事業収入を得ている自営業者やフリーランスなどは、12月が終わって年収が確定する段階になってから、次のような手順で所得税を計算する場合が多いのです。
(A)年収(1~12月の事業収入の合計額)-必要経費=事業所得
(B)事業所得-所得控除(基礎控除、配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除など全部で15種類)の合計額=課税所得
(C)課税所得×税率(課税所得の金額によって5~45%)-税額控除(住宅ローン控除など)の合計額=所得税
また翌年2~3月頃の確定申告の際に、税務署に対して計算結果を申告し、その計算結果に応じた所得税を納付したり、所得税の還付を受けたりします。
給与収入を得ている会社員は、(A)の部分が次のように変わりますが、(B)~(C)は同じになります。
(A)年収(1~12月の給与収入の合計額)-給与所得控除(必要経費の代わりになるもの)=給与所得
ただ会社員の場合は年収が確定してから、所得税を一括納付するのではなく、1月以降の給与から概算額の所得税が天引きされます。
また12月が到来して年収を確定できる段階になったら、勤務先は(A)~(C)の計算を実施し、本来の所得税を算出します。
この本来の所得税の金額と、1月以降の給与から天引きされた概算額の所得税の合計を比較し、後者の方が多かったら勤務先は、取り過ぎた分を従業員に還付するのです。
一方で前者の方が多かったら勤務先は、足りない分の所得税を従業員から徴収して、代わりに納付するのです。
こういった所得税の過不足を精算する手続きが年末調整になりますが、還付されるケースの方が多いため、「年末調整=還付」というイメージがあるかもしれません。
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年末調整の対象にならない2つのケース
年末調整の対象になるのは、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」という書類を、勤務先に提出している方です。
書類を提出できるのは原則として1か所だけになるため、例えば副業でアルバイトをしている会社員は、本業の会社には書類を提出しても、副業の会社には提出していない場合が多いと思います。
こういったケースでは本業の会社で年末調整の対象になっても、副業の会社では対象にならないため、過不足の精算が不完全なのです。
また副業の給与所得が20万円を超えると、確定申告が必要になる点にも注意する必要があります。
この他に年収が2,000万円を超える会社員は、書類を提出しても年末調整の対象にならないため、確定申告が必要になります。
12月は退職する時期によって給与の手取りが変わる
年末調整の対象になるためには、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出するだけでなく、12月31日時点で在籍という要件を満たす必要があります。
そのため12月の途中に退職する場合には、年末調整の対象にならないため、所得税の過不足が精算されないのです。
ただ12月の途中に退職する場合でも、年内最後の給与を受け取ってから退職する場合は例外的に、年末調整の対象になります。
また年末調整を受けると上記のように、取られ過ぎた所得税が還付される場合が多いため、給与の手取りが多少は増えるのです。
年末調整を受けないで退職し、かつ12月末までに再就職しなかった場合には、翌年になってから確定申告を実施し、取られ過ぎた所得税の還付を受けるのです。
こういった所得税の還付を受けるための還付申告の期限は、還付が発生する年の翌年1月1日から5年になるため、2~3月頃という確定申告の時期に実施しなくても良いのです。
また確定申告を実施する際には、勤務先から配布される「給与所得の源泉徴収票」が必要になるため、捨てないで保管しておきましょう。
住民税の特別徴収と普通徴収の違い
年末調整が終わると勤務先は、原則として翌年1月31日までに、年末調整の際に計算した年収や所得などのデータを、各従業員が住んでいる市区町村に送ります。
これを元にして市区町村は、各従業員の月給から天引きされる1年分の住民税を計算し、その計算結果を翌年5月頃に勤務先へ送付するのです。
計算結果を受け取った勤務先は、新たな金額の住民税を翌年6月から翌々年5月の月給から天引きし、各従業員が住んでいる市区町村に納付します。
このように勤務先が月給から住民税を天引きし、従業員の代わりに納付することを、特別徴収と呼んでいるのです。
一方で各人が納付書を使って、年4回に分けて納付したり、一括で納付したりすることを、普通徴収と呼んでいるのです。
退職する時期によっては住民税が一括徴収される
勤務先を6~12月に退職する方が、残りの住民税の一括徴収や転職先での特別徴収を希望しなかった場合、特別徴収から普通徴収に切り替わるため、納付書を使って残りの住民税を納付するのです。
一方で1~5月に勤務先を退職する場合、住民税が1月分しか残っていない5月を除き、残りの住民税を一括徴収するというルールになっています。
そのため例えば1月に退職する場合、1~5月分の住民税が一括徴収されるため、最後の給与の手取りが大きく減ってしまうのです。
また退職金から一括徴収しても良いため、退職金の手取りが減ってしまう場合もあります。
このように退職する時期によっては、残りの住民税が一括徴収されますが、住民税が多くて最後の給与や退職金から一括徴収できない場合には、特別徴収から普通徴収に切り替わるのです。
所得によっては住民税の減免を受けられる場合がある
退職した後に雇用保険の基本手当、いわゆる失業手当を受給する場合、正当な理由がない自己都合で退職したケースでは、7日間の待機期間の後に2~3か月の給付制限があります。
一方で倒産や解雇などで退職したケースでは、7日間の待機期間の後に給付制限がないため、早いうちに基本手当を受給できるのです。
また、
- 正当な理由がない自己都合で退職した場合、基本手当の所定給付日数は90~150日になりますが、
- 倒産や解雇などで退職した場合は90~330日になるため、所定給付日数の面でも優遇されています。
倒産や解雇などで退職した場合のもうひとつの優遇としては、退職した後の住民税が減免される可能性がある点です。
ただ減免を受けるためには、所得要件などを満たしたうえで、所定の申請を実施する必要があります。
また自治体によっては減免の制度がないため、住所地の市区町村のウェブサイトなどで、制度の有無などを確認する必要があるのです。
実際に減免の申請を行う場合には、雇用保険被保険者離職票や雇用保険受給資格者証などの、失業の理由を確認できる書類が必要になります。
そのため退職した勤務先から、雇用保険被保険者離職票が送られてきた場合には、基本手当を受給する意思の有無にかかわらず、捨てないで保管しておいた方が良いのです。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)
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