放置されている「個人別管理資産」が増え続けている
企業年金の一種である、「企業型の確定拠出年金」を実施している会社を退職した場合、転職先が同様の制度を実施していれば、会社が拠出した掛金と、その運用益で構成される「個人別管理資産」を、転職先の制度に移管します。
また退職して専業主婦になった場合、もしくは転職先が同様の制度を実施していない場合には、脱退一時金を請求できる方を除き、個人型の確定拠出年金の口座を開設して、そこに個人別管理資産を移管しなければなりません。
もし退職から6か月以内に、このような手続きを行わなかった場合、その個人別管理資産は現金化されたうえで、国民年金基金連合会へ自動的に移換され、持ち主が移管手続きを行うまで、そこに放置され続けます。
この5年で2.6倍に増加
先日朝日新聞デジタルを読んでいたら、このように放置されている個人別管理資産が、平成28年3月末時点で約57万人分、金額にすると1,428億円に達するというデータが記載されておりました。
また放置されている個人別管理資産は、前年より約207億円も増加しており、この5年間で2.6倍に増加しているというデータも記載されておりました。
「個人別管理資産」を移管しなければ企業年金を受給できない
放置されているといっても、国民年金基金連合会という公的な機関が管理しているのだから、何の問題もないのではないか? という反論もあるかと思います。
確かにその通りかもしれませんが、国民年金基金連合会へ自動的に移換されると、毎月51円(年間612円)の管理手数料を取られ続けるため、個人別管理資産はどんどん減っていくのです。
しかも個人別管理資産は移管時に現金化されているので、預貯金のように利子は付きません。
また個人型の確定拠出年金の口座を開設して、個人別管理資産をそこに移管しないと、老齢給付金という企業年金を受給できる年齢(60歳から65歳)に達しても、これを受給できないのです。
つまりいずれは移管しなければならないのですから、余計な手数料を取られないようにするため、早めに移管すべきだと思います。
約150万人が厚生年金基金をもらい忘れている
一般的に企業年金と呼ばれているものには、上記の企業型の確定拠出年金の他に、「厚生年金基金」や「確定給付企業年金(規約型と基金型)」があります。
なお中小企業の従業員ための退職金制度である「中小企業退職金共済」、いわゆる中退共は、退職金を一時金で受給するだけでなく、分割して年金のように受給できるので、これを企業年金に含める場合もあります。
例えばこのうちの厚生年金基金に加入していた方は、原則として自分が加入していた厚生年金基金に、企業年金を請求するのです。
しかし厚生年金基金の加入期間が、短期(一般的には20年未満)の方の場合には、企業年金の支給に必要となる資産が、厚生年金基金から「企業年金連合会」に移管されます。
そのため企業年金を受給するには、自分が加入していた厚生年金基金ではなく、企業年金連合会に請求する必要があるのです。
厚生労働省のサイトからもわかる未請求者の状況
厚生労働省のサイトの中にある、「厚生年金基金等の未請求者の状況について」を見ると、厚生年金基金に請求をしていない方は、平成24年度末時点で13.7万人もおり、これは受給権者数に対する割合で見ると、4.3%に達します。
また企業年金連合会に請求をしていない方は、平成24年度末時点で133万人もおり、これは受給権者数に対する割合で見ると、16.1%に達します。
そうなると約150万人、受給権者数に対する割合で見ると約20%の方が、厚生年金基金から支給される企業年金を、もらい忘れているのです。
放置問題の先に待っているのは「もらい忘れ問題」
厚生年金基金は昭和41年に始まった制度であり、もう50年くらいの歴史があります。
それに対して企業型の確定拠出年金は、平成13年に始まった制度であり、まだ15年くらいしか歴史がありません。
そのため企業型の確定拠出年金から支給される企業年金を、受給できる権利のある方は、それほど多くないため、こちらのもらい忘れはまだ問題になっておりません。
しかしこのままのペースで、個人別管理資産を放置したままにする方が増え続けると、いずれは厚生年金基金と同じように、もらい忘れが問題になってくるはずです。
会社員の半数は勤務先の企業年金を理解していない
企業年金を受給するには、公的年金とは別途で、請求手続きを行う必要があるので、このようにもらい忘れが発生しているのは、請求手続きを行っていないからです。
このように請求手続きをしない要因のひとつは、例えば企業年金連合会に対して、住所変更の届出をしていないと、一定の年齢に達した時に企業年金連合会が請求書類を送付しても、届かないことだと考えられます。
また自分が企業年金に加入していたか、もしくは自分がどの企業年金に加入していたかを、十分に理解していないことも、要因のひとつだと考えられます。
例えば株式会社IICパートナーズが実施した、「退職金・企業年金に関する会社員の意識調査(2016)pdf」によると、20代~50代の会社員の34.6%は、自分が勤めている会社の退職金や企業年金を、知らないと回答しているのです。
また「なんともいえない」の12.2%と併せると、46.8%にも達するので、半数近くの方が十分に理解していないことがわかります。
勤務先の企業年金の種類くらいは最低でも理解しておく
自分がどの企業年金に加入していたかを理解していない方のところに、企業年金連合会などから請求書類が届かなかった場合、自発的に手続きをするとは考えにくいので、企業年金をもらい忘れるリスクが高まります。
そのため勤務先の会社が作った就業規則や、その一部である退職金規程などを見て、勤務先が実施している企業年金の種類(企業型の確定拠出年金、厚生年金基金、確定給付企業年金、中退共など)くらいは、最低でも理解しておきたいところです。
そのうえで企業型の確定拠出年金については、上記のように個人別管理資産を放置しないで、退職時にきちんと移管します。
また厚生年金基金、確定給付企業年金、中退共については、それぞれの加入期間などを年金手帳にメモしておきます。
もしくは基金の加入員証や退職金共済手帳などの加入の証明になるものを、捨てないで保管しておけば良いと思います。(執筆者:木村 公司)