結論を言うと、不動産投資をすると節税ができるケースがある。圧縮できる可能性がある税金は、所得税と住民税、相続税の3つである。ただし、税金を減額できる仕組みは複雑なため、よく理解することが重要だ。
こちらの記事では、不動産投資で節税できる税金と不動産投資のリスクや低減策について詳しく解説していくので、ぜひ最後まで読んで参考にしてほしい。
目次
不動産投資で節税できる税金は?
不動産投資で節税できる税金は以下の3つだ。
・所得税
・住民税
・相続税
所得税と住民税については、損益通算を利用することで圧縮することができるケースがある。
損益通算とは、不動産所得などの赤字をほかの所得から差し引くことだ。一方で相続税の節税は、損益通算とは全く違う仕組みになる。
では、それぞれの仕組みについて説明していく。
「所得税」と「住民税」を節税できる仕組み
具体的には、以下で述べる減価償却という会計処理を活用することで、不動産所得で会計上の赤字を発生させることができる。その赤字を本業の所得(給与所得や事業所得など)と損益通算し、所得全体の金額を圧縮することで、税率や税額を減らすことになる。なお、不動産所得が黒字の場合には節税にはならない。
減価償却、損益通算とは?
・減価償却とは?
減価償却とは、固定資産取得にかかった費用を対象となる資産の「耐用年数」にしたがって複数年に分割して計上する会計処理のことだ。
例えば、5,000万円の取得費用をかけて建物を取得した場合は、取得年度に5,000万円全額を費用として計上するのではなく、数年ないし数十年に分けて費用として計上していくことになる。
建物の取得にかかった費用(上記の例では5,000万円)の支払いは、取得した年に完了しているが、会計処理上は「減価償却費」という名目で数年ないし数十年など法定耐用年数に応じて分割して計上されるのだ。
減価償却ができる期間は、実際のキャッシュアウトを伴わずに費用計上ができるため、不動産所得を圧縮する(会計上のみの赤字を作り出す)ことが期待できる。
・損益通算とは?
「損益通算」とは、異なる所得間における黒字と赤字を合算することだ。
例えば、給与所得(または事業所得)で1,000万円の所得、不動産所得でマイナス500万円の所得(赤字)があった場合、合算するとトータルの所得が500万円に圧縮される。減価償却などによって作り出した不動産所得の赤字を本業の所得と合算して、課税対象となる所得金額の圧縮ができるというわけだ。
日本の2023年時点の税制度では「累進課税」が採用されているため、所得金額が増えるほど税率が上がり、それに伴って税額も増える。つまり、所得金額を圧縮できれば税率や税額を減らせるため、節税につながるということである。
節税による2つの効果
・減価償却期間中に納める税金の金額を減らす効果
・納税のタイミングを繰り延べできる効果
・減価償却期間中に納める税金の金額を減らす効果
所得税や住民税は、課税所得の金額で決まるため、課税所得を圧縮すれば課税金額を減らすことができる。
所得税は、以下の表のように課税所得が増えるほど高い税率が適用され(累進課税)、住民税は課税所得の金額を問わず一律10%の税率が適用されるのが特徴だ。そのため課税所得が圧縮できれば、税率(所得税)と税額(所得税・住民税)を減らすことが期待できる。
課税所得の金額 | 税率 | 合計税率 | |
---|---|---|---|
所得税 | 住民税 | ||
330万~694万9,000円 | 20% | 10% | 30% |
695万~899万9,000円 | 23% | 33% | |
900万~1,799万9,000円 | 33% | 43% | |
1,800万~3,999万9,000円 | 40% | 50% | |
4,000万円以上 | 45% | 55% |
・納税のタイミングを繰り延べできる効果
所得税や住民税の支払いを物件の売却時まで繰り延べできる効果だ。物件を売却して得られた所得には税金(譲渡所得税)がかかり、その所得は以下のように計算される。
課税譲渡所得金額=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
上記の「取得費」を計算する際には、物件所有していた期間の減価償却費相当額を差し引くことが必要だ。そのため減価償却をした分は、売却時に課税所得として増加することとなる。
しかし、納税のタイミングを繰り延べすればキャッシュを手元に残せるため、突発的な修繕などが発生したときに対応できる点ではメリットといえるだろう。
物件売却はいつまでにするべきか?
減価償却や節税といった観点で物件の売却時期は「デッドクロスを迎える時期」が一つの期限といえる。不動産投資におけるデッドクロスとは、「ローンの元金返済額が減価償却費を上回る状態のこと」だ。
デッドクロスの状態になると、減価償却費(キャッシュアウトはしないが経費計上はできる)が減り、ローンの元金返済(経費計上はできないがキャッシュアウトはする)が進むことになる。
ローンの元金返済額>減価償却費
つまり所得の圧縮効果が薄まってしまうため、支払う所得税や住民税が増えて資金繰りが悪化してしまう可能性があるのだ。
デッドクロスが起こると「会計上は黒字だがキャッシュフローは赤字」といった「黒字倒産」が発生しかねない。
減価償却費の経費計上は、物件の法定耐用年数によって上限があるため、減価償却期間が終われば課税所得の圧縮効果が大幅に薄まる点は、押さえておこう。節税目的で購入した物件は、デッドクロスの状態になる前に売却するのがよい場合がある。
デッドクロスによる黒字倒産の状態を回避するためには、物件購入時点で減価償却期間や融資条件などを十分に加味して売却までのシミュレーションを綿密に行うことが必要だ。また不動産は急には売却できないことからデッドクロスを迎える前から売却活動を始めていくことも重要となる。
法人化による節税効果とは?
法人化することで得られる節税効果の一つは、税率の低減だ。個人で不動産投資を行う場合で不動産所得が黒字になるときは所得に応じた税率がかかるが、規模を拡大することを考えたときには法人化した方が税制の面で有利な場合がある。上述しているように個人の場合は、累進課税が採用されているため、所得税や住民税の合計税率は最大で55%にもなる。(課税所得が4,000万円以上の場合)
一方で法人の場合は、個人のような所得税は課税されない代わりに法人税が課税される。不動産所得に対する法人税の税率は以下の表のように最大で23.20%であるため、大規模に経営している場合は個人よりも法人での経営の方が税金を抑えられる場合があるのだ。
資本金の金額 | 所得額 | 税率 |
---|---|---|
1億円以下 | 800万円以下の部分 | 15% |
800万円超の部分 | 23.20% | |
上記以外の普通法人 | すべて | 23.20% |
しかしながら、一般的な記事では、個人と法人では税率が異なるため、所得金額が高い場合など個人税率よりも法人税率を低くできる場合は、法人化による節税効果を受けられると説明しているものも少なくない。しかし、法人には法人特有の税金もあるため、所得税が課税されない点だけで法人化すべきか否かを判断することは避けるのがよいだろう。
ちなみに、法人特有の税金には以下2つの税金が挙げられる。
- 法人住民税
- 法人事業税
・法人住民税とは?
地方公共団体が住民への行政サービスを提供することを目的として課税される税金だ。本税金は、以下2つの部分に分けられて課税される。
- 均等割:所得の有無を問わず資本金および従業員の数に応じて課税される部分
- 法人税割:法人税の金額に応じて課税される部分
・法人事業税とは?
地方公共団体の行政サービスを受けている法人の事業に対して課税される税金をいう。法人が事業を営むうえでは、道路や上下水道の整備といった行政サービスが必要なため、それらにかかる費用を事業主である法人が負担するという趣旨の税金だ。本税金は、所得金額または収入金額に応じて課税される。
不動産投資で計上できる経費
節税効果を高めるには、収入から差し引くことができる不動産経営に関連する経費を漏らさず計上して所得を少なくすることだ。
ここでは、賃貸経営で認められている経費を把握しておこう。
・固定資産税や都市計画税、不動産取得税、登録免許税、印紙税、事業税など
・減価償却費
・地震保険、火災保険などの保険料
・管理費・修繕費
・ローンの支払い利息
・管理会社への委託料
・管理会社との打合せ、現地調査などの旅費交通費
・管理会社との打合せなどの交際費
・情報収集するための書籍、新聞などの諸経費、など
不動産投資に直接必要な経費であることがポイントになる。
・土地にかかるローンの支払利息は損益通算できない
上記「ローンの支払い利息」のうち土地にかかる部分については、損益通算ができないため注意が必要だ。土地にかかるローンの支払い利息とは、土地を取得するために支払った利息を指す。ローンの返済における元金返済分だけでなく、土地を取得するために支払った利息も損益通算ができない点は押さえておこう。
毎月の金融機関へのローン返済は、大きく以下の4つの部分に分けられる。
- 元金の返済
- 土地を取得するために支払った利息
- 建物を取得するために支払った利息
- 設備を取得するために支払った利息
上記の4つの部分について、損益通算の可否をまとめると以下の表の通りだ。
項目 | 損益通算の可否 | |
---|---|---|
元金 | × | |
利息 | 土地取得のため | × |
建物取得のため | ◯ | |
設備取得のため | ◯ |
土地を取得するために支払った利息の金額は、どのように算出すればいいのだろうか?
以下の具体例をもとに解説する。
【前提条件】
・土地の取得価格:2,400万円
・建物および設備の取得価格:1,600万円
・自己資金:2,000万円(自己資金は土地購入にあてたものとする)
・借入金額:2,000万円
・年間支払い利息:180万円
【算出方法】
土地の取得にかかった借入金額を算出する | →2,000万円-1,600万円=400万円 |
年間支払い利息を土地と建物および設備の取得にかかった費用で按分する | →180万円×400万円÷2,000万円=36万円 |
確定申告の際に損益通算ができる金額 | →180万円-36万円=144万円 |
本例の場合、確定申告の際に損益通算ができるのは、建物と設備を取得するために支払った利息の144万円(180万円-36万円)ということだ。
所得税と住民税の節税シミュレーション
給与所得者の場合、所得税と住民税が圧縮できるのは不動産所得が赤字になり、それを給与所得と損益通算して税金の還付を受ける場合だ。
不動産投資の損益通算の計算式は以下である。
不動産所得(赤字額)=不動産からの収入-必要経費
損益通算後の所得=給与所得-不動産所得(赤字額)
なお、不動産所得が黒字になる場合は納税が必要になる。だからと言って無理に赤字にすると税務署から指摘を受ける場合があるので正確に申告することを心掛けよう。
実際にシミュレーションを行ってみる
前提条件は次の通りである。
・本業の給与年収:700万円
・家賃収入:240万円
・減価償却費などの諸経費:350万円
・社会保険料控除:100万円(同じ年収でも異なる場合がある)
・給与所得控除:180万円
・基礎控除額:48万円
※医療費、生命保険、寄附金、配偶者控除等の控除はないと仮定
1.「給与所得のみのときの課税所得」「給与所得と不動産所得があるときの課税所得」を計算する
(1)給与所得のみのときの課税所得
給与所得=700万円(給与年収)−180万円(給与所得控除)=520万円
給与所得のみのときの課税所得=520万円(給与所得)−100万円(社会保険料控除)−48万円(基礎控除)=372万円
この場合の課税所得の合計は372万円になる。
(2) 給与所得と不動産所得があるときの課税所得
給与所得=700万円(給与年収)−180万円(給与所得控除)=520万円
不動産所得=240万円(家賃収入)-350万円(減価償却費などの諸経費)=△110万円
損益通算後の課税所得=〔520万円(給与所得)−110万円(不動産所得)〕−100万円(社会保険料控除)−48万円(基礎控除)=262万円
この場合の課税所得の合計は262万円になる。
2.所得税の節税額を計算する
・給与所得のみのときの所得税=372万円(給与の課税所得)×20%(税率)-42万7,500円=31万6,500円
・給与所得と不動産所得があるときの所得税=262万円×10%(税率)-9万7,500円=16万4,500円
このように給与所得だけの場合と不動産所得と損益通算後の所得税を比較すると、損益通算後の所得税が15万2,000円安くなる。
<所得税の速算表>
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
なお、所得税の計算の基礎となった所得額は、住民税の計算の基礎にもなっている。すなわち、所得税が安くなれば、翌年6月以降に納める住民税も圧縮できることになる。
「相続税」を節税できる仕組み
不動産投資をすることで相続税対策にもなる。その理由は以下の4つが挙げられる。
・融資による借入金はほかのプラス資産から差し引くことができる
・現金よりも不動産のほうが相続税評価は減額される
・借地・借家割合で相続税評価額をさらに下げられる
・不動産賃貸用の土地の場合は「小規模宅地等の特例」を利用できる
それぞれについて説明していこう。
・融資による借入金はほかのプラス資産から差し引くことができる
不動産を購入する際に融資を利用すると、相続を受ける時点での残債を相続税評価額から差し引くことが可能だ。相続税評価額が下がることによって、相続税の課税額も下がることになる。
例えば、相続する資産のうち5,000万円の現金があった場合、不動産購入のための借入が2,000万円残っていたら、その借入金が債務にあたるので、相続税が課税される金額は「5,000万円-2,000万円=3,000万円」になる。ただし、借入金を資産から差し引くことができたとしても、相続人に負債が残るのはデメリットである点は理解しておきたい。
また、融資を受ける際には団体信用生命保険に加入するケースが多い。この場合、不動産を相続するときは残債が団信の保険金で完済されるため、このケースには当てはまらない。
・現金よりも不動産のほうが相続税評価は減額される
現金は金額がそのまま相続税評価されるため、100万円なら100万円と評価されることになる。
一方で、アパートやマンションなどの敷地(宅地)は路線価方式や倍率方式によって相続評価されるため公示価格より圧縮されるケースがある。また、建物は固定資産税評価によって評価されるため、こちらも実勢価格より圧縮されるケースがある。そのため、立地や不動産の状態によっては、実際の価値よりも相続税が課税される金額が低くなる。
・借地・借家権割合で相続税評価額をさらに下げられる
不動産を貸し出している場合には、借家権割合によって建物の相続評価額を下げることが可能だ。借家権割合とは、貸家建付け地を相続する際に相続評価の計算で使用する建物の価値に占める借家権の割合のことで、一律で30%と決められている。
また、土地を貸している場合には、借地権割合によって土地の相続評価額を下げることも可能だ。借地権割合とは土地に占める借地権の割合のことで、借地等の貸宅地の相続評価額を計算する際に使用する。路線価に表示されているアルファベットの記号が借地権の割合を示していて、A〜Gと90%〜30%の順に定めており、地域によって異なるため確認が必要だ。なお、空欄は「権利金の支払の習慣がない地域」であり、借地権割合は20%となる。
借地借家権つきの建物と土地の相続評価額の計算式は以下になる。
【建物の相続評価額の計算式】
「固定資産税評価額×(1−借家権割合×賃貸割合)=建物の相続評価額」
上記にある賃貸割合とは、実際に貸している住戸の割合のことを指す。
【土地の相続評価額の計算式】
「自用地評価額×(1−借地権割合×借家権割合×賃貸割合)=土地の相続税評価額」
上記にある自用地評価額とは所有権として保有していたときの評価額のことを指す。
上記の計算式に自身の不動産の条件を当てはめることで、正確に計算することができる。
・小規模な事業用の土地の場合は「小規模宅地等の特例」を利用できる
不動産賃貸用の土地の場合は「小規模宅地等の特例」を利用することが可能だ。ただし、利用するためには要件があるので以下を確認してほしい。
要件 | 内容 |
---|---|
事業継承 | 対象の土地で行っていた貸付事業を相続税の申告期限までに引き継いで、継続していること |
保有継続 | 対象の土地を相続税の申告期限までに所有していること |
土地上限 | 200平方メートル |
減額割合 | 50% |
上記の要件を満たしているケースは、200平方メートルを上限に、評価額を50%減額することができる。つまり、要件さえ満たしていれば、さらに相続税の課税額を圧縮することが可能になる。
ただし、相続する財産が「自宅と賃貸アパート」といった複数の土地であるケースでは、自宅の土地で特例を受けると減額割合が80%になる。賃貸用物件で特例を受けるほうが課税額の圧縮にならないケースもあるので、複数の土地が相続対象となるときは専門家に相談するのが無難だろう。
相続税の節税シミュレーション
相続税を計算するには、税率と基礎控除額を把握しておく必要がある。基礎控除額の計算は次のようになる。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
次に相続税の税率は、課税される遺産額によって変わる。細かい税率については以下の表より確認ができる。
<2015(平成27)年1月1日以後の場合の相続税の速算表>
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
ここでは現金1億円を相続する場合と1億円の固定資産税評価額の不動産を相続する場合の相続税を比較してみる。
・現金で相続する場合
次のような仮定の条件を設定する。
・法定相続人:1人
・相続財産は現金:1億円
基礎控除額:3,000万円+600万円×1人(法定相続人の数)=3,600万円
相続税が課税される金額:1億円(相続財産)-3,600万円=6,400万円
相続税額:6,400万円×30%(税率)-700万円(控除額)=1,220万円
つまり、現金のみで相続する場合は「1,220万円」の相続税を納める必要がある。
・固定資産評価額が1億円である不動産で相続する場合
仮の条件は次の通りとする。
・法定相続人:1人
・建物:4,000万円(固定資産税評価額)
・路線価地域の200平方メートルの土地を相続(小規模宅地等の特例を利用)
・路線価:30万円
・奥行補正率:1.0
・借家権割合:30%
・借地権割合:60%
・賃貸割合:100%
自用地評価額:30万円(路線価)×1.0(奥行補正率)×200平方メートル(土地の面積)=6,000万円
土地の相続税評価額:6,000万円×(1−60%☓30%☓100%)=4,920万円
小規模宅地等の特例を適用:4,920万円(土地の相続税評価額)×50%=2,460万円
建物の相続評価額:4,000万円×(1−30%×100%)=2,800万円
基礎控除額:3,000万円+600万円×1人(法定相続人)=3,600万円
相続税の課税額:2,460万円+2,800万円-3,600万円=1,660万円
相続税額:1,660万円×15%(税率)-50万円=199万円
上記のように同じ評価額の財産であっても、現金で相続するより投資用不動産で相続したほうが相続税を減額できる可能性が高くなる。
不動産投資のリスクと低減策
不動産投資には上記のように税金を減額できるメリットもあれば、リスクもある。成功するにはリスクを把握した上で低減策を立てておくことが重要である。
主なリスクは以下のようなものが挙げられる。
空室のリスク
空室のリスクは不動産投資において最も大きなリスクと言える。低減策としては、駅から近い、周辺にスーパー、コンビニがあるなど立地がよく、賃貸ニーズが高いエリアの物件を選ぶことが考えられる。
家賃滞納のリスク
家賃滞納によって家賃収入が得られなくなるリスクのことだ。低減策としては、入居者の審査を厳しくすることなどが挙げられる。
家賃下落のリスク
物件の建物・設備が経年劣化したり、物件内で事件や事故が発生したりすると、その分家賃を下げないと入居者が決まりにくいという状況に陥りかねない。これが家賃下落のリスクだ。低減策としては、定期的な修繕、建物や内装のリフォームといった方法が考えられる。
修繕のリスク
不動産や部屋にある設備は築年数の経過とともに劣化していく。修繕する必要が生じるため修繕費がかかる。低減策としては、設備の寿命を把握することや修繕に備えて計画的に修繕費用を積み立てていくことが重要と考えられる。
金利上昇によるリスク
金利上昇によるリスクとは、金利が上昇したことにより、ローンの返済額が増えるリスクのことだ。低減策としては、金利上昇に備えて余裕のある返済プランを立てることが重要だろう。
災害のリスク
災害のリスクとは、地震などの災害によって不動産が損傷を受けたり倒壊したりするリスクのことだ。低減策としては、新耐震基準を満たす物件を購入することや地震保険などの保険に加入することが挙げられる。
不動産価格下落のリスク
築年数とともに不動産の価格が下落することが考えられる。低減策としては、人口の増加が期待できる、賃貸ニーズが高い都内など資産価値が落ちにくい立地を選ぶことが挙げられる。
納税資金のリスク
「現金を不動産投資にあてる」ということは、単純に考えるとその分だけ納税資金が減ることを意味する。収益性の高い物件なら、資金が減っても家賃収入で再び現金を殖やすことができるが、そうでないなら、他の面に支障が出るおそれがある。税金を減額できても手元に現金がなければ、生活も事業も滞るのだ。
「売ればなんとかなる」と言いたいところだが、不動産は車や株式ほど簡単に買い手が見つからない。投資するにあたっては、支払う相続税も考慮しある程度の現金も残しておく必要もあるだろう。
将来の相続争いのリスク
子どもが複数いるケースなら、将来の相続のことも考えておこう。現預金のように分けやすい財産だけなら争いは起きにくいが、不動産のように分けにくい財産があると相続でもめることがある。争いを避けるべく、相続人同士で共有して円満相続を図ろうとする世帯もあるが、共有持分は次やその次の相続のときのトラブルの原因になりかねない。
不動産投資は節税効果が高いと考えられるが、同時に別の問題も抱えているのだ。こういった争いを避けるために子どもが複数いるケースであれば長子には不動産を相続させ、次子に対しては次子を保険金受取人とするような生命保険を契約しておくなどの別の手当てを考えておいた方がよいだろう。
節税できないリスク
不動産投資が節税につながらないことがある。例えば、相続直前に賃貸物件を購入したときだ。すでに伝えた通り、賃貸物件の敷地は、小規模宅地等の特例で評価額を下げられる。しかし、被相続人の死亡日以前3年間に賃貸事業の用に供した物件の敷地には、原則としてこの特例を使うことができないのだ。
この他、不動産投資で相続税を過度に抑えていると見られると、相続税の財産評価基本通達第6項に基づいて税務当局が否認し、評価しなおすことがある。
不動産投資における節税の仕組みに関するよくあるQ&A
Q.不動産投資によって節税できる可能性のある税金の種類は?
A.不動産投資によって節税できる可能性のある税金の種類は、以下の3つである。
- 所得税
- 住民税
- 相続税
上記のうち所得税と住民税は「減価償却」や「損益通算」を活用すれば、節税が期待できる。例えば減価償却費の経費計上で不動産所得が会計上の赤字となり、本業の所得(給与所得や事業所得など)と合算すれば課税所得が圧縮できるため、税率や税額を減らすことにつながるだろう。
Q.減価償却とは?
A.「減価償却」とは、固定資産取得にかかった費用を対象となる資産の「耐用年数」にしたがって複数年に分割して計上する会計処理のことだ。
例えば5,000万円で建物を取得した場合は、当該年度に5,000万円全額を費用計上するのではなく、数年ないし数十年に分けて費用として計上していくことになる。
建物の取得にかかった費用(上記の例では5,000万円)の支払いは、取得した年度に完了しているが、会計処理上は「減価償却費」という名目で数年ないし数十年に分けて少しずつ計上されるのだ。
Q.損益通算とは?
A.「損益通算」とは、異なる所得間における黒字と赤字を合算することだ。
例えば給与所得(または事業所得)で1,000万円の所得、不動産所得で-500万円の所得(赤字)を合算した場合、トータルの所得が500万円(給与所得1,000万円+不動産所得-500万円)に圧縮される。
つまり減価償却などで発生した不動産所得の赤字を本業の所得と合算すれば、課税対象となる所得金額の圧縮ができるという仕組みだ。
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宮路 幸人
会計事務所での長い勤務経験で培った豊富な実務知識により、会計処理・税務処理および経営や税務に関する相談など、さまざまな問題に対応。宅地建物取引士、マンション管理士等の資格を保有し、不動産と相続関連に強みを発揮する。特に相続関連では、税務面だけでなく、家族の幸せを重視したトータルでの提案を行っており、軽いフットワークでお客さまのニーズに応えることをモットーとする。離島支援活動にも積極的。
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