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物価高が心配な年金受給者は「確定申告不要制度」を利用しない方が良い


遺族基礎年金、遺族厚生年金、寡婦年金などの死亡に関する年金は、これらの金額がいくらであっても、非課税という取り扱いになります。

また障害基礎年金、障害厚生年金などの障害に関する年金も、同様の取り扱いになります。

それに対して一定の年齢になると支給される、次のような老齢または退職に関する年金には、所得税などが課税されるのです。

  • 原則65歳から支給される老齢基礎年金、老齢厚生年金
  • 経過措置で60~64歳から支給される特別支給の老齢厚生年金

こういった老齢年金に課税される所得税は、次のような手順で算出する場合が多いのです。

(A) 1~12月に支給された老齢年金の合計額-公的年金等控除額=公的年金等に係る雑所得

(B) 公的年金等に係る雑所得-所得控除(配偶者控除、扶養控除、生命保険料控除、医療費控除、社会保険料控除など全部で15種類)の合計額=課税される所得金額

(C) 課税される所得金額×税率-税額控除(住宅ローン控除など)の合計額=所得税

以上のようになりますが、(B) に記載したように所得税は、配偶者控除や扶養控除などを差し引いたうえで算出します。

そのため扶養している親族がいる方は、その人数の分だけ所得税の負担が軽くなるのです。

また(C) に記載した税率は、次のように「課税される所得金額」が増えると、段階的に上がっていくのです。

参照:国税庁 所得税の税率

なお老齢年金に課税される住民税は、住所地の市区町村が所得税と同じような手順で算出しますが、「課税される所得金額」がいくらであっても、税率は一律10%という違いがあります。

年金受給者も確定申告をしよう

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2つの要件を満たす方が利用できる「確定申告不要制度」

個人事業主などは毎年2~3月頃になると、前年の収入に対して課税される所得税を自分で確定し、税務署に申告したうえで、その金額を納付書などで納付する、確定申告の手続きを実施します。

ただ次のような2つの要件を満たしている年金受給者は、「確定申告不要制度」を利用できるため、確定申告を実施しなくても良いのです。

  1. 公的年金等の合計額が、年間で400万円以下になる
  2. 公的年金等に係る雑所得以外の所得が、年間で20万円以下になる

なぜ確定申告が必要ないのかというと、老齢年金の合計額が次のような金額を超える時には、所得税が源泉徴収されている場合が多いからです。

  • 65歳未満:108万円
  • 65歳以上:158万円

つまり日本年金機構などが各人の所得税を算出し、それを先取りしてから、老齢年金を振り込みするのです。

前年の1~12月の間に所得税が、いくら源泉徴収されているのかは、毎年1月頃に送付される「公的年金等の源泉徴収票」の中の、「源泉徴収税額」という部分を見るとわかります。

また毎年9月頃に送付される、「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」という書類を返送すると、(B) の配偶者控除や扶養控除などを差し引いたうえで、老齢年金から源泉徴収される所得税が算出されます。

そのため書類の提出を忘れた場合、配偶者控除や扶養控除などが差し引かれないため、翌年2月以降の老齢年金から源泉徴収される所得税が、以前より増えてしまうのです。

こういったケースでは自分で確定申告を実施し、配偶者控除や扶養控除などを受けると、取られ過ぎた所得税が還付されます。

確定申告をして各種控除を受けよう

確定申告で所得控除を受けると節税になる

老齢年金から源泉徴収される所得税は、「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」という書類を提出している場合、配偶者控除や扶養控除などの所得控除を差し引いたうえで算出されます。

一方で書類を提出しても、次のような所得控除は差し引かれないため、確定申告不要制度の要件を満たしている場合でも、確定申告を実施した方が良いのです。

1. 生命保険料控除

所定の要件を満たしている死亡保険、医療保険、介護保険、個人年金保険に加入して、保険料を支払った方が受けられる所得控除になります。

2. 医療費控除

自分と親族の医療費の支払いが一定額を超えた時に、受けられる所得控除になります。

3. 社会保険料控除

国民健康保険、国民年金、介護保険、後期高齢者医療などの社会保険の保険料を納付した方が、受けられる所得控除になります。

ただ老齢年金から源泉徴収されている社会保険の保険料は、源泉徴収される所得税を算出する時に差し引かれているため、確定申告を実施する必要はありません。

一方で老齢年金から源泉徴収されていない社会保険の保険料は、源泉徴収される所得税を算出する時に差し引かれていないため、これを納付した方は確定申告を実施して、社会保険料控除を受けるのです。

例えば後期高齢者医療の保険料の納付方法を、老齢年金からの源泉徴収から口座振替に切り替え、妻が納付する後期高齢者医療の保険料を、夫が代わりに納付した場合には、夫が社会保険料控除を受けられます。

その他に同居する子供が納付する国民年金の保険料を、親が代わりに納付した場合には、親が社会保険料控除を受けられます。

以上のようになりますが、これらの所得控除を確定申告で受けると、その分だけ「課税される所得金額」が低くなるため、源泉徴収された所得税が還付されるのです。

また確定申告の際に申告したデータは、税務署から住所地の市区町村に送られるため、これらの所得控除の分だけ、老齢年金から源泉徴収される住民税が安くなるのです。

確定申告

物価高の対策として確定申告を実施しよう

例えば妻が納付する年間8万円の後期高齢者医療の保険料を、夫が代わりに納付して、その翌年以降に確定申告を実施した場合、夫の老齢年金から源泉徴収された所得税が還付されます。

夫の所得税の税率が仮に5%だった場合、還付される金額の目安は4,000円(8万円×0.05)です。

また住民税の税率は一律10%のため、8,000円(8万円×0.1)くらい住民税が安くなる可能性があります。

一方で確定申告不要制度の要件を満たしているため、確定申告を実施しなかった場合、これらの金額の分だけ損失が発生するのです。

最近は円安や資源価格の上昇により、数十年ぶりの物価高になっているため、家計の負担が増えているのです。

こういった状況を心配している年金受給者は、たとえ金額が少なかったとしても、上記のような損失を回避した方が良いと思います。

また損失を回避するには、確定申告不要制度の要件を満たしている場合でも、必ず確定申告を実施し、自分が該当しそうな所得控除を漏れなく受けるのです。

確定申告を面倒に感じる方がいるかもしれませんが、マイナンバーカードを保有していれば、パソコンやスマホなどからe-Taxで確定申告ができるため、税務署まで足を運ぶ必要はありません。

これに加えて所得税の還付を受けるための確定申告(還付申告)の期限は、対象となる年の翌年1月1日から5年になるため、時間の余裕がある時に手続きすれば良いのです。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)

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