「持ち家志向」が強い日本人
日本人の約8割が将来は「持ち家」に住みたいという希望を持っており、そのうちの半分程度の人が「子供に資産として残したい」と考えています(国土交通省「土地問題に関する国民の意識調査」(平成27年度)より)。
持ち家を持つ人の割合は年齢を追うごとに高まっていき、60歳を超えると約8割になり、それ以降はほぼ横ばいになります(国土交通白書 2013より)。
しかし「不動産を資産として残す」という考え方は少しずつ変化してきているように思います。
持ち家を取得する経緯としては、自分で購入する人がいるほか、親からの相続で家を引き継ぐという方がいます。相続により、不動産が資産として次世代に継承されるわけです。
人口減少、核家族化の進行の影響
日本は人口減少社会に突入し、また、核家族化が進行しています。
今後は世帯数も減少に転じると予測されており、そうなると最近問題視されている空き家や遊休地(活用されていない土地)がますます増えると懸念されます。
日本人が潜在的に持つ意識
もともと日本人は土地や場所へのこだわりが強い気質を持っていると言えると思います。
農耕民族であった日本人は、自分の畑を耕し、自分の土地を生かして生きる糧を得てきた民族であり、「一所懸命」の精神を潜在的に持っている人が多いのではないかと感じます。
しかし、家族の在り方は近年大きく変化しこの意識も変化しつつあるようです。
さらに、以前は「土地は値下がりしないもの」という神話がありました。
ご存知の通り、今やその神話は崩壊しているわけですが、多くの人の中に不動産は「とても資産価値の高いもの」という思い込みが残っているようにも感じます。
空き家発生の原因
核家族化の進行により、多くの家庭から子供はいずれ出ていき、実家にはお盆や正月にのみ帰省。
実家のご両親が亡くなられた後は誰も住む人がいなくなる、というのは最近よくあることです。
実際、空き家が発生する原因で最も多いのが「相続により取得したが、利用する予定がない」というものです。
生前に両親から「この土地は先祖代々引き継いできた土地だから、自分が死んだ後もこの土地を守ってほしい」と言われて相続。
しかし、生活エリアも異なり利用する予定もないため空き家になってしまうという状況も少なくありません。
親は良かれと思って引き継ごうとしている資産を子の世代が疎ましく思う、というケースもあるのではないでしょうか。
親が思う自分の資産への思いと、子の世代の感覚の間にギャップが生じ始めているといえます。
親が全部子供にゆだねてしまうのはもめる原因
また、親は「自分がいなくなったら子供たちに好きにしてもらえばいい」と考えて何もせずにいるケースもあります。
いざその時が来るとなかなか処分が進まない、ということにもなりかねません。
処分が進まないケースは例えば、
・ 遺品がたくさん残っているが片づけに行く間がない。
・ 実家の地元の不動産屋さんに行く時間がない。
・ 共有で相続してしまい、意見調整ができない。
・ 隣地との境界が確定しておらず、売却できない。
・ 売りに出しているが買い手がつかない。
・ 解体費がかかる
・ 固定資産税が高くなってしまうので解体できない。
など、時間的、物理的、金銭的など様々な問題が原因として考えられます。
少なくとも、親の世代の間に解決できる問題は解決しておくべきです。この世代になれば問題解決はなお一層困難になります。
「誰に引き継ぐか」では「引き継いだ財産を有効に活用することができる人に引き継ぐ」という観点も大切です。
たとえば、実家ではありませんが、遠くに住む家族に自分で自主管理していたアパートを相続しても、受け取った人が目も届かず、アパート経営の経験もなければ「困ってしまう」ことにもなりかねません。
先祖代々とか親の希望を無理に次の世代に押し付けてしまうのは、「親のエゴ」かもしれません。
遺された人たちが残された財産を有効に活用できるようにする準備を進めておくことが重要です。
家族のコミュニケーションが重要
円満な相続のためには、親がどのように相続することを考えているかを相続する人たちの間で話しておく「コミュニケーション」が不可欠です。
まだまだ相続なんて当分関係ない、という方もいらっしゃいますが、相続対策は結構手間や時間がかかるケースがあります。
また、万が一認知症などになると判断能力がない人に財産の処分能力はないとみなされ、対策はほとんど実行できません。相続対策は元気なうちに考えるべきです。
あと約1か月で今年も終わり。正月に家族が揃うこともあるかもしれません。相続のことを話す機会を作ってみてはいかがですか?(執筆者:西山 広高)