企業の法務部の変革に関するEY Lawとハーバード大学法科大学院の共同調査
・ビジネス部門リーダーの57%が、契約手続の非効率性によって売上実現に遅れが生じていると回答
・複雑化するリスクを特定し、定量化し、管理する能力を法務部が備えていることに「とても自信がある」と回答したジェネラル・カウンセル(最高法務責任者)は少数にとどまる
デジタル変革や規制の複雑化に対応するため世界各国の企業の法務部がトランスフォーメーションを推進するなかで直面している課題が、2021年版『EY Law調査リポート』で浮き彫りになりました。本調査は、EYが米国ハーバード大学法科大学院(センター・オン・ザ・リーガル・プロフェッション)と共同で実施したものです。法務部の業務量は今後3年間で25%増加すると見込まれており、業務方法の変革が不可避になるなか、業績の不透明感に伴うコスト削減の圧力や、法務分野における情報技術への投資について経営層から支持を得ることの難しさが、主要な懸念材料として挙がりました。
本調査は、法務責任者1,000名以上を含む、22カ国17業界の2,000名以上のビジネスリーダーを対象に、2021年の1月から2月にかけて聞き取り調査を行ったものです。約50の日本企業も含まれています。
経済的・財務的に厳しい状況が企業を取り巻き、法務部も、リスクの増加、業務量の増加、定型的で付加価値の低い作業がもたらす士気の低下などの課題を抱えるという経営環境を背景に、本調査は実施されました。多くの法務部が、外部弁護士への委託と社内弁護士の活用の双方に課題を抱えているにもかかわらず、これらの従来型の業務手法に依拠しており、自動化や、「コ・ソーシング」「CoE(センター・オブ・エクセレンス)」といった新しい手法を活用できていないことが浮き彫りになりました。他方で、革新的な法務部は、新たな業務提供方法を取り入れています。そうした先進的な法務部は、業務提供方法の多様化を、「リスク管理、コスト低減、ビジネス推進」というビジネス側からのニーズに透明性の高い形で応えるという部門戦略と一体のものとして位置付けて変革を推進しています。
リスク管理が最重要項目ではあるが、法務部の対応能力は不十分:
「複雑なリスクを特定し、定量化し、対応する能力」を自社の法務部が備えているかどうかにつき、ジェネラル・カウンセルの大多数が自信を持てていないことも本調査で浮き彫りになりました。ほぼ3分の2(65%)のジェネラル・カウンセルが、自社の法務部はデータ漏えいに対応するための情報と技術を持ち合わせていないと回答しました。また、4分の3以上(78%)が、自社の法務部は契約上の義務の履行状況を体系的に追跡していないと回答し、3分の2以上(68%)が、グループ会社の正確な法人情報へのアクセスがないと回答しています。
法務部運営と予算に対する圧力の増加:
予算に対する圧力は、昨年来コロナ禍がもたらしている厳しい経済情勢により一層高まっており、ジェネラル・カウンセルによるコスト削減目標は急上昇しています。ジェネラル・カウンセルの大多数(88%)が、主にCEOや取締役会からの要請で、法務部門のコストを今後3年間は削減していく計画だと回答しています。年間売上が200億米ドル以上の大企業が目標とするコスト削減率は平均で18%であり、これは2019 年度版『EY Reimagining the Legal Functionリポート』における大企業のコスト削減目標の11%からの大幅な上昇となります。
テクノロジー面での遅れと非効率な契約プロセス:
ジェネラル・カウンセルの半数以上(59%)が、コスト削減のためにテクノロジーを活用する必要があると回答しました。他方で、過去1年間に法務部のテクノロジーの活用が増えたと回答したのは50%に過ぎず、業務に必要なテクノロジーが整備されているとの回答は30%に留まりました。8割超(83%)が業務の自動化に必要なスキルに欠けていると回答し、41%が法務テクノロジーへの投資を促すために必要となるデータや専門知識に欠けていると回答しています。
テクノロジーへの投資不足は、収益の成長にも悪影響を及ぼしています。ほぼすべて(99%)のジェネラル・カウンセルが、契約の作成・締結・保管を最適化するために必要なデータやテクノロジーが整っていないと回答しています。さらに、97%のジェネラル・カウンセルが、情報・技術への投資予算を確保するうえで困難を経験しており、その最大の要因として経営層の支持を得ることの難しさを挙げています。
法務のトランスフォーメーションとビジネス推進への貢献
業務量の増加は、変革を不可避にすると同時に変革を困難にしています。ジェネラル・カウンセルは、法務部門の業務量が今後3年間で25%増加すると見込む一方で、同じ期間に増やせる人員はわずか3%に過ぎないと見込んでいます。さらに、4分の3(75%)が業務増加のスピードに見合った予算確保は困難だと考えており、87%が価値の低い定型業務に費やされる時間が多すぎると回答しています。経営者が優秀な人材の確保に苦心するなか、法務責任者のほぼ半数(47%)が、価値の低い仕事が増えたために部員の士気が低下している、と回答しています。
法務部が挙げるもう1つの大きな課題が、ビジネスの推進への貢献度の向上です。現状、法務の通常業務が全社的な戦略と合致していると回答したジェネラル・カウンセルは約半数(52%)であり、契約手続が非効率的であることにより売上実現が遅れていると回答したビジネス部門のリーダーは57%に上ります。各種ソリューションの中で期待が大きいのは、オルタナティブ・リーガル・サービス・プロバイダー(Alternative Legal Service Providers)を活用したコ・ソーシング戦略であることが判明しました。ジェネラル・カウンセルの85%がこうしたサービスを既に活用していると回答しており、2019年度の調査の72%から増加しています。
EYグローバルLaw共同リーダーのCornelius Grossmannは、次のように述べています。
「世界が経済回復へ向かいつつあるなか、成長の確保が多くの企業の最優先事項となっています。企業が法令を遵守しつつ成功するために、法務・調達・契約の担当部門は、ますます増大する法務及び規制上のリスクへの対策を備える必要があります。内製化、コ・ソーシング、情報技術、CoEなどの選択肢の最適なバランスを見極めることが肝要です。効率的オペレーション、高い競争力、そして優秀な人材の流出防止を目指すのなら、ビジネスリーダーは法務部のトランスフォーメーションを重視すべきと思います。」
ハーバード大学法科大学院教授(Lester Kissel Professor of Law)で、Global Initiatives on the Legal Profession副学部長およびセンター・オン・ザ・リーガル・プロフェッションのセンター長(Faculty Director)を務めるDavid B. Wilkins教授は、次のように述べています。
「企業がコロナ後の経済回復を視野に入れている現在、法務・ビジネス・人事・サステナビリティが交錯する分野での複合的なリスクを特定し、管理することが今まで以上に重要になると見込まれます。こうしたニューノーマル(next normal)の時代にビジネスリーダーが成長を推進するのをサポートするために、ジェネラル・カウンセルは、データやテクノロジーのソリューションを今まで以上に活用し、多様な外部ベンダーを効果的に活用することで、法務部門のトランスフォーメーションを加速させなくてはなりません。このプロセスは容易ではなく、ビジネスリーダーは多くのリソースを初期投資する必要があるでしょう。しかし、こうした初期投資は、ジェネラル・カウンセルが多様なリソースのコストと品質を評価するために必要なツールを開発し、こうしたツールを効果的に活用してリスクを削減し、成長を加速させるためには、不可欠なものなのです。」
EY弁護士法人のマネージングパートナー(代表弁護士)である木内潤三郎は、次のように述べています。
「今回の調査には約50社の日本企業も参加しています。『業務量は増えているが予算は増えていない』『適切なリーガル・テックを選択し実装するための知見がない』『契約管理・子会社管理がシステマチックに行われていない』など、日本企業の法務部門が抱える課題の多くが海外企業の課題と共通であることが明らかになりました。法務分野では、『外部弁護士への委託と内製化の組み合わせ』という従来型の業務手法に新たな選択肢が加わりつつあります。これらを活用することで、高度なリーガル・リスク・マネジメントを実践しつつ、事業部門に寄り添ってビジネス推進に貢献することが、企業の競争力強化において重要な役割を担うと考えています」
2021年度版『EY Law調査リポート』の詳細については、ey.comをご覧ください。
EY Japanのウェブサイト: 企業の法務部の変革に関するEY Lawとハーバード大学法科大学院の共同調査 | EY Japan
〈EYについて〉
EY | Building a better working world
EYは、「Building a better working world(より良い社会の構築を目指して)」をパーパスとしています。クライアント、人々、そして社会のために長期的価値を創出し、資本市場における信頼の構築に貢献します。
150カ国以上に展開するEYのチームは、データとテクノロジーの実現により信頼を提供し、クライアントの成長、変革および事業を支援します。
アシュアランス、コンサルティング、法務、ストラテジー、税務およびトランザクションの全サービスを通して、世界が直面する複雑な問題に対し優れた課題提起(better question)をすることで、新たな解決策を導きます。
EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。EYによる個人情報の取得・利用の方法や、データ保護に関する法令により個人情報の主体が有する権利については、ey.com/privacyをご確認ください。EYのメンバーファームは、現地の法令により禁止されている場合、法務サービスを提供することはありません。EYについて詳しくは、ey.comをご覧ください。
〈本調査について〉
本調査では、企業法務、調達、商業契約、業務開発の各部門のリーダーおよび法人管理チームの考え方を探るために聞き取り調査を行いました。本調査の結果は、EYとハーバード大学法科大学院のセンター・オン・ザ・リーガル・プロフェッションによる一連のリポートの一環として公表され、世界各国の企業法務部が直面する課題を考察しています。本調査がその一部となっている EYの 「2021年CEO Imperativeシリーズ」は、企業の法務責任者が自社の未来を再構築できるようサポートするための、重要な答えや行動を提起しています。本シリーズの詳細については、ey.comをご覧ください。
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