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「年金生活者支援給付金」が増える制度と、これと相性が悪い2つの制度について


野田内閣が政権を担っていた2012月8月に、「社会保障と税の一体改」の関連法案が成立しました。

この時に創設されたのが、低所得の年金受給者の生活を支援するために、次のような基礎年金に上乗せして支給される、「年金生活者支援給付金」になります。

老齢基礎年金に上乗せして支給される「老齢年金生活者支援給付金」

障害基礎年金に上乗せして支給される「障害年金生活者支援給付金」

遺族基礎年金に上乗せして支給される「遺族年金生活者支援給付金」

ただ実際に支給が始まったのは2019年10月からであり、2012月8月の創設から約7年もかかったのです。

このように支給開始が遅れたのは、年金生活者支援給付金の財源にする予定だった消費税の税率を、8%から10%に引き上げした時期が、2019年10月に延期されたからです。

一方で消費税を財源にする予定だった、他の改正(例えば受給資格期間を25年から10年に短縮する改正)は、後に誕生した安倍内閣によって、消費税の税率を引き上げする前に実施されました。

そのため年金生活者支援給付金は他の改正より、財政的な負担が大きいと推測されるのです。

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老齢年金生活者支援給付金に関する3つの支給要件

年金生活者支援給付金の中で受給者数がもっとも多いのは、老齢年金生活者支援給付金になりますが、これを受給するには次のような3つの支給要件を、すべて満たす必要があります。

(1) 65歳以上の老齢基礎年金の受給者である

繰上げ受給の制度を利用し、60~65歳までの間に老齢基礎年金の受給を始めた方は、65歳まで支給開始を待つ必要があります

(2) 同一世帯の全員について市町村民税が非課税である

収入が老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金)だけの、65歳以上の単身者については、「前年に受給した老齢年金の合計が155万円以下」というのが、市町村民税が非課税になる目安になります。

また収入が老齢年金だけの、扶養する配偶者がいる65歳以上の方については、「前年に受給した老齢年金の合計が211万円以下」というのが、市町村民税が非課税になる目安になります。

そのため65歳以上の夫婦2人世帯の場合、夫が前年に受給した老齢年金の合計が211万円以下で、扶養する妻が前年に受給した老齢年金の合計が155万円以下であれば、この支給要件を満たします。

ただ地域によっては基準額が、もう少し低くなる場合があるため、市区町村のウェブサイトなどで確認した方が良いのです。

(3) 前年の公的年金(障害年金、遺族年金などの非課税になる年金は除く)と、その他の所得の合計が、78万1,200円以下である

老齢年金生活者支援給付金を受給する方と、所得の逆転が生じないようにするため、78万1,200円を超えるけれども、88万1,200円以下の方に対しては、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給されます

老齢年金生活者支援給付金は月5,030円が基準になる

20歳から60歳までの480月のすべてが、国民年金の保険料を納付した期間だった場合、2021年度額で78万900円(月額に換算すると6万5,075円)となる満額の老齢基礎年金を、原則65歳から受給できます。

これ以外の収入がない方は「市町村民税が非課税」や、「前年の公的年金とその他の所得の合計が78万1,200円以下」という支給要件を満たせるので、65歳から老齢年金生活者支援給付金が支給されます。

また国民年金の保険料を納付した期間を元にした、2021年度の老齢年金生活者支援給付金の月額は、次のような計算式で算出します。

5,030円×国民年金の保険料を納付した月数/480月

満額の老齢基礎年金を受給できる、国民年金の保険料を480月納付した方については、「5,030円×480月/480月」で計算するため、老齢年金生活者支援給付金は月5,030円になります。

申請免除を受けると老齢年金生活者支援給付金が増える

失業して無職になったり、収入が低下したりして、国民年金の保険料を納付するのが困難になった方が、所定の手続きをすると、各種の申請免除(全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除)や、納付猶予を受けられる場合があります

また納付猶予以外には国庫負担があるため、次のような割合で老齢基礎年金の金額に反映されます。

全額免除:保険料を全額納付した場合の「2分の1」

4分の3免除:保険料を全額納付した場合の「8分の5」

半額免除:保険料を全額納付した場合の「8分の6」

4分の1免除:保険料を全額納付した場合の「8分の7」

そのため20歳から60歳までの480月のすべてが、全額免除を受けた期間だった場合、満額の2分の1となる39万450円(月額に換算すると3万2,538円)の老齢基礎年金を、原則65歳から受給できます。

また全額免除、4分の3免除、半額免除を受けた期間を元にした、2021年度の老齢年金生活者支援給付金の月額は、次のような計算式で算出します。

1万845円×これらの免除を受けた月数/480月

この例のように480月に渡って全額免除を受けた場合、「1万845円×480月/480月」で計算するため、老齢年金生活者支援給付金は月1万845円になるのです。

すべての期間で全額免除というのは、かなり極端な例になりますが、こういった極端な例と、上記のような480月保険料を納付した例を比較すると、各種の申請免除は老齢年金生活者支援給付金が増える制度ということが、よくわかると思います。

なお4分の1免除を受けた期間を元にした、2021年度の老齢年金生活者支援給付金の月額は、「5,422円×4分の1免除を受けた月数/480月」で算出するため、他の申請免除より金額が低くなるのです。

相性が悪い

繰下げ受給は老齢年金生活者支援給付金と相性が悪い

老齢基礎年金の支給開始を自らの意思で、1か月繰下げる(遅くする)と、「繰下げ受給」の制度によって、0.7%の割合で年金額が増えます

年金額が少ない場合には65歳以降も働き、繰下げ受給の上限年齢である70歳(2022年4月以降は75歳)を目標にして、老齢基礎年金の支給開始を繰下げすれば良いのです。

ただ増額した老齢基礎年金が支給されるまでの間は、老齢年金生活者支援給付金は支給されないうえに、この金額は繰下げしても増えません

また繰下げによって、自分や配偶者の老齢基礎年金の金額が増えると、「市町村民税が非課税」や、「前年の公的年金とその他の所得の合計が78万1,200円以下」という支給要件を、満たせなくなる場合があります

そのため繰下げ受給は老齢年金生活者支援給付金と、相性が悪い制度なのです。

もし繰下げ受給を利用する場合には、ねんきんネットの年金見込額試算などを活用し、老齢年金生活者支援給付金の支給要件を満たせなくなる年齢(月数)を、把握しておいた方が良いと思います。

生活保護は年金生活者支援給付金と相性が悪い

公的年金を受給している場合でも、その金額が年齢、地域、世帯の状況などを元にして算出した「最低生活費」を下回っている時には、生活保護を受けられる可能性があります。

実際に生活保護を受けられた場合には、最低生活費と公的年金の差額が、生活保護費として支給されます。

また公的年金に加えて、年金生活者支援給付金を受給できる場合には、最低生活費と「公的年金+年金生活者支援給付金」の差額が、生活保護費として支給されます。

そのため生活保護を受けた後は、年金生活者支援給付金を受給できるメリットが薄れるため、生活保護は年金生活者支援給付金と相性が悪い制度なのです。

ただ満額の老齢基礎年金と老齢年金生活者支援給付金だけでは、月7万105円(6万5,075円+5,030円)にしかならないため、預貯金などの資産が枯渇を迎える前に、生活保護の仕組みや手続きなどについて、調べておいた方が良いと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)

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