東京ラヂエーター製造:0.6倍台かつ配当利回り5%超えの熱交換器メーカー、新中計でPBR1倍水準を明示
東京ラヂエーター製造<7235>は、トラック・産業建設機械向けを主体とする熱交換器の専業メーカーである。1938年の設立以来、90年近くにわたり商用車の冷却系部品を手掛けており、ラジエーター、インタークーラー、クーリングモジュールなどのアルミ熱交換器、EGRクーラーやオイルクーラーなどのステンレス熱交換器に加え、燃料タンク・SCRタンク・オイルパンといった車体製品を製造・販売している。熱交換器とは、エンジンやモーター、油圧機器などから発生する熱を効率的に移動・放散し、システム全体を適正な温度に維持するための基幹部品である。主力製品であるラジエーター、インタークーラー、EGRクーラー、オイルクーラーは、それぞれ冷却水、吸気、排気ガス、オイルを対象として熱交換を行い、車両の性能向上、燃費改善、排出ガス低減、耐久性向上に貢献している。同社は、いすゞ自動車を中心とする国内商用車・建機メーカーを主要顧客としており、2026年3月期のいすゞ自動車向け売上高は、総販売実績の56%を占める。生産・販売拠点は日本、中国(無錫・重慶)、インドネシア、タイに展開しており、2026年3月期の地域別売上高構成比は日本82%、中国10%、アジア8%と、国内が収益の柱となっている。
同社の強みは、第一に、トラック・建機向け熱交換器における国内トップクラスのポジションである。商用車・建機向けは乗用車と異なり「多品種・多品番・少量生産」が求められる領域でのほか、高負荷・長時間稼働が求められており、車両レイアウトに応じた最適なクーリングモジュールを提案できる設計力と主要顧客との長年にわたる取引関係が高い参入障壁を形成している。国内商用車・建機向けEGRクーラーではトップシェアを有しており、新中計では熱交換器ビジネス全体での国内シェアNo.1を目標に掲げている。第二に、生産現場の見える化・自動化を推進するスマートファクトリー戦略により、少量生産の条件下でも収益を生み出せるモノづくり体制を構築しつつあることである。前中計期間で工場内の自動化は着実に進展しており、新中計ではコスト競争力強化のコア戦略として位置づけられている。第三に、カーボンニュートラル時代を見据えた製品展開力である。商用車のEV化は乗用車に比べ緩やかに進行しており、内燃機関向け製品の需要が当面継続する一方、同社はFCV用ラジエーターやバッテリー熱マネジメント製品、モーターラジエーターなど、電動化・水素化に対応する次世代製品の開発・受注を積み上げており、パワートレーンの多様化を事業機会に転換している。
直近の業績である2026年3月期の通期決算は、売上高35,382百万円(前期比3.9%増)、営業利益2,358百万円(同37.5%増)の増収大幅増益で着地した。国内商用車市場の堅調な需要を背景に日本セグメントが好調に推移し、中国・アジアセグメントの減収を補った。いすゞ自動車向けの数量が増加したことに加え、コスト低減と価格転嫁が寄与しており、前中期経営計画「TRS Vision-2025」で掲げた目標(売上高335億円・営業利益率5.0%)を1年前倒しで達成した。
2027年3月期については、売上高35,500百万円(前期比0.3%増)、営業利益2,450百万円(同3.9%増)と売上高および営業利益率ともに2025年度と同水準を想定している。日本は市場の堅調を背景に増収を見込む一方、中国は市場環境や製品構成の影響で減収を想定し、利益面では生産効率化などの原価低減活動の継続により、日本セグメントを中心に前期を上回る利益を計画している。
市場環境としては、商用車・建機のEV化は地域差を伴い段階的に進行しているが、内燃機関向けラジエーター需要は国内で当面継続する見通しである。加えて、競合環境の変化を背景に国内商用車・建機向けでシェア拡大の機会が存在しており、受注済案件の積み上がりから今後の売上成長余地は高水準にあるとしている。中国では EV化の急進により市場構造の転換が進むものの、FCV向けの需要拡大が見込まれ、アジアでは日系OEMを中心とした現地生産ニーズの拡大が続いており、地域特性に応じた選択と集中が奏功しやすい環境にある。BEVではエンジンがなくなる一方、バッテリー、モーター、インバーター、コンバーターなど複数の冷却対象が生じる。FCEVでは燃料電池スタックや関連部品の温度管理が重要になる。
今後の成長見通しについては、新中期経営計画「TRS Vision-2030」において、最終年度の2030年度に売上高500億円・営業利益率9%・ROE9%以上という目標を掲げている。地域別では日本を296億円から405億円へ、中国を59億円から70億円へ、アジアを29億円から60億円へ拡大させる計画であり、カーボンニュートラル関連および乗用車関連製品で売上高60億円を目指す。ちなみに、中計資料には、2030年度目標となる500億円のうち400億円前半までは既に受注済みと開示されており、拡販活動で上積みを狙う計画となっている。事業戦略では、既存製品の拡販、グローバル展開、新領域の拡大を柱としている。既存製品では、国内商用車・建機市場でのシェアNo.1実現に向け、コスト競争力と製品競争力を高め、収益性を伴う拡販を進める。アルミ熱交換器では製品競争力とコスト競争力の両立、ステンレス熱交換器では高信頼・高耐久ニーズへの対応、車体製品では高収益タイプへのシフトと自動化・省人化による収益基盤構築を掲げている。そのほか、成長投資の裏付けとして、中計期間中に創出する営業キャッシュフロー150億円を、成長投資50億円(M&A20億円を含む)、経営基盤強化50億円、株主還元50億円へ配分するキャッシュアロケーション方針を初めて明示した。資本政策の明確化とIR強化によりROE9%以上・PBR1倍水準の実現を目指すと宣言しており、まずは同水準の達成に注目が集まるところだ。
株主還元については、配当性向40%を目安とした安定的・継続的な還元を掲げている。2026年3月期の年間配当は65円、配当性向は30.3%であった。2027年3月期は年間77円を予想しており、配当性向は40.6%となる見通しである。なお、株主構成面では筆頭株主マレリの保有比率が直近12%強まで段階的に低下しており、親会社色の後退とともに海外バリューファンドが大株主上位に登場するなど、株主構成の多様化と流動性の向上が進んでいる。株価はPBR0.6倍前後、予想PER8倍前後、配当利回り5%前後の水準にあり、見直し余地は大きいと考えられる。
総じて、東京ラヂエーター製造は、商用車EV化が緩やかに進む事業環境を追い風に既存事業で着実に収益を積み上げつつ、CN・乗用車関連という新領域への展開で成長基盤を広げる局面にある。前中計目標の前倒し達成という実績に加え、新中計でキャッシュアロケーションとPBR1倍水準という資本市場へのコミットメントを明確にしたことは、同社の企業価値評価を一段引き上げる転換点となり得る。国内シェアNo.1に向けた拡販の進捗と資本政策の実行力に注目し、今後の企業価値向上に期待していきたい。
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