学校の生徒さんによる「稲刈り」が実施されます。
「新・里山」は、約8,000㎡の積水ハウスをはじめとする企業が保有する緑地です。日本の原風景、「里山」をお手本とした、積水ハウスの庭づくり「5本の樹」計画に基づき、在来種を中心に樹木を選定し、棚田や雑木林、野菜畑なども配しています。近隣住民やオフィスワーカーから「憩いの場」として親しまれているほか、子どもの教育やオフィスワーカーのボランティア活動にも活用されるなど、「地域コミュニティの場」ともなっています。
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「新・里山」の秋の紅葉風景
その「新・里山」では、2007年から子どもの教育支援活動を実施しています。地元の大淀小学校5年生を対象としたお米作りの体験授業では、年に1~2回のイベントとして実施するのではなく、年間を通じて、田植え、水草取り、収穫「稲刈り」、脱穀と、全てを自分たちの手でやり遂げ、最後に調理実習などで食すまでを「食育」として学びます。
子どもたちは、都会ではなかなかできない田植えなどの、田んぼの中での作業に「わあ!冷たい!」「ぬるぬるする~!」「カエルがいる!」など歓声を上げ、収穫を迎えた「稲刈り」では、初めて持つカマに緊張しながら真剣に作業をします。こうした体験を通して、子どもたちは、食べ物の大切さ、それを支える生きものの大切さを肌で感じることができます。また、米作り体験が終わったあとも、学校帰りなどに見学に訪れるほど、「新・里山」に愛着を感じるようになります。今では、「5年生になったらお米作りができる!」と楽しみにしている生徒さんも多くいるほどです。
散歩がてら訪れた年配の方からは、「自分が生まれ育った場所によく似た風景で懐かしい」と、思い出話に花を咲かせる様子もしばしば見かけます。
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「新・里山」の秋の風物詩となった小学生の「稲刈り」
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刈った稲の「はさ掛け」をする様子
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上段:田植え / 脱穀作業
下段:除草作業 / 籾摺り
人と人、人と自然をつなぐ
このように「新・里山」は、単に都会に豊かな緑地をつくることだけが目的ではなく、「人と人、人と自然をつなぐ」場所を目指しています。
歴史を振り返ると、日本古来の「里山」も、人が手を入れ管理することで豊な自然を守ってきました。例えば、落ち葉をかけば、冬でも木々の根元に光が届き、地面に落ちたどんぐりが目吹きやすくなり、その落ち葉を集めて堆肥化し、田んぼや畑の肥やしとなります。田んぼや畑は食につながり、食は命へとつながり、人は自分にとって社会にとって価値のある、この身近な自然を大切にしなければ、という気持ちになり、心を込めて手入れをするようになります。
「新・里山」は、そうして自然とともに生きてきた人の知恵を表現し、伝える場でもあり、生きものたちの暮らしの場、命の誕生の場でもあるのです。
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上段:ツバキの蜜を吸いにきたメジロ / 水辺でのギンヤンマの脱皮
下段:シジミチョウの交尾 / モズ(野鳥)が残したカエルの”はやにえ”
自然と人に寄り添う「循環型」の維持管理
「新・里山」を語るということは維持管理を語ると言っても過言ではありません。そして、オープン当初から現場で管理を担っているのが、造園・植栽管理のプロ「ガーデンラボ」さんです。スタッフ全員が、“「新・里山」の意図を理解した上で作業を行うことが大切”との意識を持ち、「新・里山」を唯一無二の存在にしました。
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「ガーデンラボ」の現場責任者 井田美雪さん
「新・里山」の特徴的な管理手法の一つは、敷地内で発生した有機物を敷地外へ持ち出さない「循環型」ということです。秋が深まると落ち葉は、都会ではゴミとして処分されますが、自然界では昆虫や微生物の働きによって分解され、植物が成長するための栄養をたっぷり含んだ土へと還っていきます。こうした自然の法則に沿って、敷地内には堆肥置き場を作り、落ち葉や刈り取った枝葉を、時間をかけて堆肥化し、田んぼや畑の肥料として活用しています。臭いやハエが一切発生していないことも徹底した管理を象徴しています。
また、樹木の生育や生きものへの影響、人の健康を重視し、有機・減農薬栽培を原則としており、一般的な薬剤や除草剤は使用していません。現場には、常駐のスタッフや、オフィスワーカーのボランティア活動で、害虫を手で駆除しています。除草に関しても、あえて、根元を残すよう手刈りし、刈った後は土に還るよう片付けずにそのままにしておきます。“雑草も生きものにとって必要な生態系の一部”という「新・里山」の考えを反映させ、惜しむことなく手間暇をかけています。
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上段:積み上げた石の隙間や石垣のくぼみは虫や小動物の隠れ場所 / 間伐した枝や幹は昆虫や微生物の力を借りてゆっくり土に還る
下段:自然な美しさを残した除草と生き物の利用しやすさを両立 / 「新・里山」で育った竹と稲刈り後のわらを使用した手作りの堆肥置き場
ガーデンラボの現場責任者、井田さんは、こうした取り組みについて、次のように語っています。
「続けていくのは難しいですが、だからこそ得るものも大きいです。はじめは、不安なこともありましたが、5、6年経ったころから表彰などの社会的評価を受け、訪れる方からは、『私の庭みたいなもの。きれいにしてくれてありがとう!』などと声をかけて下さるようになりました。また、毎月、遠方から大阪に住むお嬢様を訪ねてこられる前に、近くではないにもかかわらず、足を運び、四季を楽しみに来られます。小学生も今では、井田さん!と名前を憶えてくれて嬉しいです。親子イベントに参加された方からは、『都会で生活しているので、子どもに自然体験をさせる貴重な機会になった』と言われます。『新・里山』の空間が何よりも好きです。ここで働くことができて感謝しています。」(ガーデンラボ・井田さん)
また、運営をめぐっては、「新・里山」を知り尽くした積水ハウスやガーデンラボのメンバーを中心にそれぞれの視点で管理、年間計画、教育支援活動の進め方などについて毎月議論し、次世代につなげています。「新・里山」の自然を都会の子どもたちに体験してもらい、生物多様性について考えるきっかけになればと願っています。
こうして、多くの人たちの絶え間ない取り組みによって、「新・里山」は企業緑地として社会的評価を受け、数々の賞を受賞。2014年には、民間企業初として、第34回緑の都市賞「内閣総理大臣賞」を受賞しました。
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人、緑、生きものを結ぶ“生物多様性”の輪を拡大
生態系を再現することで、さまざまな生きものも訪れるようになりました。オープンからわずか2年で生態系ピラミッドの頂点に位置する「ハイタカ」が姿を見せ、2013年には世界に1,000羽しか生息しないサギの仲間「ミゾゴイ」が1ヵ月半滞在しました。「新・里山」は、生きものにとっても成熟した環境となったのです。
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絶滅危惧種 ミゾゴイ / ハイタカ
「新・里山」での体験を通して、子どもたちは、“身近なところから生物多様性に寄与できる“ということを知ることができます。自然や生きものに触れることで、それまで知らなかった自然の成り立ちに興味を持つようになり、それらを取り巻く大人や社会も生物多様性について考え、自分事として捉えるようになるのです。自然の中で子ども同士が心を通わせ、つながり合う。それが、生物多様性の輪となって広がっていくのです。
積水ハウスでは、「5本の樹」計画を通じて、こうした取り組みを推進し続けています。また、子どもの環境教育を通して、これからの子どもたちが、自然体験から「生きる力」を育んでいけるよう応援しています。
「5本の樹」計画
https://www.sekisuihouse.co.jp/exterior/kw02/
新梅田シティ「新・里山」
https://www.sekisuihouse.co.jp/exterior/ext02/
「新・里山」の受賞歴
○「第2回キッズデザイン賞」 (2008年) (「新・里山」空間を使った地元の子どもたちへの環境教育活動)
○「ストップ温暖化『一村一品』大作戦 全国大会2010」銅賞
○ 2009年度 第7回「企業フィランソロピー大賞」特別賞
○ 2010年度「生物多様性保全につながる企業のみどり100選」
○「第7回キッズデザイン賞」(2013年) (「 5本の樹」計画を活用した全国での自然教育活動)
○ 第34回(平成26年度)「緑の都市賞」において、最上位の「内閣総理大臣賞」受賞
○ 2015年度「SEGES(社会・環境貢献緑地評価システム):都市のオアシス」に認定
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