遺言書の大切さは周知されつつあります。
介護保険制度を支える介護保険料 今後も引き上げられる可能性大
テレビでは正しい書き方や法律について詳しく解説されています。
しかし実際は「法律に則った有効な遺言書であれば成功」「みんなが納得できる」とはいかないようです。
今回は、金額でも法律でもなく、遺族みんなの心が納得できる遺言書を作成するために、知っておきたい失敗例と対処方法を紹介します。
遺言書で失敗の原因となる思い込み
遺言書失敗の原因は、遺言書を書く人のちょっとした思い込みが原因であることがほとんどです。
以下に遺言書によくある「書く側の思い込み3つ」と、その具体例、そしてどうすればよかったのかについてあげていきます。
原因1:遺言書の目的は「金額の分配」だと思っている
遺言書は、財産の金額に関係なく書いておくべきだといわれています。
理由は、多少の財産であっても「分ける」となれば金額でもめる可能性があるからです。
そのため、遺言書を書く人の多くは、遺言書を書く目的を「財産分配金額をはっきりさせるため」だと思っている傾向があります。
「長男には特に世話になったからプラス100万円」
「次男は学費が相当かかったからマイナス100万円」
というように金額をしっかりと分配した遺言書こそ、失敗のない遺言書だと思い込んでいるのです。
失敗例:感謝の思いのすべてを「金額だけ」で伝える遺言書
例えば、3人の子どもを持つ人が遺言書を書くとします。
晩年は近くに暮らす長男の介護を受け、仕事で忙しい次男は毎日電話をくれていました。
遠方に暮らす三男は、年に数回かわいい孫の顔を見せにやってきました。
遺言書を書くとき、
直接介護をしてくれた長男には+100万円を渡すことにしました。
もちろん、忙しい中で毎日電話をくれた次男にもとても感謝していたため+30万円にしました。
かわいい孫を抱かせてくれた三男にもとても感謝していました。
ところが遺言書をみた3兄弟は、全員が納得できません。
長男は「長年の介護を100万円と値踏みされた」と感じました。
次男は「自分だって介護したかったけど忙しくてできなかっただけなのに」と感じました。
三男は「自分には一切の思いがなかったのか」と悲しくなりました。
どうすればよかったのか
法律的に有効な遺言書であれば、成功とは言えません。
遺言書の成功は、書いた人も遺族も納得できることです。
金額の配分は変わらなくても、ひと言感謝の気持ちが添えてあれば、受け取る側の気持ちも変わります。
少なくとも、
「介護への感謝は100万円では足りないけれど」「毎日の電話が生きがいになっていた」「孫をみられたことはお金にはかえられない幸せだった」
という言葉があれば、「値踏みされた」という感覚にはならなかったのではないでしょうか。
原因2:遺言書は「与える立場」から書くものだと思っている
遺言書を書く人は、遺される人たちをとても心配しています。
自分がいなくなったあとも苦労することがないように、しっかりと考えて内容を考えます。
つまり「与える立場」から遺言書を作成するのです。
たしかに遺言書は財産を与える人が書くものですが、あまりにも自分の心配を優先させてしまうと、想定外の事態を招くかもしれません。
失敗例:お金の必要度に合わせた「忖度しすぎた」遺言書
遺言書を「与える立場」から書いていると、忖度しすぎた遺言書ができあがってしまいます。
例えば、3人の子どもを持つ人が遺言書を書くとします。
長男は独身で、
次男は既婚者で高校生の子どもが1人います。
三男は4人の小さな子どもがいます。
遺言書を書くとき、「子どもが多い三男の教育費が心配だ」と思い、三男に+100万円、次男に+30万円することにしました。
もちろん遺言書をみた長男は納得できません。
どうすればよかったのか
遺言書を書いた本人は、残される子どもたちが少しでも楽に生活できるように考え、お金の必要度を忖度して配分しました。
しかし遺言書に書く財産は支援金とは違います。
忖度は「遺言書を書く人が安心したいから」であり、忖度された側からみたら納得できない人が必ず出てくるものです。
失敗しないコツは「与える立場」ではなく、遺言書を「読む立場」になってみることです。
原因3:すべては遺言書で「スッキリ」できると思っている
自分のことは自分でしっかりと管理してきた人ほど、「遺言書にすべてを書いておけば遺族もスッキリできる」と思っています。
言い換えると、自分が管理してきたことを遺言書に託せばいいと思っている人は、遺言書でこれまでの人生すべてを暴露する傾向があるということです。
失敗例:「聞いてないよ」が多すぎる遺言書
「すべては遺言書でスッキリできる」と思っている人は、遺言書で暴露することが多くなります。
「ネット口座にも残高がある」「株投資をしていた」という程度ならばいいのですが、
「実はもう1人子どもがいます」
となれば相続人の人数が変わり、金額も変わります。
どうすればよいのか
すべてをハッキリさせた遺言書は、法律に基づいて財産を分けるためには役立ちます。
しかし、ただでさえ平常心ではいられない状況下で、「衝撃の暴露」を聞かされたら心が追いつきません。
法律的にも心も納得できる遺言書とは、「想像していた通りだったね」とみんなが思える内容ではないでしょうか。
そのためにも遺言書ですべてをハッキリとさせるのではなく、遺言書が開封されるまでに人生で張り巡らせた伏線は、徐々に回収しておくことが大切なのかもしれません。
遺言書だけでは心の問題まで解決できない
お金の問題には遺言書が必要です。
しかし遺言書だけでは心の問題まで解決することはできません。
お金にかえられないしこりを残さないようにするためにも、公正証書遺言ならば付言(メッセージや財産を配分した理由など)を加え、そうでなければ別にお手紙を添えておくといいのかもしれません。