ポエック Research Memo(5):円安、デリスキングなどによる製造業の国内回帰の恩恵を受ける
5. メガトレンドへの対応
同社グループは、時流に沿って既存事業の事業機会の獲得や新規事業の育成を継続的に行っている。巨大な世界的潮流であるメガトレンドは、国策を同調させ、企業の事業環境に大きな影響を与える。メガトレンドは、相互作用によって変化の広がりとスピードの両方を加速する。不連続の変化により生じる社会的問題を解決するイノベーションが、商機と成長をもたらす。以下に、代表的なメガトレンドと同社グループの取り組みを記す。
(1) SDGs
メガトレンドの代表的なものとしてSDGsが挙げられる。2015年9月に、国連において150カ国を超える世界のリーダーが参加して開かれた「国連持続可能な開発サミット」において採択された。2030年を期限とし、社会、経済、環境の調和を追求する「17の目標」と「169のターゲット(具体目標)」で構成される。目標の14は「海洋資源 海の豊かさを守ろう」、目標の15は「陸上資源 陸の豊かさも守ろう」になる。世界の平均気温の上昇を受け、2023年夏に国連事務総長は会見で「地球温暖化(Global Warming)の時代は終わり、地球沸騰化(Global Boiling)の時代が到来した」と警告を発した。2023年は、異常高温による山火事の発生、少雨による干ばつ、台風や集中豪雨による河川の氾濫・洪水が引き起こされた。「地球沸騰化」による環境の変化は、農産物の生育障害や品質低下など、農業生産にも影響を及ぼしている。河川の氾濫に関しては、同社グループの景観配慮型防潮壁「SEAWALL」の需要が伸びていることを述べた。水産物養殖設備ではニッチトップの子会社を持ち、新規事業としてナノバブルを活用した農作物の水耕栽培及び関連装置の事業化に取り組む。
(2) カーボンニュートラル実現
世界は、2050年をめどとするカーボンニュートラル実現に動いている。日本政府も2021年10月に宣言した。大企業は、自社のCO2排出量の削減目標と実行計画を発表するようになった。2030年の中間目標、2050年のカーボンニュートラル実現まで終わることがない。海運業では、国際海事機関(IMO)が国際海運全体の燃費効率(輸送量あたりの温室効果ガス(GHG)排出量)を2008年比で2030年までに40%以上改善し、2050年に国際海運からの総排出量を50%以上削減し、今世紀中なるべく早期に排出ゼロとする目標を発表している。現在の船舶燃料は重油になるが、CO2排出量の削減のため次世代燃料のLNG、水素、アンモニア、エタノールに置き換える。同社グループ企業は、現在船舶用ディーゼルエンジンの燃料噴射弁など精密部品を製造している。今後は、水素やアンモニアになど次世代燃料を使用する内燃機関の部品の開発・製造に乗り出すことになろう。自動車関連では、次世代車用の水素ステーションの設置などがあてはまる。
(3) 循環型社会
循環型社会は、大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済社会から脱却し、生産から流通、消費、廃棄に至るまで、物質の効率的な利用やリサイクルを進める。天然資源の消費を抑制し、環境への負荷が低減するため、3つのR(Reduce、Reuse、Recycle)が行われる。同社グループが新規事業として関わる亜臨界水プラントは、高温高圧により細菌やウイルスを消滅させ、有機物質の再利用を可能にし、廃棄物を減量化する。また、焼却処理の燃焼のような高温を必要とせず、CO2排出量でも優位になる。
(4) デカップリング
世界の分断が進む。グローバル化が経済の効率性と低コスト化で世界貿易を拡大したが、コロナ禍によるサプライチェーンの混乱や米中経済対立によるデカップリングなどによりコスト一辺倒が見直されている。電気自動車(EV)などで、自国内生産のみを対象とする補助金制度を導入する国も現われた。日本においても、製造業の国内回帰が見られる。その場合、単に海外生産を日本に戻すのではなく、新しい事業環境に適した製品の開発を進めることになる。製造業は、円高時にグローバル化を進め、海外生産移管をして国内空洞化を招いた。円安と、デリスキングなどによる製造業の国内回帰により、社歴が長く、技術の蓄積がある同社グループの製造企業は恩恵を受けている。
(5) 国内生産回帰
インフレ高進から、欧米諸国が政策金利を短期間に大幅に引き上げた。日本は金融緩和策を継続しており、円は主要通貨の中で独歩安の様相を呈している。円は、米ドルに対して33年ぶりの安値になり、円の総合的な購買力を示す実質実効為替レートは53年ぶりの低水準に落ちた。国際相場において食料品争奪戦で日本が買い負けるリスクが高まっている。日本の食料自給率は、かつてない水準まで下落している。食料安保の観点からも安定的な供給を可能とする先進的な生産体制の構築が望まれる。同社グループ企業は水産物の養殖設備関連や農作物の水耕栽培事業で関わる。
(6) DX(デジタル・トランスフォーメーション)
DXは、デジタル技術を社会に浸透させて人々の生活をより良いものへと変革することを指す。後述する新規事業として、三和テスコがベルトコンベア軸受損傷検知システム「TorqueOn トルクオン」を開発した。従来の人力に依存していた検査作業は、生産年齢の人口減少から持続困難となる。同子会社は、センサー技術を活用したシステムを開発した。既に、大手鉄鋼メーカーや電力会社から引き合いを受けている。
6. グループ経営の強み
国内の新興市場に新規上場した企業の多くは、上場前後に収益のピークを付け、その後低下する傾向がみられる。一方、同社は、上場メリットを生かしてグループの業容を拡大している。上場メリットとして、知名度の向上、社会的信用力のアップ、採用、資金調達の多様化、M&Aなどが挙げられる。上場直前期の2017年8月期と直近期である2023年8月期の連結業績を比べると、売上高は4,942百万円から7,052百万円と42.7%増加、営業利益は129百万円から403百万円へ211.4%増加、総資産が7,127百万円から9,777百万円へ37.2%増加、自己資本が882百万円から3,963百万円へ349.3%増加した。自己資本比率は上場直前期の12.4%から40.5%へ良化した。売上高営業利益率は、2.6%から5.7%へ上昇した。財務の安全性を向上したうえで、直近期のROEは8.0%になった。連単倍率は、売上高が2017年8月期の1.46倍が2023年8月期には1.87倍へ、営業利益では1.24倍から5.23倍へと拡大した。株式上場後に3回のM&Aを行い、連結業績を拡大している。
ニッチトップ企業であっても、単品経営であれば外部環境の大きな変化をまともに受けてしまう。同社グループはユーザー業界の異なる複数の事業を展開することで、外部環境変化による影響を吸収し、グループ全体で成長分野への投資を活発化させている。
防災・安全事業の加圧送水型消火装置「ナイアス」は、製品の独自性から輝かしい受賞歴を持つ。しかし、コロナ禍によりメインターゲットとする病院や福祉施設の需要は一時的に減退してしまった。消火設備用加圧送水装置の製造を担当する三和テスコは、環境・エネルギー事業及び動力・重機等事業にも従事している。防災・安全事業の売上高は、2024年8月期に大幅な減少が予想されている。短期的には厳しい状況に陥っているが、中長期的な需要がなくなったわけではなく、原子力発電所や水素ステーション向けへの需要増加が期待される。
連結売上高は、コロナ禍前の2019年8月期の5,641百万円から落ち込むことなく、ポストコロナの2023年8月期に7,052百万円に拡大した。連結営業利益は、コロナ禍前の207百万円から403百万円に増加した。利益面では、防災・安全事業の落ち込みを他の2事業の増加が補って余りある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 瀬川 健)
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