給与所得者が不動産投資で得られる節税効果はどのくらいなのだろうか。
不動産投資に欠かせない不動産所得の計算や具体的な事例をもとに、不動産投資で得られる節税効果について解説する。
シンプルな操作で未来のキャッシュフローを簡単にシミュレーションできます。
キャッシュフローシミュレーターの3つのメリット
・2億超の不動産データに基づき、「賃料」や「空室率」をAIが算出
・最長50年間のキャッシュフローをわかりやすく確認
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不動産投資で節税できるのは所得税・住民税と相続税
日本における所得税の仕組み
給与所得以外に不動産投資による不動産所得がある場合、給与所得と不動産所得を合算し、社会保険料などの各種控除がなされた後の課税所得金額に税率を乗じることで所得税と住民税が確定する。
つまり、総合課税により算出された所得によって税額が確定するわけだが、日本の所得税制では所得が増えるほど税率が高くなる「超過累進課税制度」が採用されている。現状の所得税率は、課税所得195万円以下の5%を下限とし、10%、20%、23%、33%、40%と上がっていき、4,000万円超の45%が最高税率だ。
<所得税税率表>
課税所得金額 | 税率 |
---|---|
1,000円~194万9,000円まで | 5% |
195万円~329万9,000円まで | 10% |
330万円~694万9,000円まで | 20% |
695万円~899万9,000円まで | 23% |
900万円~1,799万9,000円まで | 33% |
1,800万円~3,999万9,000円まで | 40% |
4,000万円以上 | 45% |
ちなみに住民税は所得に関わらず同額が適用される「均等割」と「所得割」から計算され、所得割の税率は一律10%となっていることから、所得税と合わせると55%が最高税率となる。
そして、2037(令和19)年までは、原則として所得税にその年の基準所得税額の2.1%で計算された「復興特別所得税」を合わせて納める必要がある。
所得税・住民税を経費計上によって節税する仕組み
不動産投資で得られる利益は、不動産所得に該当する。また不動産所得金額の計算は、以下の通りだ。
・不動産所得=不動産投資における総収入金額-不動産投資にかかった費用
さらに不動産所得金額がマイナス(赤字)になった場合は、給与所得金額などほかの所得金額と損益通算することが可能だ。損益通算すると全体の課税所得金額を下げられるため、最終的に所得税や住民税額を抑えることにつながる。
不動産所得金額がマイナス(赤字)になるといっても、必ずしも不動産投資がうまくいっていないケースばかりではない。ポイントは「減価償却の活用」にある。
不動産所得金額の計算では、実際にかかった経費以外に購入した不動産の建物・設備部分の減価償却費も経費計上が可能だ。不動産投資を行ううえで、このような減価償却の仕組みを知っておくことは非常に重要だ。
相続税とは
被相続人(亡くなった人)から相続で財産を取得した際、課税価額の合計額が「基礎控除額」を超える場合にかかる税金のことだ。相続税の基礎控除額は、以下の計算で求められる。
・基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
例えば法定相続人が配偶者と子ども2人の場合、基礎控除額の算出式は以下の通りだ。
・基礎控除額=3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円
このケースでは、相続財産の合計額が4,800万円を超えている場合に、取得金額に応じて10~55%の相続税がかかる。逆に取得した相続財産の評価額が基礎控除額を超えていなければ相続税は課税されず申告も不要だ。
相続税を節税させる仕組み
相続税の節税対策として有効といわれているのが不動産の活用だ。なぜなら不動産の相続税評価額は、おおむね実勢価格を下回り、土地であれば時価の約80%、建物は実際の建築費の約50~70%になるからである。
ちなみに預貯金の場合は、1億円あれば額面の1億円が評価額だ。そのため相続財産を不動産に変えることで相続税評価額を抑える効果がある。
また相続する不動産が収益物件なら、上記以上に評価額を下げることが可能だ。賃貸不動産の場合、自己居住用と異なり賃貸に出して自由に扱えない部分が増えるため、その部分を減額して相続税評価額を算出する。土地と建物の計算式は、以下の通りだ。
・土地:土地の評価額×(1-借地権割合×借家権割合×入居率)
・建物:建物の相続税評価額×(1-借家権割合×入居率)
なお借家権割合は、一律30%と決まっている。一方、借地権割合は30~90%までと幅広く、さらに入居率100%時がもっとも相続税評価額を下げることができる仕組みだ。
【関連記事】不動産投資をすると節税できる?節税の仕組みをわかりやすく解説
不動産投資で得られる節税効果をシミュレーション
1年目の経費計上による節税シミュレーション
(条件)
・サラリーマン年収900万円(38才)
・23区の中古一棟アパート(全8戸)・木造・築10年
・物件価格9,000万円(土地:5,000万円、建物:4,000万円)
・購入時にかかった諸費用:物件価格の5%=450万円
・年間家賃収入:満室時624万円(=6万5,000円×8戸×12ヵ月)
・空室:8戸中2戸が3ヵ月間空室
・運営費用:年間満室想定家賃収入の20%(125万円)
・減価償却期間(耐用年数):法定耐用年数22年-築年数10年+築年数10年×20%=14年
・減価償却費: 4,000万円×耐用年数14年の定額法償却率0.072=288万円
・自己資金:物件取得費の10%(900万円)
・ローン:借入期間20年、借入金額8,100万円、金利2%
・まず不動産所得金額を計算する
不動産所得の金額は、不動産収入からそれにかかった費用を差し引くことで求められる。この場合の収入は、実効総収入:年間満室時賃料(624万円)−空室期間の賃料(6万5,000円×2戸×3ヵ月)=585万円となる。
また費用には、運営費用や購入時にかかった諸費用、さらには減価償却費も含まれるため、最終的な不動産所得金額は、純営業収益:585万円-運営費用(125万円)-物件購入時の諸費用(450万円)-減価償却費(288万円)−初年度ローン利息(約158万円)=-436万円となる。
・不動産投資を行わなかった場合の給与所得金額
給与所得金額は、給与収入から給与所得控除額そして各種所得控除を差し引いた額となる。ちなみに年収900万円における給与所得控除額は195万円なので、給与所得金額は705万円だ。所得控除が「社会保険料控除」「基礎控除」のみの場合、年収900万円の年間社会保険料は約115万円であることから、課税所得金額は705万円-社会保険料控除(115万円)-基礎控除(48万円)=542万円であり、それに対する所得税率は20%(控除額42万7,500円)であることから、最終的な所得税額は65万6,500円となる。
住民税の場合は基礎控除額が43万円となることから、住民税の所得割を計算する際の課税所得金額は705万円-社会保険料控除(115万円)-基礎控除(43万円)=547万円となり、その10%である約55万円が住民税の所得割額となる。
・不動産投資でマイナスが出た場合は損益通算可能
不動産投資における不動産所得金額にマイナスが発生した場合は、給与所得金額と損益通算が可能だ。したがって、総所得金額は705万円-436万円=269万円となり、そこから社会保険料控除および基礎控除額を差し引いた106万円が課税所得金額となる。
そして106万円に対する所得税率は5%(控除額なし)となり、最終的な所得税は5万3,000円である。さらに住民税の所得割額は、269万円-社会保険料控除(115万円)−基礎控除(43万円)=111万円となり、その10%である約11万1,000円に均等割額である5,000円を加えた約12万円の負担となる。
このように不動産投資を行うことで、所得税では65万6,500円-5万3,000円=約60万円、住民税では43万円、合計で103万円の節税効果を得ることができる。不動産所得のマイナスを損益通算することで、かなりの節税効果を生む結果につながるということだ。
2年目以降の経費計上によるシミュレーション
2年目からは、初年度の空室に加え退去が1戸(6ヵ月間空室)と仮定すると、不動産所得金額は以下のようになる。
実効総収入は、満室状態の624万円から空室期間の賃料(6万5,000円×2戸×3ヵ月)+(6万5,000円×1戸×6ヵ月)を差し引いた546万円だ。また経費は、運営費用や減価償却費、ローンの金利を加えた額になる。つまり経費合計は、運営費用(125万円)+減価償却費(288万円)+ローン利息(約152万円)=565万円である。
そのため最終的な不動産所得金額は546万円-565万円=-19万円である。1年目と給与収入が変わらなかった場合、給与所得金額(705万円)から不動産取得金額(-19万円)を引いた686万円が最終的な課税所得金額だ。不動産所得金額の赤字分が節税効果を得られることになる。
相続税の節税シミュレーション
現金8,000万円を相続する場合と固定資産税評価額8,000万円の収益不動産で相続する場合で、どれくらいの差があるのかをシミュレーションしてみよう。
相続人(法定相続人)は、配偶者と子ども1人の合計2人と仮定すると基礎控除額は4,200万円(3,000万円+(600万円×2))だ。現金8,000万円を相続する場合、相続税評価額は時価を用いるため8,000万円となる。
基礎控除を差し引いた課税遺産総額は、3,800万円(8,000万円-4,200万円)。配偶者と子どもの2人で2分の1ずつ分けた場合、一人あたりそれぞれの課税遺産総額となる1,900万円(3,800万円÷2)に対して相続税がかかる。
配偶者は、法定相続分か1億6,000円までのいずれか多い額まで非課税になる配偶者の税額軽減の特例があるため、税務署へ申告をすれば相続税額は0円だ。子どもは、相続税を235万円(1,900万円×相続税率15%-控除50万円)を納めなければならない。
一方で固定資産税評価額8,000万円の収益不動産で相続する場合は、以下のようになる。
・建物の固定資産税評価額:3,000万円
・土地の固定資産税評価額:5,000万円(ただし小規模宅地等の特例を適用するものとする)
・借地権割合50%、賃貸割合100%
(建物の相続税評価額)
3,000万円×(1-借家権割合30%×賃貸割合100%)=2,100万円……①
(土地の相続税評価額)
5,000万円×(1-借家権割合30%×借地権割合50%×賃貸割合100%)=4,250万円
さらに小規模宅地等の特例の適用により4,250万円×50%(200㎡まで)=2,125万円……②
建物①2,100万円+土地②2,125万円=4,225万円
収益不動産の相続税評価額は、土地と建物を合わせて4,225万円となる。基礎控除を差し引いた課税遺産総額は25万円(4,225万円-4,200万円)だ。
現金の相続時と同様に2分の1ずつ相続した場合、それぞれ12万5,000円(25万円÷2)の相続税は、課税遺産総額2万5,000円(25万円×10%)となる。ただし現金での相続同様に配偶者に関しては、配偶者の税額軽減の特例を利用すれば相続税はかからない。このケースでは、子どものみ2万5,000円の相続税を納めることが必要だ。
現金および不動産で相続した場合の相続税をまとめると以下のようになる。
配偶者の相続税 | 子どもの相続税 | |
---|---|---|
現金で相続した場合 | 0円 | 235万円 |
不動産で相続した場合 | 0円 | 2万5,000円 |
差額 | 0円 | ▲232万5,000円 |
つまり約232万5,000円の節税効果が得られるのだ。同額の固定資産税評価額である収益不動産に変えることで相続税の負担が低減できることがわかる。
タワーマンションの節税スキームは現在ではできない
タワーマンションは、不動産投資すると節税効果が高いといわれていた。しかし課税方法が見直されたことで、以前のような節税効果を得ることは難しくなっている。
2022年4月19日には、タワーマンションの土地部分の相続税評価額を「路線価方式」で算定および税額申告した内容を国税局側が不適当とした案件について納税者側が不服申立した裁判の結果、最高裁で国税局側が勝訴した。そのため今後の相続税の節税効果への影響が懸念されている。
・タワーマンションの節税効果とは?
従来タワーマンションでは「固定資産税評価額と時価との開き」「土地の相続税評価額が低いこと」は「小規模宅地等の特例が適用されること」などの理由で大幅な節税ができた。なぜならタワーマンションは、階数が上になるほど価格が上がるのが通例にもかかわらず、固定資産税評価額は階数に関係なく同額となっていたからである。
そのため高層階に位置する物件を購入することで購入価格と固定資産税評価額の差が大きいことから相続税の節税につながっていた。さらに小規模宅地等の特例が適用されれば居住用なら一定の要件を満たすことで相続税評価額を最大80%減額できることも節税効果を生む理由となっていたのである。
・タワーマンションの課税見直しの内容
上述した問題を受け、2017年度の税制改正によりタワーマンションの課税見直しが行われることとなった。具体的には、そのタワーマンションの中央階を100とし、階数が1つ上がるごとに固定資産税および都市計画税を約0.256%上昇させるというものだ。逆に階が1つ下がるごとに減額される仕組みになっている。
例えば50階建てのタワーマンションの場合、最上階である50階と1階では固定資産税および都市計画税に約12%の開きが生じるのだ。
・タワーマンションの課税見直しに該当する物件
今回のタワーマンションの課税見直しは、建物の高さが60メートルを超えるマンションに適用される。一般的に20階建て以上のマンションが該当すると考えていいだろう。
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節税のポイントは減価償却
上の計算では、取得時の初期費用を含めた不動産投資開始1年目を想定している。不動産を購入した年においては、その不動産の取得に関わる費用を経費計上することができるため、節税効果が高いといえる。
しかし、その後も毎年288万円の減価償却費を経費として計上することで、収入を圧縮できる。
減価償却費を考えるうえでのポイント
減価償却費は耐用年数に基づいた乗率を用いて計算する。その際、中古物件の場合、法定耐用年数から経過年数を差し引いた年数に経過年数の20%にあたる年数を加えて計算する。さらに、耐用年数を過ぎている物件であれば、その法定耐用年数に20%を乗じた年数が耐用年数となる。
したがって、中古物件で、耐用年数を超えている場合でも、減価償却は可能であることを覚えておこう。ただし、あまりに耐用年数を過ぎた物件の場合、修繕費用が想定外にかかってしまうというリスクも考慮し、購入の際には、これまでに修繕工事を行っているか、これから発生する修繕工事費用はどのくらいかなどを見極めたうえで購入を決めることをおすすめする。また、減価償却費が計上できるのは耐用年数までであることにも注意しておきたい。
青色申告の制度を併用し、さらなる節税効果を
青色申告は最大65万円の控除や専従者給与を経費に計上できるほか、不動産所得における損失合計所得金額がマイナスとなった場合はこれを3年間繰り越すことができるメリットがある。
また、事業規模を拡大することを視野に入れているなら、個人よりも税率が低く設定されている法人化を検討してもいいだろう。法人化することで、経費の範囲が広がる。
自分がどのような不動産投資を行っていきたいのかを考えながら、不動産投資の形態を考えていくことも、節税を考えるうえで重要なポイントだといえる。
不動産投資による節税に関するQ&A
Q.不動産投資で節税できる税金の種類は?
A.所得税や住民税、相続税などで節税が期待できる。不動産所得金額の計算は、実際に現金支出のない減価償却費を経費計上可能だ。また不動産所得が赤字の場合は、給与所得などと損益通算もできるため、所得税や住民税の算出のもととなる課税所得を圧縮できる。そのためこの仕組みを有効活用することが節税ポイントだ。
また相続税においては、額面金額で評価される現金よりも不動産のほうが相続税評価額を下げることができる。さらに所有する不動産が賃貸物件であればより一層相続税評価額を下げることができること可能だ。相続税は、相続税評価額をもとに算出されるため、評価額を下げることで節税が期待できる。
Q.所得税・住民税をどれくらい節税できるのか?
A.例えば年収900万円の給与所得者が9,000万円の収益物件(戸数8戸)を購入したとしよう。家賃収入を各6万5,000円に設定した場合、初年度から満室経営が維持できたとして計算すると節税額は、以下の通りだ。
・年間賃料収入:624万円(6万5,000円×8戸×12ヵ月)
(所得税の節税額:58万4,000円)
給与所得のみの場合:65万6,500円
不動産投資を行った場合:7万2,500円
(住民税の節税額:約43万円)
給与所得のみの場合:約55万円
不動産投資を行った場合:約12万円
※諸条件については本文参照
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宮路 幸人
会計事務所での長い勤務経験で培った豊富な実務知識により、会計処理・税務処理および経営や税務に関する相談など、さまざまな問題に対応。宅地建物取引士、マンション管理士等の資格を保有し、不動産と相続関連に強みを発揮する。特に相続関連では、税務面だけでなく、家族の幸せを重視したトータルでの提案を行っており、軽いフットワークでお客さまのニーズに応えることをモットーとする。離島支援活動にも積極的。
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