EG Research Memo(1):2023年9月期通期は、前期比増収も収益性鈍化
イー・ガーディアン<6050>は、eコマース(EC)やSNS、ソーシャルゲームの運営者向けに、監視や顧客サポートなどを中心に、サイバーセキュリティからデバッグ、運用までをワンストップで提供する総合ネットセキュリティ企業である。2010年に東京証券取引所(以下、東証)マザーズに上場してからは、人材派遣業、デバッグ事業、ネットセキュリティコンサルティング事業、クラウド型サイバーセキュリティ事業などをM&Aで獲得し、“総合ネットセキュリティ企業”としての基盤を確立した。海外展開においてはE-Guardian Philippines Inc.(2017年設立)が拡大中であり、2021年にはE-Guardian Vietnam Co.,Ltd.を設立。近年ではクラウド型セキュリティサービスの(株)グレスアベイルの子会社化(2019年)、ソフトウェア型WAF※のNo.1企業である(株)ジェイピー・セキュアの完全子会社化(2020年)など、サーバーセキュリティ分野を強化している。2023年8月にはチェンジホールディングス<3962>(以下、チェンジHD)と資本業務提携し、サイバーセキュリティ業界の再編をリードする体制を構築した(「成長戦略」の章で詳述)。
※WAF:Web Application Firewallの略。Webアプリ向けの攻撃からWebサイトを保護するシステム。
1. 事業概要
売上高の主力はソーシャルサポートであり、2023年9月期通期で売上高の57.5%を占める。ゲームサポート(売上構成比15.7%)、アド・プロセス(同12.9%)、サイバーセキュリティ(同6.5%)が続く。その他はハードウェアに対するデバッグなどである(同7.4%)。
2. 業績動向
2023年9月期通期の連結業績は、売上高が前期比1.3%増の11,909百万円、営業利益が同21.7%減の1,778百万円、経常利益が同21.9%減の1,806百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同27.2%減の1,229百万円と増収減益となった。売上高が計画未達となった要因としては、新型コロナウイルスワクチン関連などの中型案件の終了や既存案件の規模縮小による売上減を新規案件の獲得でカバーできなかったことなどが挙げられる。営業利益で計画未達となった要因としては、アド・プロセスでの低収益案件発生(収益率改善済み)、博多センターの新規開設による初期投資及びセンター稼働率の停滞などが挙げられる。同社の事業特性上、センターへの投資の直後は稼働率が低くなり費用負担が大きくなる。
2023年9月末の財務指標では、自己資本比率81.0%、流動比率522.9%と安全性が極めて高い。現預金5,749百万円、有利子負債ゼロと資金(調達)余力も十分あり、今後の業界再編、M&A戦略をリードするうえで財務基盤は健全である。
2024年9月期通期の連結業績は、売上高が前期比11.7%増の13,300百万円、営業利益が同9.1%増の1,940百万円、経常利益が同7.9%増の1,950百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同2.5%増の1,260百万円を予想する。売上高の2ケタ成長により稼働率が上昇し、増益基調に回帰する予想である。2024年9月期の基本方針としては、前期の売上・利益の未達要因を改善し、2ケタ増収への回帰を目指す。主力のソーシャルサポート分野では、チェンジHDとの相乗効果により自治体や大企業の顧客を開拓し、エンタープライズ系デジタルBPO領域の業務の拡大が期待できる。一方で2024年9月期の売上高予想には、チェンジHDとの相乗効果は十分織り込んでいない面がある。弊社では、顧客基盤の拡大効果だけでも中期的に大きな成長の可能性があると考えている。また、収益面では、過去営業利益率で17%~20%前後を維持してきた実績からすると、14.6%予想はやや保守的である。進行期は、新センターの投資などがなく、稼働率の向上が見込めるため、利益を出しやすい年でもある。以上の観点から弊社では、同社予想数値は売上高・各利益ともに予想を上回ってくると考えている。
3. 成長戦略
同社は、2023年8月以降にチェンジHDによる株式公開買い付けに賛同し、資本業務提携契約を締結したうえで第三者割当増資を行った。両社の経営陣は元々交友関係があり、ビジネス上でもソーシャルサポートや脆弱性診断などで取引があった。今回、国内におけるサイバーセキュリティ人材の不足や日本のデジタル赤字の拡大に課題を感じ、この領域での業界再編をリードする存在になるという一致した考えを持っていることから資本業務提携へ発展した。また、同社の強みである「技術・人材」とチェンジHDの強みである「コンサルノウハウ・資金・自治体・民間の顧客基盤」を融合することでシナジーが大きいとの共通認識を持つに至った。座組としては、チェンジHDが2023年12月に設立した中間持株会社であるサイリーグホールディングス(株)の傘下に同社が入ることを予定している。サイリーグホールディングスの代表取締役社長には、同社の代表取締役社長である高谷康久(たかたにやすひさ)氏が就任し、同社の議決権所有割合の50.73%(2023年10月11日現在)を所有し、将来的に親会社に該当することとなる。同社は第三者割当増資により3,206百万円の資金を調達した。この資金は、サイバーセキュリティ事業における積極的な人材採用やサイバーセキュリティ業界における将来のM&Aなどに活用する計画である。
4. 株主還元策
同社は収益について、当面は長期的な企業価値向上のため事業投資に優先配分するが、株主への利益還元と内部留保充実のバランスを総合的に判断し、持続的増配にも努めていく方針である。2023年9月期は配当金が年26円(前期比2円増配)、配当性向は21.2%(同6.9ポイント増)と、2013年9月期から11期連続の増配を達成し、配当性向も上昇した。2024年9月期は配当金27円(同1円増配)、配当性向24.6%を予想する。利益の成長とともに近年は配当性向も向上しており、着実な増配が期待できる。
■Key Points
・2023年9月期通期は、前期比増収も収益性鈍化。
既存案件終了による売上減を 新規案件の獲得でカバーできず、
センター新設による稼働率低下などが響き減益に
・2024年9月期通期は売上高133億円と2ケタ成長回帰を予想。
ソーシャルサポート分野とサイバーセキュリティ分野でチェンジHDとの相乗効果が期待できる
・チェンジHDとの資本業務提携を梃子にサイバーセキュリティ市場再編の中核となるべくステージを上げる
・11期連続増配を達成。
2024年9月期は配当金27円予想。
利益成長と配当性向の向上により着実な増配が期待できる
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)
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