遺産分割を行うには、「対象遺産の確定」と「相続人の確認」が必要です。
故人の取引銀行の確認や残高等は相続人1人からの依頼でも行えますが、遺産分割を完了するためには、遺言書がある場合などを除き、原則相続人全員の合意がなければ成立しません。
1人でも遺産分割の内容に反対の方がいれば、その遺産は相続人の共有状態のままということになります。
また、相続人の中に未成年の者がいたり、認知症等で意思能力のない者がいれば、特別代理人や成年後見人の選任手続きが必要になります。
そのためまず1番に相続人の確認することが大切です。
「実家じまい」のタイミング 相続放棄をすればいいだけではない問題点
相続人の確定するためには
故人の出生から死亡までの連続した戸籍にて確認を行いますが、戸籍に記載された子が真実の相続人で間違いないかというと、現実はそうでない場合もあるのです。
筆者も、そんな案件に数件かかわったことがあります。
例えば、婚姻中の夫婦で、妻が不倫してその相手の子を懐胎しても、民法772条により戸籍には夫婦間の子として記載されるからです。
そのことにより、夫には「相手の子」の扶養義務が生じ、また将来、夫に相続が発生した時、「相手の子」は、夫の相続人となるのです。
(嫡出の推定)
第七百七十二条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。e-gov
事実を知った夫の取るべき行動
夫は、子が嫡出(夫婦間の子)であることを否認でき(民法775条)、出生を知って1年以内(民法777条)であれば、嫡出否認の訴え等で事実を証明し、戸籍を訂正すれば、その相手の子は相続人から除くことができます。
また夫が長期海外出張中とか、受刑中等で、妻が夫の子を妊娠する可能性がない等、夫婦間の子である推定ができない場合は、「親子関係不存在確認の訴え」にて対応ができます。こちらは期限もありません。
ただ、この事案、故人はそんな方法を知っていたか知らずかは不明ですが、何もしないまま相続が発生しています。
相続人は、故人の実子と戸籍上のみの子(妻の不倫相手の子)の2人との話でした。真実は、筆者も知りません。ただ、子同士の認識として上記の通りであったわけです。
実務上どうしたか
戸籍を訂正しない限り、遺産分割協議に「戸籍上のみの子」の署名と印鑑証明書も必要であることを説明しました。
結局、実子が直接会い、解決金を渡すことで、話はまとまりました。
実際のところ、夫婦間でのさまざまな事情もあったと思います。
故人の何もしなかった意思もくみ、母は同じであるきょうだい(半血きょうだい)間で話し合ったため、円満に相続手続きは完了できました。
遺言を作成しておいた方がいいのか
父が、遺言書の作成しておけば「戸籍上のみの子」の署名も印鑑証明書も不要でした。
ただ、「戸籍上のみ」かもしれない子にしてみれば、遺留分の請求をしてきた可能性は高いです。
「親子関係不存在の訴え」をおこしたりと、遺言書があったがために、余計こじれたかもしれないと筆者は思います。
遺言書なしで、相続人間で、譲り合い話がまとまるのが1番です。
遺言書の作成は、残された相続人間で話し合いが可能かどうか、さまざまな事情をよく考慮したうえで、遺言書の作成の有無を、考えたいものです。(執筆者:1級FP、相続一筋20年 橋本 玄也)
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