エヌ・シー・エヌ Research Memo(1):大規模木造建築(非住宅)分野は順調に事業領域を拡大
エヌ・シー・エヌ<7057>は、木造建築の耐震性を確保するための高度な構造計算を事業化するとともに、構造計算された耐震性の高い木造建築を実現するため、鉄骨造やRC造(鉄筋コンクリート構造)で主流だったラーメン構法(骨組み(部材)の各接合箇所を剛接合したもの)を木造住宅に取り入れた同社独自の建築システムであるSE構法を、工務店を中心としたSE構法登録施工店ネットワークを通じて提供する。さらに、木造建築の耐震設計ノウハウを、幼稚園や老人介護施設、店舗やオフィスなど住宅以外の大規模木造建築へ転用し、事業規模の拡大を推進している。
1. 2024年3月期の業績
2024年3月期業績は、売上高7,998百万円(前期比13.4%減)、売上総利益2,204百万円(同6.5%減)、営業利益83百万円(同80.3%減)、経常利益47百万円(同89.5%減)、親会社株主に帰属する当期純利益0百万円(同99.9%減)となった。主力の住宅分野でSE構法登録施工店の拡大に向けての営業活動を推進し、新規に28社加入し、計606社とするなどの成果をあげたが、大口取引先である大手ハウスメーカーの業績悪化等に伴う受注高減少と、資材高騰(ウッドショック)からの回復により相場の落ち着きを見せた主要材料の単価の下落を販売単価に反映したことから、売上高が同31.9%減少した。一方、大規模木造建築(非住宅)分野は好調で、売上高は同61.7%増と成長したものの、全体では減収となった。利益面では、建築基準法改正に伴う2025年以降の構造計算ニーズ増大に向けての積極的なWebマーケティング活動を実施したことにより販管費が増加した。ほかにも、連結子会社3社((株)MAKE HOUSE、(株)木構造デザイン、(株)翠豊)の営業損失19百万円、持分法適用関連会社2社((株)MUJI HOUSE、N&S開発(株))の持分法投資損失及び未実現利益の消去による営業外損失52百万円、同社単体での関連会社の持分法投資損失27百万円の計上により、大幅な減益となった。MUJI HOUSEについては、戸建て住宅販売において、2022年から2023年のウッドショック期に受注していた案件の採算が取れなくなったことが主因で損失を計上した。
2. 2025年3月期の業績予想
2025年3月期の業績予想は、売上高8,976百万円(前期比12.2%増)、営業利益223百万円(同168.6%増)、経常利益285百万円(同497.0%増)、親会社株主に帰属する当期純利益208百万円(前期は0百万円)を見込んでいる。3ヶ年中期計画の2年目となる2025年3月期は、住宅需要の減少という環境要因はあるものの、脱炭素化に向けたグリーン化や2025年からの省エネ基準への適合義務化など、社会的要請に対応した事業の拡大が予測される。これらの好機に応じ、住宅分野では木造住宅における簡易設計の基準強化に対応し、大規模木造建築(非住宅)分野では拡大する非住宅ニーズを捉え、これまで培ってきた技術やノウハウ等を生かして事業を推進することで、成長を目指す。売上高については、住宅分野では5,531百万円(同13.2%増)を見込む。2025年の建築基準法改正により拡大するSE構法の優位性を訴求するため、Webマーケティングを強化し、SE構法出荷数は1,035棟(同14.1%増)を見込む。大規模木造建築(非住宅)分野では3,020百万円(同9.4%増)を見込む。子会社の売上増加に加え、マーケティング活動を強化して事業を拡大する。その他分野では424百万円(同21.3%増)を見込む。2025年の省エネルギー計算の義務化を受けた住宅向け省エネ計算出荷の増加や、非住宅向け省エネ認証(ZEB※化)支援の強化により売上増加を図る。利益面では、増収効果に加え、子会社の黒字化等により大幅な増益を見込む。
※ZEB:ネット・ゼロ・エネルギー・ビルの略。建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した指標。高効率な設備システムの導入により室内環境の質を維持したまま大幅な省エネルギーを実現し、さらに消費するエネルギーをすべて太陽光等再生エネルギーで賄うことを目指す。ZEB化支援事業として認定されれば、環境省、経済産業省から補助金が交付される。
3. 中期計画の進捗状況と今後の成長戦略
中期計画の初年度である2024年3月期について、期初計画に対する実績は、売上高9,055百万円に対して7,998百万円(達成率88.3%)、営業利益233百万円に対して83百万円(同35.7%)と計画を大きく下回った。新設住宅着工戸数が低調に推移した影響等により、住宅分野の進捗が計画を大きく下回ったことが要因であることから、中期計画を見直すことを公表している。
「建築基準法第20条4号特例」の改正(縮小)により、2025年4月から木造2階建て建築でも構造確認が義務化されるため、施行に向けた動きとして木造の構造計算の普及が加速していくことが予想される。また、「省エネ基準の適合義務化」においては、建物の省エネ性能についての説明の義務化にとどまっていたものが、2025年4月からすべての住宅に省エネルギー基準への適合が義務付けられ、省エネ計算が必須となる。こうした背景の下、同社の省エネ計算、構造計算、耐震シミュレーションなどの成長環境は高まっている状況にある。
今後の成長戦略として、(1) 登録施工店数増加による住宅分野のシェア拡大や非住宅分野への販売展開、(2) 構造計算・省エネ計算や部材供給力に、子会社の翠豊が持つ大規模木造建築の特殊加工や施工力を加えた同社独自の非住宅大規模木造建築に関するワンストップサービスの展開、(3) 2025年の建築基準法改正による構造計算、エネルギー計算の需要拡大への対応、(4) 非住宅向けのZEB認定サポートなど建築物の省エネルギー化支援の展開、などを挙げている。
■Key Points
・2024年3月期は住宅分野の厳しい市場環境を受けて減収減益
・2025年3月期は建築基準法改正等からの市場好機を捉え、増収増益を見込む
・大規模木造建築(非住宅)分野はワンストップサービスの提供体制が整い、順調に事業領域を拡大
(執筆:フィスコアナリスト 村瀬智一)
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