70歳までの継続雇用努力義務が施行され、「長く働く」ことへのシフトチェンジが行われています。
ただし、厚生年金への加入状況と生年月日によっては65歳よりも前から年金の支給が始まっており、いつまで働くか、また、年金制度との向き合い方は永遠の課題と言っても過言ではありません。
今回は年金制度において、今後起こる重要な改正部分について解説します。
65歳になって年金の受給資格がない方が年金を受給するにはどうすればよい?
特別支給の老齢厚生年金とは
わが国の年金制度の2階部分である厚生年金から支給される老後の年金であり、生年月日に応じて65歳を待たずに支給される年金です。
これは老後の年金の受給資格があることと、1年以上厚生年金に加入していることで受給資格を満たします。
なぜ生年月日に応じて、受給開始年齢が異なっているのでしょうか。
背景として、直近では2000(平成12)年に大きな法改正が行われ、老後の年金の受給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられました。
これは、60歳から年金生活を想定していた層には重大な不利益改正となり、言うまでもなく、問答無用で65歳受給開始としてしまうと、大きな不利益が生じることになります。
そこで、生年月日に応じて、徐々に受給開始を遅らせる制度とし、男性については2013(平成25)年度から2025(令和7年)度にかけて引き上げが行われています。
他方、女性の場合は当時の雇用情勢等を踏まえて男性より5年遅れとし、2018(平成30)年度から2030(令和12年)度にかけて施行されます。
年金の受給開始
国民年金制度の大改正が行われた昭和61(1986)年当初の平均寿命は、約76歳とされており、年金の受給開始年齢は60歳でした。
上述の通り、厚生年金法の法改正により、2030(令和12年)度以降は性別を問わず65歳から支給開始となります(もちろん繰り上げ請求することで65歳よりも前から受給開始となりますが、一生涯減額率が適用されるデメリットがあります)。
現在、職場の先輩等から65歳よりも前から年金を受給しているという話を聞いていても、そのような時代は終焉を迎えることとなりますので、仮に60歳定年後の制度設計をする際(特に給与額が減額になる場合には尚更)には注意が必要です。
労働法と年金
現在は一部の業種を除き定年年齢の下限は60歳となっており、その5年後から年金受給となります。
現行の法律でも65歳までは「継続雇用義務」がありますので、雇用関係にある場合は、全く収入がなくなる期間は回避できますが、定年を契機に給与額が下がることは少なくありませんので、家計管理が重要となります。
他方、60歳到達時の賃金と比べて(各月に受ける賃金額が)75%未満に低下した場合は、ハローワークから高年齢雇用継続基本給付金という給付制度があります。
2か月に1回申請を行い、ハローワークから直接従業員の口座へ振り込みが行われます。
ただし、雇用保険制度へ5年以上加入していることや、いくつかの要件があります。
給付額については各月に受ける賃金×15%が上限ですが、将来的に給付率は10%へ見直される(令和7(2025)年4月施行)ことが決まっています。
また、男性は令和7(2025)年、女性は令和12(2030)年で年金受給開始年齢の引き上げはいったん終了となりますが、それ以上は引き上げをしないとは明記されているわけではありません。
労働法と関連して議論が行われる見込み
万が一、さらなる年金受給開始の引き上げが議論されることとなった場合には、労働法の改正も並行して行われると考えます。
例えば現行の「70歳までの継続雇用努力義務化」に何らかの改正が入ること等が考えられます。
これまでも労働法と年金保険法では関連した法改正が行われており、今後も関連法の改正の同行に注視する必要があります。(執筆者:社会保険労務士 蓑田 真吾)
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