もっているお金の額に関係なく「遺言書は書いておいた方が良い」と言われています。
とはいっても、遺言書には「誰にどれだけ財産をあげる」ということくらいしか書けないと思われていることが多く、あまり「便利なもの」というイメージはありません。
しかし、遺言書には意外な事実があります。
今回は、遺言書をもっと便利に使うために知っておきたい「できること」と「できないこと」をお話しします。
【できる】遺言書で生命保険金の受取人変更ができる
生命保険金の受取人は、契約するときに指定することがほとんどです。
しかし、長い年月の間には家族といえども関係性が変わり
「やっぱり受取人を変更したい」
と思うことがあるかもしれません。
以前は受取人を変更するならば、保険会社に連絡して受取人変更の手続きをしなければなりませんでした。
しかし平成22年の保険法改正により、保険契約の変更をしていなくても、遺言書で受取人変更ができるようになりました。
遺言書といえば「相続が発生してからのお金や不動産の分け方」を書くことしかできないものと思われがちですが、生命保険金の受取についても遺言書に書けるのです。
注意点
ただし注意点があります。
平成22年4月1日以前に締結された生命保険契約は、保険法が改正される前の契約になります。
この場合は、遺言書で生命保険金の受取人変更をすることはできない可能性があります。
また、保険契約内容によっては遺言書だけでは変更ができないこともあるため、遺言書に書く前に保険会社に「遺言書で受取人変更ができる契約か」と確認してみるようにしましょう。
遺言書で受取人変更された場合も、保険金に対して相続税がかかります。
【できない】ペットを財産の受取人にすることはできない
大切にしてきたペットが気になり、
「ペットを財産の受取人に指定したい」
と考える人がいるかもしれません。
しかし、遺言書に「ポチを受取人にする」と書くことはできません。
なぜならば、ペットは法律上「動産」になるからです。
「動産」とは、不動産ではないものをいいます。
例えば、家具やエアコンやパソコンなどです。
動産に財産を相続させることはできません。
しかし、命あるペットを「動産だから」と言って放っておくことはできません。
遺言書には「ポチに100万円あげる」と書くことはできませんが、
「ポチを引き取って飼ってくれる人(指名)に100万円あげる」
と書くことはできます。
これを「負担付き遺贈」といいます。
注意点
ただし注意点があります。
負担付き遺贈された人は
「お金はいらないから嫌だ」
と断ることができるのです。
負担付き遺贈を考えるときには、遺言書に書く前に「100万円あげるからポチを引き取ってくれる? 」と確認しておくことが大切です。
【できない】「この人の次はこの人へ」の跡継ぎはできない
子どもが3人いたとします。
大きな持ち家があり
「家は妻が相続することになるけれど、妻の次は末っ子に相続させたい」
と考えたとします。
しかし、遺言書に「自宅は妻に相続させて、妻の次は末っ子に相続させる」と書くことはできません。
遺言書には「自分の次」しか書けないのです。
妻が相続した家を誰に相続させるかは、妻の自由です。
ただ、遺言書に「自分は妻に相続させるけど、相続するときに妻がこの世にいなければ末っ子に相続させる」と書いておくことはできます。
【できる】お墓を継承する人の指定はできる
お墓は相続財産ではありません。
しかし、遺言書にお墓を継承する人を書くことができます。
遺言書といえば「誰にどれだけお金や不動産を渡すかを書くもの」というイメージがありますが、相続財産ではないお墓のことを書けるとは意外な事実ではないでしょうか。
お墓を継承する人は「墓参りをする人」ではありません。
お墓を継承する人は、お墓の維持費を払ったり、法要を開催したりしてお金を払うことも多くなります。
遺言書には、お金をもらう人だけでなく、管理の負担やお金を払う人が書かれることもあるのです。
継承する人がお墓の管理費を払いたくない場合
もしかしたら
「私はお墓の管理にお金を払いたくない」
と思う人がいるかもしれません。
しかし、遺言書にお墓の継承者として名前が書かれたら辞退はできません。
お墓は相続財産ではないため、借金の相続のように相続放棄をすることはできないのです。
どうしても維持費の負担や管理の負担を負いたくないと思うならば、「墓じまい」を検討する方法もあります。
相続したお墓をどうするか決める決定権は、お墓を継承した人にあるのです。
ただ、お墓は預貯金や不動産以上に「みんなの思い」があります。
遺言書に継承する人の名前を書くときには、「みんなの思い」に寄り添える人を選んだ方が良いでしょう。
遺言書の本当の目的は「お金とそれ以外の気になることの解決策を書くこと」
サスペンスドラマに登場する遺言書には、「誰にいくらあげる」くらいしか書いてありません。
しかし、遺言書の本当の目的は「お金とそれ以外の気になることの解決策を書くこと」なのかもしれません。
「マネーの達人」とは、お金を上手に使ったり貯めたりするだけでなく、上手に遺せてこそ本当の達人なのではないでしょうか。(執筆者:式部 順子)