2024年の出来事を振り返ってみると、マイナンバーカードが原因になったトラブルを、2つほど思い出します。
1つ目のトラブルは犯人が偽造マイナンバーカードを使って、他者のスマホを勝手に機種変更し、そのスマホで高級ブランドの商品を購入したというものです。
2つ目のトラブルは医療機関の窓口で、マイナ保険証(健康保険証の利用登録を済ませたマイナンバーカード)を使えなかった方が、医療費を10割負担したというものです。
マイナ保険証に原則一本化するため、政府は健康保険証の新規発行や再発行を、2024年12月2日に停止しました。
ここから最長1年の経過措置期間(経過措置で健康保険証を使える期間)を過ぎると、マイナ保険証を使う方が増えるため、10割負担というトラブルが増える可能性があります。
政府としてはトラブルが起きないように、10割負担を回避するための手段を準備していますが、その手段が不正を招くかもしれないのです。
本人確認は目視からICチップに変わる
冒頭で紹介した犯人が他者のスマホを勝手に機種変更し、そのスマホで高級ブランドの商品を購入したというトラブルは、2024年4月頃に発生しています。
また2023年12月頃には犯人が偽造マイナンバーカードを使って、銀行口座を開設し、それを悪用したというトラブルも発生しています。
前者のトラブルで使用された偽造マイナンバーカードには、犯人の顔写真が付いていたようです。
携帯ショップで手続きを行った職員は、この顔写真と来店者の顔を照らし合わせるという、いわゆる目視で本人確認を行っていました。
このように目視による本人確認は誤りが起きやすいため、政府は次のようなものに内蔵されているICチップを使った本人確認を、義務付けると閣議決定したのです。
・マイナンバーカード
・自動車などの運転免許証
・在留カード
店舗などにおいて対面で、スマホの機種変更や銀行口座の開設を実施する時は、マイナンバーカード以外のICチップも本人確認のために使えるようです。
一方でオンラインのような非対面で、スマホの機種変更や銀行口座の開設を実施する時は、マイナンバーカードのICチップを使った本人確認に一本化するようです。
マイナンバーカードのICチップには標準的に、利用者証明用電子証明書(暗証番号は4桁の数字)と、署名用電子証明書(暗証番号は6~16桁の英数字)が搭載されています。
オンラインで口座を開設する際に、マイナンバーカードのICチップを活用している銀行のウェブサイトを見てみると、署名用電子証明書の暗証番号をスマホの画面に入力します。
その後にマイナンバーカードのICチップを、スマホで読み取ると本人確認が完了するため、暗証番号を覚えていれば難しくないと思います。
医療機関の窓口での本人確認は目視も活用される
マイナ保険証を医療機関の窓口で使用する際は、顔認証付きカードリーダーにマイナ保険証をセットした後に、次のいずれかの方法で本人確認を実施します。
・利用者証明用電子証明書の暗証番号を入力する
・顔認証(顔認証付きカードリーダーに顔を近付けて顔写真を撮影し、それとマイナ保険証のIC チップに格納された顔写真のデータを照らし合わせる)
また本人確認が完了すると医療機関は、患者の医療費の負担割合などがわかる資格情報を、支払基金・国保中央会からオンラインで取得します。
そのため暗証番号の入力を3回間違えてロックがかかった場合や、顔のケガなどで顔認証が上手くいかなかった場合には、10割負担になる可能性があります。
こういった時に医療機関の職員が目視確認モードに切り替えた場合、医療機関の職員がマイナ保険証の顔写真と患者の顔を照らし合わせ、目視で本人確認するのです。
また例えば車椅子に乗っているため、暗証番号の入力や顔認証が難しい場合には、医療機関の職員に依頼すると最初から、目視確認モードを利用できるようです。
いずれのケースでも目視による本人確認が完了すると、10割負担を回避できるのです。
スマホの機種変更や銀行口座を開設する際の本人確認では、上記のように目視を止めようという動きになっています。
それにもかかわらず医療機関の窓口での本人確認は、暗証番号の入力や顔認証だけでなく目視も活用するため、矛盾していると思うのです。
また目視という誤りが起きやすいものに頼っていると、なりすましなどの不正を招いてしまう可能性があるのです。
10割負担を回避できる「資格情報のお知らせ」の問題点
医療機関の窓口で受付を済ませようとしたら、顔認証付きカードリーダーに不具合が生じて、本人確認できない場合があります。
こういった時にマイナ保険証と、次のいずれかを一緒に提示すると、医療費は本来の負担割合になるため、10割負担を回避できるのです。
(1)健康保険証の資格情報が表示されたスマホの画面
(2)被保険者資格申立書
(3)資格情報のお知らせ
(1)健康保険証の資格情報が表示されたスマホの画面を利用する
利用者証明用電子証明書の暗証番号を入力して、マイナポータルにログインする必要があるため、暗証番号を忘れた時などは利用できません。
(2)被保険者資格申立書を利用する
初診時は一部負担金の割合などの複数の事項を自分で記入する必要があるため、体調が悪い時には負担になります。
そのため(3)資格情報のお知らせを健康保険証のサイズに切り取った物と、マイナ保険証を一緒に提示する方法が、主流になっていくと推測します。
この方法を使う時は医療機関の職員が、マイナ保険証の顔写真と患者の顔を照らし合わせ、目視で本人確認するため、顔写真が加工されていたら誤りが起きやすくなります。
また(3)は自己負担の割合などの資格情報が印字された、ごく普通の紙の書類になるため、マイナ保険証よりも偽造しやすいのです。
こういった点から考えると「マイナ保険証+資格情報のお知らせ」は、10割負担を回避する手段の中では利用しやすいのですが、不正を招いてしまう可能性があります。
健康保険証の弱点を引き継いだ「資格確認書」
マイナンバーカードを持っていない方、持っていても健康保険証の利用登録を行っていない方や利用登録を解除した方は、マイナ保険証を利用できません。
このような方が10割負担にならないようにするため、申請しなくても健康保険証と同じように使える資格確認書が、経過措置期間が終わるまでに交付されます。
健康保険証は「顔写真やICチップがないため、不正を行おうという悪い考えを持った人達から見ると付け入る隙のある制度」と、平将明デジタル大臣は発言しています。
それならば資格確認書には顔写真やICチップを付けるべきだったと思いますが、健康保険証と同じように付いていません。
つまり平将明デジタル大臣が健康保険証の弱点と考えている点を、そのまま引き継いだので、資格確認書はなりすましなどの不正を招いてしまう可能性があるのです。
ただ高齢者施設などが入居者のマイナ保険証を預かるのは、資格確認書を預かる場合よりも負担が大きいため、将来的にも資格確認書は廃止すべきではないと思います。