イラン・中国外相会談 習近平の存在によりトランプがイランとの合意に傾く【中国問題グローバル研究所】
5月6日、訪中したイランのアラグチ外相と中国の王毅外相が北京で会談し、二人は習近平国家主席が提唱した「四つの主張」で合意した。イラン攻撃問題に関しては表面化した動きを見せなかった習近平の存在が、ここに来て一気に浮き彫りになり、まもなく訪中して習近平との首脳会談を控えているトランプ大統領が、遂にイランとの合意に傾くという現象を招いているようだ。米メディアのアクシオスが伝えた。
◆アラグチ外相と王毅外相との会談が「習近平の四つの主張」を軸に展開
5月6日の中国の中央テレビ局CCTVは、アラグチ・王毅外相の会談を動画入りで報道した(※2)。そこで何度も出てきたのは「習近平の四つの主張」というフレーズである。
「四つの主張」とは、習近平が4月14日にUAE(アラブ首長国連邦)の首長国の一つであるアブダビ首長国のハリド皇太子と北京で会談した際に提唱した(※3)「イラン攻撃」に関する主張だ。
第一:平和共存の原則を守ること。中東と湾岸諸国は相互依存しており、移動できない隣国だ。
第二:国家主権の原則を守ること。主権はすべての国の生存の基盤であり、侵害されてはならない。
第三:国際法の支配の原則を守ること。ジャングルの法則に戻すことは許されない。
第四:全体的な開発と安全保障を遵守すること。
の4点である。
習近平としては2023年にイランとサウジアラビアを和解させたのをきっかけに(参照:2023年3月12日の論考<中国、イラン・サウジ関係修復を仲介 その先には台湾平和統一と石油人民元>)(※4)、中東各国に和解雪崩現象を起こさせ(参照:2023年4月6日の論考<脱ドル加速と中国仲介後の中東和解外交雪崩現象>)(※5)、中東地域を「和解と平和」により一つにまとめて、「一帯一路」を中心とした経済貿易圏を形成することを目的としていた。それが米イスラエルによるイラン攻撃によって、完全に破壊されていくことことに耐えがたい思いをしていただろう。
しかしトランプとは、トランプが昨年10月30日の韓国における米中首脳会談で「G2」を言い出し始めてからは、それをチャンスとして何としても「緊密な仲」を保っていたい。台湾統一問題があるからだ。
◆アクシオスが「米国とイランは戦争終結合意に近づいている」
5月6日、米メディアのアクシオスが<独占情報:米国とイランは戦争終結に向けた1ページの覚書締結に近づいていると当局者が語る>(※6)という見出しの報道をした。すると、ブルームバーグもロイターも、こぞってアクシオスの報道を取り上げて、世界が「米イランの合意が間近だ」という情報で沸き始めた。ロイターは(※7)アクシオス情報以外にもパキスタン筋の情報が加味されている。
それらによれば、「米国とイラン、戦争終結に向けた1ページ14項目の覚書合意に迫る」と複数の米当局者が語っているという。
その1ページの覚書は「戦闘の終結、ホルムズ海峡の開放、イランの核計画制限、米制裁解除」などに関する詳細な合意に向けた30日間の交渉開始を宣言する内容で、事実、イラン・中国両外相の会談では、王毅が「核問題に関して、中国はイランが核兵器を持たないという約束を高く評価する」と述べている。さらに王毅は「イランには原子力エネルギーを平和的に利用する正当な権利があると確信している」と強調していることは、「覚書」にある「イランの核開発制限」とも大きく離れておらず、イランもこの線で納得していることを示唆している。
覚書にはさらに「イランがウラン濃縮の一時停止を確約、米国が制裁と数十億ドル規模のイラン資産の凍結を解除、双方がホルムズ海峡の通航制限を解除」などが含まれる見通しであることをアクシオスやロイターなどが報じており、まだ不透明感はあるものの、ほぼこの方向に動くのではないかと思われる。
トランプは例によって、「交渉が決裂した場合、米軍は封鎖を再開するか強烈な軍事行動を再開できる」と説明したという。
◆トランプが自らTruthで表明
この説明は、トランプが自らのSNSであるTruthに5月6日、以下のような投稿をしている(※8)ことに基づく。
イランが合意したものを受け入れると仮定すれば(それは大きな前提かもしれませんが)、すでに伝説的なエピック・フューリーは終わりを迎え、非常に効果的な封鎖によりホルムズ海峡はイランを含むすべての人に開かれることになります。もし同意しなければ爆撃が始まり、残念ながら以前よりもはるかに高強度とレベルになるだろう。この件にご注意いただきありがとうございます! ドナルド・J・トランプ大統領
「エピック・フューリー作戦」とは2026年2月28日に米軍とイスラエル軍が共同でイランに対して開始した大規模な軍事攻撃で、「壮絶な怒り作戦」と日本語では訳されている。核・ミサイル関連施設や革命防衛隊の施設を標的とし、短期間での決着を目指したが、イランの反撃により中東情勢が泥沼化し始めた。
トランプがそこから抜け出したいと足掻いていることを習近平が見出して始まったのが4月8日の「2週間停戦」である。このことは4月9日の論考<トランプ「中国がイランを停戦交渉の場に引き込んだ」 習近平の思惑は?>(※9)で書いた。4月25日の論考<習近平の対米パンダ外交から見えてくるイラン情勢>(※10)では、習近平がアラグチ外相を使って外交を始めることを計画し、5月1日の論考<米政府「イラン戦争はすでに終結」と表明 習近平が背後で動いた4月上旬の一時停戦を根拠に>(※11)を経て、遂に5月6日の論考<イラン外相訪中報道だけで、急遽「TACO」るトランプ>(※12)に至ったと考えるのが筋だろう。
中東情勢と米政治だけを見ていたのでは、このトランプの「急変」の謎は解けないのではないだろうか。
トランプは5月6日のTruthでもなお、「もし(イランが)同意しなければ爆撃が始まり、残念ながら以前よりもはるかに高強度とレベルになるだろう」などと強がりを言っているが、これは「最終的な終結は、この俺が導いたのだ」ということを示したい虚栄心だと解釈できる。
習近平としてはトランプがどのような強がりを言っても構わないし、ノーベル平和賞さえ授与するように言った方がいいと、かつてパキスタンのムニール師にアドバイスを与えたほどだ。
習近平にとってトランプがどんなに威張ろうと構わない。
なぜなら習近平の目的はただ一つ。
トランプがイラン攻撃をやめた状態で、米中首脳会談を北京で開催し、トランプを上機嫌にさせた上で、「台湾問題」に関してトランプから譲歩を引き出す。
習近平にとってそれ以上に大きな狙いはないからである。
なお、5月6日(7日更新)のAP通信の報道(※13)には、「トランプが戦争を始めたのに、今や中国がそれを終わらせようとしている。なんて屈辱的なことだ」という読者コメントがあった。
この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※14)より転載しました。
習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://content-static.cctvnews.cctv.com/snow-book/index.html?item_id=4820465994914604161
(※3)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202604/t20260414_11891401.shtml
(※4)https://grici.or.jp/4132
(※5)https://grici.or.jp/4210
(※6)https://www.axios.com/2026/05/06/iran-us-deal-one-page-memo
(※7)https://www.reuters.com/world/china/iran-says-it-wants-comprehensive-agreement-with-us-2026-05-06/
(※8)https://truthsocial.com/@realDonaldTrump/posts/116527444859592032
(※9)https://grici.or.jp/7272
(※10)https://grici.or.jp/7293
(※11)https://grici.or.jp/7305
(※12)https://grici.or.jp/7313
(※13)https://apnews.com/article/iran-us-israel-war-china-may-6-2026-3d061a90ccde095178d9b988d94d08f3
(※14)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/fe9c8c208bedfb6a2841780ca8390658e0f56d9f
<CS>
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